対流 放射 伝導
そして、ダンジョンの際奥へとたどり着いた。そこには、たくさんの子竜たちがいた。クリスタルの牢屋に放り込まれて、震えている。
「もう大丈夫だぞ! 人さらいなんていなかった! ん? お前はさっきの子竜!」
牢屋の中には、先ほど太陽の仕組みついて質問してきた子竜がいた。その子竜は、俺の瞳をまっすぐにみて、
「なんでお兄ちゃんが人さらいと一緒にいるの? お兄ちゃんも人さらいの味方だったの?」
その瞬間、俺は理解した。俺の隣を歩いていた人物が人さらいなのだ。
「アリシア? アル?」
「うん」
「わかっている」
俺たちはゆっくりと後ろを振り返る。首が九十度右回転する。視界にはゆっくりとクリスタルの壁が写る。そして、背後を振り返った。
「まさか増援が来るなんて思っていなかったよ。ヒャヒャヒャ」
この世界には殺人罪という罪はない。暴行罪も傷害致死もない。そんな法律意味をなさないのだ。
「だけど俺は強いからな。三対一で殺してあげるよ。ヒャヒャヒャヒャ」
殺されても殴られても刺されても、やられた側が罪に問われる。
「お前たち雑魚どもをガキの目の前で殺せば、逃げる気力もなくなるだろ。ヒャヒャっ!」
この世界では弱いことこそが最大の罪。
「さあ始めよう! 竜の世界での戦いを!」
この世界では力が全て。愛などゴミ以下なのだ。勝った方が全てを得ることができる。
「変身っっっっ!」
そして、好青年は醜い竜へと姿を変えた。
勝つことが全て。
最後に勝てば何をしても許される。
力を持っている者だけが存在を許されるのだ。
好青年は醜い竜へと姿を変えた。俺たちは目の前の竜を見て、
「なんだこいつ? こいつ本当に生物なのか?」
人さらいは、竜の姿になった。だけど、それは一見しただけでは竜だと判別することができない。
「全身が武器でできているわね」
人さらいは、武器と竜のハーフになった。
翼は鋼鉄の盾。いくつものシールドを張り合わせて作られている。
尻尾はしなるムチ。ムチからはいくつもの釘やトゲが戦闘的に突き出ている。
頭部は巨大な大砲。六角形の砲口からは火炎が溢れている。これは吐息ということなのだろうか?
大砲の上には鼻。下には口。付け根には二対の目がついている。まるで巨大な鉄砲がモンスター化したみたいだ。
こいつはワイバーンタイプ(両翼と両足のみで腕がない竜)ではなく両手がついているタイプの竜だ。
右手は血のこびりついたドリル。
左手は、メカアーム。
首や腹にはいくつもの鉄板が層を生み出す。鱗ということなのだろう。乱雑に溶接されていて、ところどころからオイルが滴り落ちている。
背中には一筋のトゲの列。まるで列を成す殺意のようにも見える。アイスピック状の針棘には、人間の目玉のようなものがいくつも突き刺さっている。
全身が全て武器で作られている。誰かを、または何かを殺すため、壊すためだけにこの世に存在している。強さが全てのこの世界を生き抜くための姿なのだろう。
そこには優しさも勇気も暖かさも愛も少しも存在していない。冷たい機械からはドス黒い殺人欲求だけが熱伝導する。
軋む機械から、熱放射によって金属音が伝わる。
仄暗いクリスタルの牢獄の中で、いびつな機械は対流によって影を落とす。
武器の竜は、口を開いた。顔についている砲口が赤く輝く。砲撃を放つつもりだろう。
「殺す」
そして、クリスタルでできたダンジョンは一瞬で汚い瓦礫に変わった。




