等分割
子供がおもちゃを地面にぶちまけている絵は次第に色褪せる。
そして、冷たい現実に戻る。ダンジョンの中はまるで、おもちゃを片付けられない大人の遊び場だった。
その悪い大人は、内臓や肉塊や骨で遊んだ後、それを片付けられないでいた。
誰も叱ってくれないから、ずーっとそのまんま。出しっ放しの放りっぱなし。
砕けたクリスタルの隙間に、夥しい流血が吸い込まれる。透明な地面を縫うようにして落ちていく。
ぴちゃぴちゃぽちゃぽちゃ。一定のリズムで血がドラマティックなメロディーを唄う。
「あっはっはっはっはっはっは」
その大人は笑い声でダンジョンを飾ってみた。嬉しそうな声が反響して耳に触れる。
彼の声はまるで子供の無邪気な笑い声。楽しいことと嬉しいことだけやって育った子供。
収集も取り返しもつかない。人生は一本道だ。もうやり直すことなどできない。その大人は、子供のまま大人になった。強い殺人欲求と暴力欲求だけを胸の中に蓄えている。
胸骨の間から殺意の炎がチラチラ溢れる。
部骸骨の隙間から液状化した快楽欲求がしたたり落ちる。
眼窩にはとめどない暴力欲求が封じ込められている。
手も足も骨も血も命すらも他者を殺すことだけに特化している。
そいつは、まだ生きている獲物がいないか周囲を視線で舐めた。ぐるーっと一周血の海を見渡した。
「みーつけた!」
その中に、下半身と上半身に分断されたドラゴンナイトがいた。彼が竜王に遣わされた部隊の最後の一匹だ。
「私は気高いドラゴンナイト! 決して降伏も! 逃亡もしない! さあ殺せ!」
「わかった!」
そして、彼は台詞通り殺された。上半身と下半身をさらに引き裂かれた。
竜騎士の体はきれーに四等分された。もう歩くことなどできない。
そして、彼の死体はさらに半分こにされた。
四等分は八等分になった。もう飛ぶことはできない。
そして、彼の死体はさらに半分に分けられた。
八等分は十六等分になった。もうなんの死体なのかもわからない。
そして、彼の死体はさらに二分の一になった。
十六等分は三十二等分になった。もはやただのドロドロの肉だ。ここだけみたらギリなんらかの生物だった肉だということはわかるだろう。
そして、彼の死体はさらに二分の一になった。
三十二等分は六十四等分になった。完全にペースト状になった肉は液体同然だ。もう絵の具とか色のついた泥といったほうが近いだろう。
その後も、彼の死体は幾度となく等分割された。何度も何度も半分こに分けられた。みんなで一個のおもちゃを取り合うと、こうなるのだろう。
気高いドラゴンナイトの体はもうこれ以上分けられないくらいになった。それは残酷で残酷で如何しようもないこの世界を如実に表しているみたいだった。
風が血の匂いを運ぶ。空気中を赤血球の粒が優雅に漂う。ふわふわふわふわ。それはまるで一匹の鳥のようだった。
シーンは切り替わりケンの視点に戻る。
[ケン視点 クリスタルガーデン入り口にて]
俺たちは竜に変身し、クリスタルガーデンにようやく着いた。