俺はココを助けなかった
「ココは能力を開花できていないんだ。俺の『水よ! 燃えろ!』や、アリシアの『炎よ! 濡れろ!』みたいな技を使えないんだ」
そして、心配そうな瞳でココを見つめるゴリアテが、
「ココちゃんは、今まさにそれを発動しようとしているでしゅ。要はぶっつけ本番で勝とうとしているでしゅ!」
ゴリアテの目には涙が潤んでいた。
「オクトパスは『虹よ! 砕け散れ!』と言っていた。だからオクトパスの方がパワーワード使いとしての腕は格段に上だ」
「負けないで……ココちゃん」
オクトパスはニヤケづらで、
「わしら差別主義者がなんで差別をするかわかるかの?」
「そんなこと知りたくもないっ!」
「それはすごく単純じゃ。ただ……何となくじゃよ。なんとなく気に食わないのじゃ」
オクトパスは残り三本の触手を一本に束ねる。激しくタコの皮膚が泡立ち沸騰を始める。
それに対して、ココはただ右手の剣を構えるのみ。
オクトパスは三本足をさらに強固に結合させる。膨れ上がった筋肉の塊は聳え立つ山のよう。盛り上がり、隆起し、ココを踏み潰そうとする。
ココはただ右手の剣を構える。
オクトパスは筋肉の塊を一本の剣にした。巨大な筋肉は大剣となった。
ココは小さい剣を右手で強く握りしめる。
戦いを見守るアリシアが、
「ねえ。あれ加勢しなくても大丈夫?」
「大丈夫だ! ココは勝つ!」
そして、オクトパスとココは互いに双方向から走り、近寄る。
「虹よ! 砕け散れ!」「花よ! 食い尽くせ!」
オクトパスの肉剣は虹色に輝き膨張する。だが、ココの剣からは何も発生しない。
戦いを見守るアリシアは、
「能力の発動に失敗した!」
「そんな! あんなに頑張ったのに! もう勝ち目がないでしゅ! ケンくん! ココちゃんを助けてあげて!」
俺は頭の中にココとの約束を思い描いた。
【ココが負けそうになったときは、俺が助けにいく。だから俺が負けそうになったときはココが俺のことを助けてくれ】
そして、俺はココを助けなかった。
ココは能力を発動できなかった。
ココとオクトパスは互いを力一杯切り裂きあった。互いの憎しみをぶつけ合う。
ココは必死で努力した。だけど最後まで能力を発動することができなかった。そして、“無能力の状態のまま通常の斬撃のみ”でオクトパスの攻撃を上回った。




