殺人のルール
道中で、
「っていうかそろそろ人間の状態に戻りたいんだけど」
ウレンが人間の姿を維持できるということは、戻っても別に問題はないだろう。
「なら頭の中で変身解除と呟けばいい」
(変身解除!)
すると、ポンっ! というポップな音とともに、元の姿に戻った。
そして、俺は巨大な祭壇の足元にきた。石造りのアーチがある。
ここが入り口なのだろう。
はるか空へ螺旋状に階段がとぐろを巻いている。アーチの下には鎧で身を包んだドラゴンナイトがいる。
ドラゴンナイトとはドラゴンのナイトのことだ。騎士っぽい竜人だ。人型、二足歩行のドラゴンだ。
「あのう。ハイデルキアから来ました。ケンって言います。竜王様にお会いしたいのですが」
門番っぽいドラゴンナイトに、駄目元で聞いてみた。
「もちろん! なら竜王様のもとに案内するね! とーっても強いんだ!」
驚くほどすんなりと面会の許可をくれた。きっと竜王が強すぎて警備もクソもないのだろう。よくみたら警備の兵士とかも暇そうにしている。
俺たちはドラゴンナイトの案内で竜王のいる場所に向かうことにした。
俺が竜王の居場所を見ると、そこからは計り知れないオーラのようなものが見える。まるで空から目に見えない流星群が降り注いでいるようだ。
とんでもない重圧が俺たちの体に降り注ぐ。目に見えないけど確かにそこにある。
はっきりと肌でプレッシャーを感じることができるのだ。
それはまるで空気のよう。俺たち小さな生物をはるか空から押しつぶす。いつだって俺たちの体の上に乗っかっている。目に見えないだけ、触れられないだけ、いつも俺たちは空気に体をぺしゃんこに潰されている。
俺の体の上には、分厚い気体が寝転んでいる。もしそいつが機嫌を損ねて、俺を押しつぶそうとしたら、ひとたまりもない。
上空数千キロメートルの全ての空気を敵に回したみたいだ。
見上げる祭壇の上からは、そんなプレッシャーが降ってくる。少しでも機嫌を損ねれば、まばたきする前に殺される。
「あのう。竜王様ってどれくらいお強いんでしょうか?」
ドラゴンナイトは、
「竜王様はこの大陸一強いよ! ひょっとしたら世界で一番強いのかもしれないね!」
大きな体に、ゴツい装備だが、明るくて優しそうなドラゴンナイトだ。
「へー。戦いを挑む人っているんですか?」
「うーん。数百年はいなかったかな。いたとしても一ミリ秒(千分の一秒)も持たないと思うよ! ケン様挑んで見れば?」
「ケン! もしかしたら勝てるかもしれないでしょ! やってみなさいよ!」
と、アリシア。なんで俺? と思ったがスルーした。
「え? 俺も戦いを挑んでもいいんですか?」
「うん! どなたでも竜王様に決闘を挑んで構わないよ! もし勝つことができたらケン様が次の竜王になれるよ!」
「竜王って誰でもなれるんですか?」
「うんっ! 竜王っていう竜がいるわけじゃないんだ! 竜王は称号。例えば、王子様とか町長とか、隊長みたいなね!」
「なるほどじゃあ人間が竜王になる可能性もあるんですね!」
「そういうこと! 数千年前の竜王様は確か人間だったなー」
「じゃあ人間が竜に勝ったのか」
「そう! 人間の姿で竜を殺すなんてめちゃんこ強いよね!」
「え? 殺す? 決闘って相手が死ぬまでやるんですか?」
「もちろんだよ!」
「殺人罪とかってないんですか?」
「殺人罪? 何それ? そんなものこの国にないよ?」




