卑怯者の落胤
「最後に一ついいか?」
俺は竜王に歩み寄ると、胸ぐらを掴んで空中に掲げた。
少女の体躯は完全に宙ぶらりんの状態になった。はたから見ると子供を虐待しているようだ。
周囲の竜たちは固唾を飲んで、ガクガク震えはじめた。中には一目散に逃げ出す竜もいた。
でもこの行動は正解のはず。竜王はへりくだる腰抜けや、弱腰の雑魚を相手にしない。この世界のルールでは力こそ全て。体裁や、建前、上下関係なんて必要ない。
「俺は必ずいつかお前を超える! 覚悟しとけ!」
俺はありったけの勇気を言葉に乗せて大声を出した。
「竜王の胸ぐらを掴むバカなんて初めてよ! さ、さっさとあたちを下ろして行きな!」
どうやら俺のことを気に入ってくれたみたいだ。俺は返事の代わりに笑顔を返し祭壇から麓の街に降りた。
道中で、ドラゴンナイトが
「すごいな! 竜王様と戦って死ななかった人なんて初めて見るよ!」
「そ、そうなんだ。っていうかあれは戦った内に入るのか? 俺は手も足も出なかったけど」
ドラゴンナイトとはさっきよりも仲良くなった。この竜も俺のことを気に入ってくれたみたいだ。
「戦った内に入るともさ! だって今までの挑戦者は、決闘開始と同時に即死か、降伏だったもん」
「ひえええ。そんな奴の胸ぐらを掴んだのか、俺は」
「ケン様もいつか強くなったら竜王様に挑んでよ! きっと竜王様も喜ぶから」
「そういうもんなの?」
「うん! 竜王という称号は、自主的には捨てられない。負けるまではずっと竜王だよ」
「でもいつかは竜王様も寿命で死ぬだろ? そしたら」
「いや、それはあり得ないね。竜王様は不老不死なんだ」
「不老不死? それ本当か?」
「うん! 大マジ! 竜王様は不死身だよ! 死なないどころか、傷一つつけられたことすらないよ!」
「そんなに強いのかっ?」
「だから何度も言ったじゃないか! 竜王様には誰も勝てない。なのに、ケン様は果敢にも挑んでいった。だから竜王様が気に入ってくださったんだよ」
「俺は不死身の竜に喧嘩を挑んだのか」
っていうか不死身なのを知っていたら多分すぐ降伏していたぞ。まあ、このことはみんなには黙っとこう。
「ねえ! ケン。あなたもしかして、不死身なのを知っていたらすぐ降伏していたんじゃなーい?」
と、アリシアが急に話に入ってきた。
「そんなわけないだろ! 俺は絶対に諦めない!」
冷や汗が止まらない。
「え? ケン様、諦める可能性があったの? それなら竜王様に殺されちゃうことになるけど」
「ないないない! 絶対にない! 相手が不死身でも絶対に諦めない! ほんと。ほんと」
「“まあ、このことはみんなには黙っとこう”とか思っていないでしょうね!」
こいつ鋭すぎるだろ。ってかなんで俺の揚げ足をとるときはこんないイキイキするんだ?
俺はアリシアの口を塞いでアルの方にどかした。
「それで話は変わるけど、竜王様と先代竜王様の戦いってどんな感じだったの? 現竜王も称号を得るために戦ったんだろ?」
「そりゃーつまらなかったよ。完全に一方的な公開処刑だもん。でも先代の竜王様は卑怯者だったから、すっきりしたよ」
「卑怯者? どんな奴だったんだ?」




