森の中の空
俺は目を閉じたまま、
「アリシア。もし竜たちが襲って来たらすぐに俺の背後に下がってくれ。お前には指一本触れさせない! お前は俺の大切な友達だ。俺は絶対に友達のことを守り抜く!」
俺はさらに、
「アル。俺の力だけじゃ竜王を説き伏せられないかもしれない。俺は……本当はそんなに強くないから。そんな弱い俺が強くいられるのは、お前が俺のことを信じてくれているからだ」
俺はさらに続けた。
「ウレン。俺とお前はあんまり喋ったことはなかったな。だけど、“とっとこみんなの依頼をなんでもやる屋さん”略して“なん”のメンバーは俺の大切な家族だ。家族である以上、俺が責任を持って守り抜く!」
俺は目をカッと見開き、かっこよく、リーダーらしく、
「行くぞ! みんな! いざ竜の世界へ! あれ?」
俺以外のみんなはもうすでに竜の世界へ入っていったらしい。
「あれ? みんな? アリシアー? アルー? ウレンー? みんな迷子か? え? っていうか今の俺の台詞誰も聞いていなかったの?」
俺はキョロキョロ周囲を見渡したが、誰もいない。
俺は一人寂しくぽつんと突っ立っていた。まるで木に擬態したみたいだった。突っ立ってただ酸素を出し入れする機械みたいだ。
「っていうか、あいつらどこまで行ったんだ?」
アリシアたちの影も形も見えない。
「どんだけ容赦無く置いていくんだよ! ためらい全くないな」
俺はなんか少し寂しくなった。
俺は再び、竜の世界の国境に立ち、目の前の真っ黒な森を見つめる。そして、一歩踏み出した。森の中は、空の上だった。




