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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第一巻 第二章 椅子の家
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届かない手紙が届かない

俺はテーブルに出しっぱなしになっている白い紙に、筆を走らせた。


『アリシアへ。今日もまた部下が死んだ。

でももうあまり苦しくなくなってきた。

アリシアが消えてから俺は一人ぼっちになった。

アリシアが俺と出会う前にずっと一人で暮らしていただろ? 


あの時の気持ちが少しわかる様になった。

アリシアは()()()()()()を頭の中に描いてそいつと喋っていたんだよな。


俺はたまにアリシアのことを頭に浮かべる。

だけど、俺の頭の中にいるアリシアは俺に何も喋りかけてくれない。

だからこうして手紙を書くんだ』



俺は四年間の間、時間があればアリシアに手紙を書いていた。


宛名には住所は書かずに、ただ『アリシアへ』とだけ書いていた。

もちろん何度も送り返された。

俺はそれが嫌になって、自分の住所を書かない様にした。


こうすれば送り返されることはない。


「こうすると、()()()()()()()()()()()()()様な気がするんだ」


しばらくペンを走らせると、突然手が止まってしまった。


「またか」

いつもそうだ。アリシアは一番大切な友達。

そのはずなのに、もう頭に何も浮かんでこない。


静かな部屋の中で孤独は手の平の形になり、俺の心臓を握りつぶす。


俺は透明な壁。時の流れに逆らい、ただ永遠にそこに突っ立っている。


時の濁流が俺にぶつかって砕ける。その度に、時の破片が俺の体に突き刺さる。


『早く忘れて前に進め』、『もうアリシアは戻ってこない』そう言われている様な気がした。


そんなことわかっている。俺が誰よりもわかっている。


ただ時が流れていくだけなのに、それが身を切るような痛みに感じた。


窓から差し込む光のような風がろうそくの火を揺らす。踊る炎を見て、

「アリシア。お前に会いたい」

心の中に閉じ込めていた何かが溢れる。



こんな時に俺はいつも妄想をする、突然俺の部屋に入ってきた部下が、『リーダー。()()()()()()()()()()()()』と言うところを。


その瞬間、勢いよく俺の部屋のドアが開いた。

部屋に入ってきたのは俺の部下だった。

「どうしたっ?」


「リーダー。()()()()()()()()()!」


「わかった」

俺は急いで支度をすると、最後の決戦に向かった。


なぜ最後になるかは、うまく説明できなかった。


だけどこの戦いで最後になる。そんな気がした。


夜の街に冷たい風が流れを生み出す。

空を見上げると、星屑が夜空に美しい刺繍を施していた。


煌く星はまるで魂の欠片。その一つ一つが誰かの命のともし火。


吹き抜ける風が縫う様に、街の建物の隙間を這いずってくる。

心地よい夜風が俺の魂を洗い清める。


人間の魂を写し取る鏡があったら見てみたいと思うだろうか? 

俺は見たくなんてない。そこには、綺麗なものなんてもう何も写っていない。


あるのは、ウルフに対する憎悪だけだ。もうなぜ彼と戦っているのは忘れた。


お互いがお互いの死を願い、憎しみあった。傷つけあい、罵り合い、負のフラストレーションに堕ちていく。


ぐるぐるぐるぐる堕ちていく。回転して、回転して、また回転する。

人生にどん底なんてない。あるのはただの真っ暗な空間。


永遠にどこまでもいつまでも堕ち続けるだけだ。


「ウルフはどこにいる?」

「は! ウルフは街の噴水広場の中央です」


「わかった。()()()()()()()()()()()()()()()! 俺が一人で来たと思わせたい」

「では、では我々は少し待機してから包囲します」


「ガリム、確かお前空気を操るパワーワード使いだったな」

俺は副リーダーのガリムに言った。ガリムはロイと同じように空気を操るパワーワード使いだ。空気の流れを自在に操り戦う。俺が最も信頼する部下だ。


「はい。そうです」

「俺が単独行動する間お前が指揮をとれ! 

タイミングはお前に任せる。イケると判断したら俺ごとでもやれ! 

躊躇するな! 今夜でケリをつけるぞっ!」


「「「はっ!」」」

そして、俺は部下たちを置いて一人で噴水広場に向かった。



「アリシア待っていてくれ。俺もすぐにそっちにいく。俺が死んだらもう一度友達になってくれ」

アリシアが生きているはずない。

そんなこととっくにわかっていた。


生きているなら友達の俺に連絡くらいするはず。

アリシアは死んだんだ。


俺は噴水広場の目の前まで来た。アリシアとの思い出をいくつも思い浮かべる。

泡沫に閉じ込められた思い出は、いつまでも色褪せない輝きを放つ。


暗い俺の心の中の唯一の希望の星だった。


この世界に来て記憶を失っている俺を助けてくれたアリシア。


まずい飯を作ってくれたアリシア。


辛い時に励ましてくれたアリシア。


褒められて嬉しそうにするアリシア。


俺は彼女の記憶の破片を頭の中から振り払う。こんな記憶があっても戦いの邪魔だ。


噴水広場に着くと、ゆっくりと歩を進めていく。

時がシトシトと時雨の様に俺の体にぶつかる。


ゆっくりと一歩一歩地面を踏みしめる。腰に差していた剣を引き抜く。

月光を反射した剣は鈍く光る。噴水の前に()()いる。


「おい!」

俺はその人物に声をかける。


噴水の水が星の光を反射して、俺の顔にぶつかる。


光で目が濡れた。俺は目をすぼめながら、さらに噴水に近づいていく。


広場には噴水の柔らかな水の音だけが流れる。



そして、噴水の前にいた人物に声をかける。




()()()()?」




止まっていた歯車が動き出す。

停止していた世界が溶ける。


再び動き出した歯車はもう止まらない。


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