逆髭剃り
俺は別の商品を手に取った。
「魔法少女の標準装備って書いてあるな」
俺が手に取ったのは、魔法少女の普通の初期装備だ。
「それは……普通の魔法少女用の……装備だよ」
「そっか! それならコメントは要らないな!」
俺は魔法少女用の装備をそっと棚に戻した。
これは普通の魔法少女用のものだ。だから特にコメントはない。
アリシアがトタトタと足音を立てながら跳ねるようにしてこちらにきた。
「ねえ! ケン! あっちにおねべ屋さんがあるわよ! 今度はそっちにいきましょう!」
「いや、俺まだ見終わっていないんだけど……」
アリシアは俺を引きずっておなべ屋さんに連れ込んだ。
おなべ屋さんの店内はさっきの店とそっくりだった。
「ちょっと! これ見てみ!」
「なんだこれ? 女性用逆髭剃り?」
「試して見なさいな!」
なんで俺が? と思いながら、お試し品を使って見た。
見た目は普通のシェーバー。
普通に電源を入れて、普通に顎に押し当てて見た。
ズビビビビビビビビビ。
普通のシェーバーならジョリジョリジョリジョリという音がするはずなのに変だな。
アリシアの顔を見ると、“やっちゃった”みたいな顔をしている。
「どうした? “やっちゃった”みたいな顔をしているけど?」
「やっちゃった……」
俺はシェービングをやめて鏡を見た。
そこには、
「え? なんで髭が生えているの?」
髭を剃ったはずの俺の頬には、青髭がたくさん生えている。
まるで人工的に髭を植え付けたみたいだ。
「お兄ちゃん。それおなべ用の逆髭剃りでちゅよ!
なんでお兄ちゃんが使うんでしゅか? 頭大丈夫でしゅか?」
「ひいいいい! なんで髭剃ったら、髭が増えているんだよ!」
「あっはっはっはっはー!」
バカアリシアは大爆笑している。腹たつ。
「それは逆髭剃りでちゅ。髭をそった箇所に髭を生やすんでしゅよ!」
「意味わかんねーよっ!」
「それはおなべさん用のアイテム……ツルツルの顎に髭をつけまみたいにつけるの……男らしくなるでしょ……」
よく見ると、髭形をした黒い人工毛髪みたいなものが顎にくっついているだけだ。
「じゃあ髭のつけまってことか? つけまつけるってことか?」
『パワーワードを感知しました。ケンの能力が上がります』
「ケン。似合っているわよ! 男らしい!」
「そんなわけあるか! 俺まだこんなにたくさん髭が生える年齢じゃないんだけど!
しかもこれ男がつけるやつじゃないんだろ!」
「そうよ!」
「じゃあオメーがやれ!」
ズビビビビビビビビビ。
アリシアは男前になった。




