ちょっとまちな!
「ココちゃんは人とコミュニケーションを取るのが苦手なんでしゅよ。
悪い子じゃないから仲良くちてくだちゃい」
ゴリアテがココのおかっぱ頭を撫でる。ココはすごくすごくすごくシャイなのだろう。
こんなに大人しい人に会うのは生まれて初めてだ。
でも、大人しいのは悪いことではない。別に誰に迷惑をかけているわけでもないしな。
性差別主義者を捕まえて欲しいなんてお願い、普通の人は“放っておけば誰かがなんとかしてくれる”と言って何もしない。
きっとすごく優しい人なんだろう。
「それで、性差別主義者ってどんなやつだ? 名前とかはわかっているのか?」
「どんな人かは、わかりません。いつも陰湿なことばかりするので……ごめんなさい」
「いやいや。謝らないで! じゃあ被害者に話を聞くから、被害者の名前を教えてくれるか?」
ココは首を横にフルフルと振る。
「なんでだよっ? 被害者の名前すらわからないのか? それだと探しようがないぞ!」
「違うんです。被害者は多くの場合殺されているんです。だから犯人の姿はまだわからないんです……」
その瞬間、和やかな雰囲気は引き裂かれて消えた。
「殺されたっ?」
「えっ? ってことは殺人鬼捕獲の依頼ってこと?」
と、アリシア。
ココは首を縦にブンブン振る。
「殺人鬼捕獲の依頼か。だからわざわざ俺に依頼を出したんだな?」
「そうです……」
「俺はてっきり悪口を言われたとか、罵倒されたとかの類の差別かと思ったよ。
この国の差別ってそんなにひどいものなのか?」
「そうでしゅよ。性的少数派のあたちたちが受ける責め苦は並みのものじゃあないでしゅね。
ただそこにいるだけで殺されそうになってしまう。それがこの国、エルジービーティーの国でしゅ」
灰色の空気が空を覆う。不穏な生暖かい空気が体を温めつつ冷ます。
冷気と熱気が混じり合い、溶け合う。そして、それらが俺の体をねぶり始めた。
「どういうことだよっ! ここじゃ差別はご法度なんじゃないのか?」
「ここじゃなくても差別はご法度でしゅよ!
でもこの国では、自分らしくいられるというルールもあるんでしゅよ。
性的少数派に嫌悪感を持つ人が自分らしくいようとするとどうなりましゅか?」
「そういうことか……そのルールがあるならば、きっと差別は熾烈で激しいものになるな。
自分の意見を主張するっていうことはそういうことだ」
この国では差別主義者の自由も保障されているのか。
「その通りです……この国で差別するということは、気に入らない相手を叩きのめして、殺害するということです……だからケンさんに、差別主義者を捕まえて欲しいのです……」
「ケンでいいよ。わかった! その依頼、俺たち“なん”が引き受けた!」
その時だった。
バターン!
大きな音とともに、レストランの入り口が開いた。
「その依頼、ちょっと待ちな!」
中に入ってきたのは、一人の女性と、その取り巻きの男たちだった。




