生きている文字
竜の国にはたくさんの竜がいた。まあ当然だな。でもその様子は予想とは少し違うものだった。
「なんなんだよ! この世界の竜はっ?」
ここまでくるともうお約束のような気がするが、変な竜ばっかりだった。
俺は街の中を見渡した。右にも左にも変態的な竜がたくさんいる。
「この世界では、いつもこんなんばっかだ」
「おい! あそこの竜を見てみろ! あの竜、文字だけで表現されているぞ!」
アルが翼で示した方向には、文字だけで表現されている竜がいた。
頭がある箇所には大きな字で『頭』と書いてある。普通の竜の頭に『頭』と書いてあるわけじゃない。『頭』という文字自体が竜の頭部になっている。
『頭』という文字には、『目』と『耳』という文字がそれぞれ目と耳があるはずの位置に書いてある。
そして、時折『目』という文字は『瞬き中』という文字に書き変わるのだ。瞬きをしているということなのだろう。
『口』は当然口があるべき場所に書いてある。
そして、『口』の隣には『(開)』または『(閉)』と注意書きがある。
口の状態を表しているのだろう。
翼がある場所には当然、『翼』という文字が描かれている。
「ちょっと私、触れ合ってくるね!」
と、おバカが動物園の“ふれあいコーナー”みたいな感覚で竜に近寄っていった。
「おい! 危ないぞ!」
「アリシア! 気をつけろ!」
「ヘーきよ!」
アリシアはそう言いながら、字竜の『喉』を手でさすってあげた。字竜は嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らし始めた。
気持ちいいのかあれ?
しばらくアリシアの触れ合いを堪能してから、『翼』をパタパタさせながら字竜はどこかへ飛んで行った。
飛んで行く際には、周囲に『風』という文字や、『砂埃』という文字がパラパラ溢れていった。飛んだことによって、風と砂埃が生じたということなのだろう。
「すげえな。生きている文字なんて初めて見たよ」
俺は初めてハイデルキアに入国したときを思い出した。“上下ジーパンを着ている人”や、“メガネを履いている人”を見て心底驚いていたた。だが、今じゃそれらをみても何も感じなくなった。
だけどこういう風に新しい世界に行くと、いつも新鮮な何かに心が奪われてしまう。
「ねえ! ちょっと! あれを見て! あの竜、トレーディングカードゲームの竜よ!」
アリシアが翼で指した方向には、生きているトレーディングカードの竜がいた。




