チャンス?
そして、竜王は目の前まで来ると、しゃがみこみ、俺の頭を撫でた。
「おにーちゃん。思ったよりも千倍弱いね。これだとあたちに傷をつけるのに一千年は努力しなきゃね」
竜王は子供をあしらうように俺の頭を撫で回す。
「今まであたちに挑んできた雑魚の中でも最も弱い。おにーちゃんからは、あたちに触れることすらできないよ? パワーワードを使って逆転も無理! あたちは一言を発する前ににいちゃんを殺せる」
「何が言いたい?」
「おにーちゃんは本当に弱い。最弱。虫けら以下の雑魚よ!」
竜王は俺の頭をひたすら撫でる。竜王からしたら俺なんてガキ同然ってことなんだな。
「だったら何だっ? 俺がお前より弱いのはわかった。勝てる可能性はゼロに近い。だけど、俺が諦める可能性はそれよりもっと低い!」
俺は竜王の腕を勢いよく払いのけた。
「お兄ちゃんの実力だと、一千億回あたちに挑んでも勝てないよ? それでも諦めないの?」
「不可能程度じゃ、俺は諦めない!」
「おにーちゃん立てる?」
「何だよ急に?」
「あたちは立てるかどうか聞いたんだよ? 質問に答えて」
俺は足に力を入れてみた。だが動かない。
「無理だ。両足とも骨が壊れている」
「なら無理じゃないね。さっさと立って!」
その瞬間、俺の体の怪我が完治した。
俺は立ち上がり、
「パワーワードで治してくれたのか?」
「うん! おにーちゃんのこと気に入った!」
竜王は満面の笑みになった。先ほどの下卑た笑みは消えて失せた。
「どういうことだ? 力が全てなんだろ? なのに弱い俺を気に入った?」
「うん! おにーちゃんは今まであたちに歯向かってきた生物の中で最も弱かった。こんなに弱いやつ初めてみたわ! でも、これだけ実力差があるのに諦めなかったのもおにーちゃんが初めてだよ!」
その瞬間、俺の心に晴れやかな風が通った。竜王に気に入られた。これなら交渉がうまくいくかもしれない。
「なら俺たちと同盟を結んでくれるか?」
「でも、ハイデルキアとの同盟は却下ね。そこまであたちの心を動かせなかった。その代わりにチャンスをあげるわ!」
「チャンス?」
「ええ! あたちはこの通り忙しい」
竜王は俺の背後を指差した。俺が振り返ると、大小様々な竜たちが一列になって並んでいる。全員竜王に何らかの用事があるのだろう。
「それで?」
「あたちは細かい事件に関わっている暇がないの! 家族が傷つけられでもしない限りここを動けない」
「さっき街で俺と会っただろ? 飴玉あげた時」
「あれはあたちの家族をいじめた奴を殺した直後よ! 揚げ足とってないであたちの話を聞け! 今、この国では小竜の誘拐事件が起こっている。だからおにーちゃんがその犯人を捕獲してきて!」
「そしたらハイデルキアと同盟を結んでくれるのか?」
「うん! いいよ!」
「わかった! その条件に乗った!」
「ただし、失敗したらおにーちゃんは当然殺す。おにーちゃんの連れのおねーちゃん達も目の前で殺す。いいね?」
命をかけられないような腰抜けに用はないってことだな。どうせここで逃げ腰になったらこの場で殺されるだけだ。
「ああ!」
竜王は俺の返事を聞くと、もっと笑顔になった。そして、
「わかったらさっさと行きな」
「最後に一ついいか?」
俺は竜王に歩み寄ると、胸ぐらを掴んで空中に掲げた。




