ダブルトラップ
俺は空中から滑り落ちるようにして、首筋を狙い撃つ。音もなく、風もなく、ただ閃光のように一瞬だけ力を放てばいい。限界まで力を抜いて、極限までリラックス。力を込めるのは、首を切断する一瞬だけ!
ティラノサウルスは俺の水分身にかじりついた。パシャリという音がして囮はその役目を終えた。
「な、なんだ? 罠か?」
ティラノサウルスは罠に気づいた。だけどもう遅い!
「もらった!」
そして、俺の渾身の一撃が巨大な恐竜の首を切り落とした。
大きな音とともに、恐竜の頭部は地面にキスをした。
「これで事件は解決だな」
すると、恐竜の体は弱々しく脈打ち始めた。プルプル震えて縮んでいく。きっと変身が解けるのだろう。
そして、オクトパスの変身は解けた。俺はそれを見て――
「しまった。罠だ」
俺は“罠にはめられていたのが自分だ”ということにようやく気づいた。だが気づいた時にはもう遅かった。
[同時刻 アリシア視点]
私は、“オクトパスを追っていったケン”を追った。だけどなぜか彼とは合流することができなかった。その代わりオクトパスを発見し、戦った。結果は私の勝利だった。ここまではよかった。だけど――
私は殺したオクトパスを見つめた。
「これってどういうこと? まさか罠?」
私は頭の中で思惑した。考えを癌のように脳裏に張り巡らせる。
「だからケンがどこにもいなかったのね。ケンも罠にはめられていたんだ! だとしたらココちゃんが危ない!」
私は踵を引き返す。
間に合って! お願い!
そんな願いはただの自分を誤魔化すためのもの。不安な心を押し込むためだけの文句。祈っても願っても結果が変わるはずなどないのに……
[ケン視点]
森の中を走る。走ってきた道をまっすぐに戻っていく。木の葉を踏み抜き、枝を砕いて矢のように進む。すると、前方にアリシアがいるのが見えた。
「アリシアっ!」
アリシアは振り返り、俺に向かって剣を抜いた。
(やはりな)
「止まって! 本物のケンだっていう証拠を見せて!」
「俺とアリシアが初めて会った時に、遭遇したモンスターはテッポウナギ。俺の正体はアリシアの“見えない友達”。俺が能力の限界を超えた時のパワーワードは“私たち友達でしょ?”だ。お前も何か証拠を見せてくれ!」
「わかったわ。私の好物はちくわだんご。好きな飲み物は美味しいもの。そして、ケンが大事にしていた高級クッキーをこっそり食べたのは私よ!」
アリシアは大真面目な顔で言った。
「…………」
「どうしたの? もしやあなた偽物?」
俺はアリシアに近寄ると、頬をむぎゅーと引っ張った。
「それじゃ本物のアリシアだっていう証拠にならないだろー! っていうかお前が俺のクッキー食ったのか!」
「いはいいはいいはい! やめへー!」
「というかこのバカさ加減が本物の証拠だな……」
俺は頬から手を離した。
「アリシアの方のオクトパスも囮だったか?」
「ええ。殺したら、変身が解けてタコの足になったわ」
俺たちは、オクトパスの罠にまんまと騙された。足だけをちぎって囮にしてやがったのだ。
「「ココが危ない!」」




