世界最強の攻撃
口腔に自分の思いを全て込める。口の中から竜王に奪われた父親との思い出が炎になって溢れる。
「まだ向かってくるか。いいだろう受けて立つ!」
竜王は三つの首をエディフィスドラゴンの方へと向ける。
そして、ドラゴンブレス用のエネルギーらしきものを留め始めた。
まるでおとぎ話の竜が、攻撃の時にエネルギーを生み出すのとそっくりだ。
だがその攻撃は御伽話のものと違って優しくなどない。
竜王は、眼前に巨大なクリスタルの球体を生み出した。クリスタルはドロドロに溶けて渦巻く。
「なんだあの攻撃? ドラゴンブレスか?」
「やばい予感がする」
「ねえ! まさかあの攻撃で私たちも一緒に消し飛んだりしないわよね!」
と、不吉なことを言うアリシア。
「そのまさかだろ! 自分の手を見てみろ!」
俺たちは自分の手を見た。なんと手が気体になりかけている。
指の先からサラサラと砂のように溢れているのだ。
空気に溶けた人体は、吸い込まれるようにして竜王のブレスの源になる。
竜王は惑星を丸ごと飲み込む嵐の中心にいるようだ。周囲の全ての気体と固体と液体が一斉に竜王の口の前に集まる。
分子は千切られて原子になり、それが陽子、中性子、電子に分かれる。もう元の物質の素粒子すらも維持できない。
陽子はさらに細かく砕かれ、ついに最小の単位であるクォークにまで身を落とす。
もう元の物体が人間だったのか、クリスタルだったのか、空気だったのかすらわからない。
「おい! 俺たち引っ張られているぞ!」
浮島に備え付けられているクリスタルには弱い引力のようなものが働いている。あれはきっと竜王が作ったものだったのだろう。竜王は重力を操る能力を持っているに違いない。
竜王の眼前のブレスは力を溜めつつ、巨大になっていく。
徐々に周囲の物体を巻き込みながら巨大化している。
そして、そこには超重力が発生している。
それはまるで一個の惑星のようだ。今、俺たちは新たな星の誕生を目に焼き付けている。
「おい! 視界が揺らいでいないか?」
アルが叫ぶ。俺は手元から視線を周囲に戻した。
「なんだこれ?」
なんと竜王の“攻撃の溜め”によって周囲の景色がぐにゃぐにゃに歪んでいるのだ。
地平線は歪み、淀み折れ曲り、大きく湾曲しているように見える。
今立っている浮島もあちこちがに地殻変動が起こり、陥没や隆起が発生している。はるか下に見える大地からはいくつもの火柱が起こっている。
空は大きく割れて、昼の中に夜が混じっている。もう時間の概念も砕かれ始めた。
「ねえ! 空を見て! 恒星が引き寄せられている!」
はるか上空に見える宇宙は、俺たちがいる惑星に、いや竜王に引き寄せられている。明らかに、いつも見る星空とは違う。星が明らかに大きく見える。
「さっきからこの地響きはなんだ?」
と、アル。
「もしかして?」
アリシアは真っ青な顔で呟く。
「竜王の“ブレスの溜め”に惑星が引き寄せられているぞ!」
「この星よりも引力が強いのか!」
と、アル。泣きそうになっている。
「おい! 早く攻撃しろ! 俺たちまで木っ端微塵にする気か!」
そして、世界最強の竜王の攻撃は行われた。




