生きている画竜点睛
「二人とも! 喧嘩している場合じゃないぞ! あれを見ろっっっっ!」
今度はアルが何かを見つけたらしい。テンションが高い。
俺は摑みかかるアリシアを払って、アルが示した方向を見た。
「なんだあれ? “生きた画竜点睛”か?」
画竜点睛とは四字熟語だ。
意味 何かを完成させる時の最後の仕上げ
例 その作品は、画竜点睛を欠いている。(その作品は最後の仕上げをしていない)
そんな四字熟語が竜化している。
地面に落ちている掛け軸に、目が無い竜が描かれているのだ。墨だけで描かれており、すごく芸術的だ。
筆を使って描いたのだろう。紙に飛び散る黒飛沫が荒々しくも優しい。
「まさに画竜点睛を欠いている絵だな」
「旅のお方や」
なんと画竜点睛が話しかけてきた。なんか喋り方が仙人っぽい。
「お! 話しかけてきた! なんでしょうか?」
「すまぬが、そこに落ちている筆で目を描いてはもらえないだろうか?」
俺は落ちている筆を拾い上げて、最後の仕上げを行なってあげた。
竜の掛け軸に下手くそな絵が描き足されると、なんと、竜は絵から飛び上がり現実の竜になった。
「かたじけない。ではご機嫌よう」
そして、そのままふわふわ漂いながら優雅に飛び去っていった。




