多勢に無勢
オクトパスの足は根元から引きちぎられて、無様に空をまった。三本の足は全て切断された。残りゼロ本。
「ばかな……」
オクトパスは膝から崩れ落ちた。
「お前の負けだ」
ココは差別主義者の喉元に剣をあてがう。
俺たちは、
「「「いやったあああああ! ココちゃんが勝った!」」」
勝利の喜びを分かち合った。胸の間から歓喜が温度と共に空気に溶ける。溢れる喜びはまるで色とりどりの花束のようだ。
胸の中に咲き誇る色は、赤、オレンジ、黄、緑、水色、青、紫の七色。性的少数派を支持する虹の七色だ。
俺たちは嬉しそうな、安堵したようなココに駆け寄った。周囲の水に喜びが火花を弾く。
ココは差別に打ち勝ったんだ。差別主義者なんて大したことないことを証明したんだ。
差別主義者はただ数が多いだけ。別に優っているわけではない。そう……ただ数が多いんだ。
ザバアアアっ!
その瞬間、ココの足元の水中に潜んでいた別の差別主義者がココの胸を串刺しにした。ココは自分の体から垂れ流れる血飛沫を見て、
「何……これ?」
鮮血が水面をまだらに飾る。血潮が透明な水を染めていく。人間の悪意に底などない。
次々と水の中から差別主義者たちが現れる。そして、一斉にココを串刺しにした。
次々と長剣がココの体を食べていく。まるで銀剣で生花をしているみたいだ。剣は美しくココの体表で花を咲かせる。血が銀色に程よいアクセントを加える。
「よせえええええええ!」
俺たちは弾けたように、ココに向かって走る。
「この正真正銘の外道どもがっ!」
俺は怒りの炎を水剣の中で燃やす。右から大振りで差別主義者どもにぶつける。彼らは攻撃を弾き背後に一斉に下がる。
アリシアとゴリアテがココを抱き抱える。
「ココちゃん! しっかりして!」
「そんな……そんな……あんまりでしゅ」
「アリシア! ゴリアテ! ココを連れていけ! 早くっっっ!」
「あなたは?」
「足止めをする」
差別主義者どもはさらに森の奥や、水の下から這い出てくる。男女様々。人数は三十人ほど。その中には、俺たちが差別主義者の容疑者として調査していた奴らもいる。あいつらは全員が差別主義者だったのだ。どいつもこいつも手にパワーワードで武器を構えている。花粉でできた槌。サビでできた拳銃。紅茶でできた弓矢。
「そんなことをしたらあなたが死んじゃう!」
「俺は大丈夫だ! それよりココをなんとかしてくれ! こんなの……酷すぎる」
「ケン。必ず生きて」
アリシアが俺の頬に右手を当てる。目は少しうるんで、今にも泣き出しそうだ。
「大丈夫だ。行け!」
アリシアとゴリアテは去っていった。
そして、俺は多勢に無勢の勝負を挑まざるを得なくなった。




