先代の竜王
「闇討ち、待ち伏せ、人質、ドーピング、武器の使用、降伏したふりして襲いかかるなんてのもあったな。本当に卑怯な奴だったよ。現竜王様は、そんな卑怯者を殺して、今の地位についたんだ!」
「“待ち伏せした側”が、“された側”に負けたってことか?」
「そういうことになるね! あの戦いは見事だったよ! 手下に包囲された状態から皆殺しだったんだ!」
「俺はそんな奴と戦ったのか」
なんか急に吐き気がしてきた。さらに、背中に新鮮な魚を放り込まれたような不快感が発生した。
「俺、やっぱり竜王と戦うのはやめ」
俺が言い終わる前に、アリシアが、
「ケンなら絶対に竜王に勝てるわ!
ケンは絶対に諦めたりなんかしないのよ!
どんなに絶望的な状況でも立ち向かう勇気を持っているの!
ケンは、私たち“なん”の頼れるリーダー! 私は信じている、ケンは絶対に竜王に勝つって!
ね? そうでしょ?」
アリシアは今日一番の爽やかな笑顔を俺に向ける。めちゃくちゃ爽やかで春の陽の光のように暖かい光景だ。
「え? あ、ぅん」
やばい。なにこの状況。勘弁してくれ。もうすでに諦めそうなんだけど。
もう竜王に挑む勇気なんてないのに。
「私はさっき聞いたぞ! ケンは先ほどこう言っていたな、
『俺がお前より弱いのはわかった。勝てる可能性はゼロに近い。だけど、俺が諦める可能性はそれよりもっと低い!』とな! 私は感動した! ケン、お前は私の誇りだ」
アルは号泣しながら、声高く言った。右手で俺の肩をガッチリとつかんでいる。頬からは大粒の涙がボロボロとこぼれていく。
「え? いや、待って。俺やっぱり、」
俺が言い終わる前に、
「私もさっきケンが言っていたことをもう一度言うわね!
『俺は必ずいつかお前を超える! 覚悟しとけ!』だってー! 超カッコいいわよね!
顔にはいつになく真面目な表情を貼り付けていたわ!
普段は目は“あんたどこ見てんの?”ってくらいぼーっとしてんのに、あの時はキリッとしていたわ!
きっと渾身の決め台詞だったのね? ね? ね? そうでしょ?」
アリシアは俺のセリフを表情とともに完コピした。もはやただの嫌がらせにも見える。って言うかこいつしつこいな。
「いや、そんなことはな」
俺が言い切る前に、
「私もケンの心の声を再現しよう。
ケンは竜王に詰め寄られた時に、心の中で『命をかけられないような腰抜けに用はないってことだな。
どうせここで逃げ腰になったらこの場で殺されるだけだ』と言っていたな? な? な? そうだな?」
アルは、大真面目な顔で俺に詰め寄ってくる。竜王より怖いんだけど。
ってかなんで俺の心の声はアルにもアリシアにもバレバレなんだ?
心の中でつぶやいている意味が全くないんだが。
「ああ。そうだったな。でも、あの時はピンチになって俺はハイテンションだったからな。今、改めて考えるとやっぱり竜王に挑むのは、」
俺が言い切る前に、
「ケンは本当にかっこいいわ! イケメンよ! あれだけ実力差があっても決して諦めないもの!
私ケンのこと見直しちゃった!」
と、アリシア。
ひいい。もうやめてくれ。
「ケンは騎士道精神をよく理解している。逃げない。
諦めない。決して降伏しない。そして、有言実行する男だ!
ケンはなにがあっても絶対に竜王に挑む! 例え死んでも、竜王には挑むんだったな? そうだな?」
と、アル。
え? 俺そんなこと言ったっけ?
と、その時だった。




