ヒビ
「可能なことなら何でも」
と言った。刹那の沈黙が俺の肌を焼く。そして、
「ふむ。具体的には?」
竜王は俺の話に食いついた。少しだけ胸を締め付ける恐怖の鎖が緩まった。
「例えば、
竜の国が戦争になった時に手を貸す。
竜の国の資源が枯渇した時に、差し上げる。水、食料、燃料、土地、鉱山そちらが望むものならなんでも。
竜の国に人手が必要になった時に、我が国の民を送る。
ハイデルキア国全員の命を救ってくれるなら、なんでもします。
もし逆らったり出し渋ったら、その時はハイデルキアを滅ぼせばいい。その条件でいかがでしょうか?」
「うむ。悪くない条件だな。要は、何でもするということだな?」
「はい。その通りです」
アルが『勝手にそんな条件結んで大丈夫か?』と目で語りかけてくる。今は、そんな細かいこと気にしていられない。
「ここ竜の国は、ご覧の通り、雲の遥か上に存在している。だから地下資源や地上の果物などが不足している。ハイデルキアがそれらを譲ってくれるのなら非常にいい条件だと言えるな」
俺の心に光が差した。安堵のカーテンが心を包む。ほのかに微熱を孕んだ光が、春を心にもたらした。よかった。これなら上手くいきそうだ。
アリシアは、少し落ち着いたらしく表情が明るくなった。
アルもホッとして、顔に生気が戻った。
竜王の小さな顔も少し笑顔になった。
「なら交渉は成立ということでよろしいですか?」
俺は勝ち確定の勝負に最後の言葉を放つ。
「悪くない条件だ。いや、むしろこの上なくいい条件だ……………だが…………“却下”だ」
竜王から笑顔は失せた。一瞬で場の空気が変わる。張り詰めた緊張感が空気のように乗しかかる。背中が潰されそうだ。頭が踏み潰されているみたいだ。心がはじけて割れそうだ。




