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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第五巻 LGBTの世界
209/260

最終決戦オクトパス

俺たちはココを呼び出して、

「「「退院おめでとーーーー!」」」

「退院? 退院したのは数週間前だけど……?」

「いいんだよ。細かいことは!」

「バタバタしていて何もあげていなかったからね!」

「うおおおい。おいおいおい」

ゴリアテはまだ泣いている。泣き方がおっさんくさい。

ココは俺たちからプレゼントボックスを受け取り、開けた。

「うわあ! 綺麗! これ僕にくれるの?」

俺たちがあげたのはイヤリング。ココはそれを右耳につけた。

「すっごく似合っていましゅよ! 赤い瞳に合わせた赤いイヤリングでしゅ!」

「とっても可愛いわ!」

「ココ! それはお前のアイデンティティー。強さの象徴だ! いついかな――」

「うっわー! すっごい可愛いでしゅね! いいでしゅ。いいでしゅよ!」

いいところだったのにゴリラが邪魔をする。ってか声でけーよこいつ。

「ねえ。ちょっと聞けよ。そのイヤリングは、ココがココであるためのものなんだ! だから――」

「うわっほい! とってもおしゃれじゃない! 私もイヤリングつけようかしら?」

アリシアがうるさい。

「なあ。聞けって。そのイヤリングはな――」

「ゴリちゃん! アリちゃん! どうもありがとう! 僕、一生大切にするよ! 何がっても絶対にずっとこのイヤリングだけは手放さない!」

俺の話は誰も聞いていなかった。っていうか俺もお金出してんだけど、なんで俺だけスルー?



そして、ココはさらに頑張った。途中、バカにされることも、意地悪なことを言われることも何度もあった。それでも自分は自分だと自覚した。来る日も来る日もがんばった。

「花よ! 食い尽くせ!」

だけど、努力の成果は出なかった。


そして、そのままオクトパスとの決戦の日はきた。

「オクトパスの居場所が判明した。ココの修行は終わっていないが、今日でケリをつけよう! これ以上犠牲者は出せない」

「頑張りまちょう!」

「今日この日をもって、この国から差別主義者は消える」

「うん!」

「そして、この国を変えるのは俺じゃない。ココだ」

「わかっている。僕がやらないといけないんだ! みんなは僕の指示に従って! 僕が勝つところをしっかりと見ていてほしい!」

その瞬間、俺の頭の中に予知が見えた。


[予知]

戦場に一人の人間が立っている。それはまるで砂漠に咲くバラのよう。まっさらな紙の上に落ちるインクの一雫。顔はよく見えないが、確かに誰かの後ろ姿が見える。

黒光する爆煙が空を焼いている。焼けた土の匂いが鼻を刺す。焦げた空気はまるで蜜のようにねばついている。

荒れた大地が、その者の力を荒々しく削り行く。

俺にはわかる、それは強くなったココだ。ぼんやりした映像からははっきりとした何かは見えない。だけど確信している、ココは誰よりも強くなった。

頭の中に描かれたココは、ピンチになった俺のことを助けてくれる。

これがいつを表しているのかわからない。だけど未来のどこかでこのシーンは起こり得る。



そして、脳内から予知の映像は次第に消えていく。徐々に落ちていくモニターの画面のように色あせ……消えた。


俺たちは、歩幅を合わせることなく歩いていく。戦いの前の静けさが、やけにうるさく耳に残る。

一定のリズムで地面を叩く足音は、心臓の音と互い違いに音を作る。交互に体に響く音は、俺の体を休ませない。緊張の渦の中に飲み込み……閉じ込める。

暗い部屋の中に閉じ込められているみたいだ。真っ暗で何もない部屋は、静寂で俺を押しつぶす。冷たい沈黙の中で、心臓の音だけが羽を伸ばす。

手足の梢までもが沈黙で濡れている。


コンコン――


コンコン――


誰かが俺をノックする。


「大丈夫?」

「え? ああ」

俺に声をかけたのは、ココだった。

「すごく思い詰めたような表情をしてたけど」

「いや、大丈夫だ」

「あまり無理しないでね。僕を……頼って」

ココはしっかりと強い表情を見せた。それを見て、俺は頼もしくなった。

「ああ。さっきココが俺を助けてくれる予知が見えたんだ。きっとあの予知は現実になる! 俺が負けそうになったときはココが俺のことを助けてくれ!」

「うん! 約束だよね!」

そして、俺たちはオクトパスのねぐらにたどり着いた。ねぐらは山の奥にある滝壺の中だった。頭上から降り注ぐ水の流星群が、水溜りに大瀑布を作り出す。渦潮がいくつも水の中でトグロを巻いている。水しぶきが無色透明な絵具で空に色を付け加える。

そこにオクトパスはいた。


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