数の暴力(差別)
まず、手前の三人が一斉に飛びかかってきた。
右側の男はサッカーボールで切りかかってきた。ボールをいくつも組み合わせて両手剣を作ったようだ。
真ん中の男はトイレで俺を串刺しにしようとしてくる。トイレの便座を何かで削って二股の槍のような武器にしている。
左側の女はコンタクトレンズで殴りかかってくる。乾かしたコンタクトレンズを数千枚ほど縦に並べて鉄の棒のようにしている。サスペンス小説でよくあるコインで人を殴り殺して証拠隠滅のアレだ。ただ、コインじゃなくてもっともろいコンタクトレンズだけどな。
俺はドラゴンナイトに変身。右手に水の大剣を生成。回転しつつ殴り払う。大剣は質量たっぷりだ。
左足を軸足にして、一回転。剣の腹が三人の差別主義者どもを同時に吹き飛ばす。
「おらああああっ!」
重たい水の塊を背負い投げしているみたいだ。
「ぶっ飛べ!」
三人は遥か彼方に吹き飛んだ。そう思ったのも束の間、続いて五人の大男が飛びかかってきた。手に手にパワーワードの武器を持っている。浮き輪のハンマー。シャーペンの芯でできたバット。毛糸でできた剣。
完全に多勢に無勢状態だ。個々の力では圧倒しているが、数の暴力で圧されている。火を見るより明らかな劣勢だ。
「かかってこい! この卑怯者どもっ!」
そして、俺はあっという間に三十人の野蛮な差別主義者を地面のマットに沈めた。
だが続いて、“さらに三十人の差別主義者ども”が現れた。
「くそっ! まだいるのか!」
俺は滝壺の水を大きく飲み込んだ。食堂に雪崩のように水が滑り込む。竜騎士のどでかい胃袋に水が蓄積されていく。吐き気と嘔吐感とむせ返るような胃の圧迫感が腹で叫んでいる。
水を飲み込みながら、頭の中で竜王のブレスのイメージを反芻させる。大きく口腔で溜められたエネルギーを一気に吐き出す。あのイメージだ!
そして、振り返りつつ、水の火炎放射をお見舞いした。あまりの冷熱で喉が裂ける。食道を切り裂きながら水が飛び出る。破れた喉からは血液が水に混じる。
ドラゴンブレスを出すのは、ちょうど病気の時にもどすのと同じような感覚だ。だが、あれの千倍きつい。腹の奥からスイカを捻り出しているみたいだ。だが、きついのと同時に空間をねじるほどのパワーは俺の心を滾らせてくれた。
圧倒的なパワーは三十人のパワーワード使いを一撃で、根こそぎ、吹き飛ばした。
超水圧で吹き飛ばされた虫たちは、次々と地面に落ちる。そして、“さらに三十人のパワーワード使いども”が現れた。
「まだいるのかっ……!」
俺は虫の息で喘ぐ。
そいつらは弱りつつある俺に容赦も遠慮もなく襲いかかってきた。
俺は裂傷を負いつつもなんとか三十人倒し切った。
「どうせまだ出てくるんだろ?」
そして、“さらに五十人の差別主義者”が現れた。
「群れないと何にもできないのかっ! このくそったれどもがあああああああ!」
次々と差別主義者たちは現れる。影から影から出てくる。こうしている間にも援軍が呼ばれていることだろう。
俺はチラリと目の端で滝壺を見た。水はもうほとんど干上がっていた。当然だ。俺の能力は周囲の水を利用する力。あれだけ激しく暴れれば、水はいつか消える。
拳に渾身の力を込める。筋繊維が音を立てて弾ける。皮膚を食い破って血が体外に飛び出る。痛みが皮膚の上で神経を焼いているみたいだ。
そして、俺は五十人の差別主義者どもを殴り倒した。
「はあ、はあ。はあ。はあはあ」
顎の骨が砕かれて、顎は外れている。うまく呼吸ができない。開けっぱなしの窓から二酸化炭素がダダ漏れだ。
肺が燃えるように熱い。頭の中がガンガンしてぼーっとする。まるで脳内の臓器を全部引き摺り出されたかのようだ。思考が遅く、痛みと疲労を感じにくくなってきた。
俺は震える頭を動かして、両の瞳で周囲を探る。
「これで全員か?」
だが、“さらに百人の差別主義者ども”が現れた。




