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ものがたりのはじまり

わたしアリサ。

 森の奥のここロッドリーフの村でちいさなお店を開くために、商売に必要な「信用」を稼ぐために頑張っている。

 商売を始める資金も足りない、学校の先生は、わたしの腕じゃあ錬金術師としてどこかに雇って貰えるには不十分だって……。

 それでもそこで習った、簡単な蝋とか傷薬ならなんとか作れるから、親友のイリスがやっている露店に並べて貰ったり、あとは友達で冒険者二級のウェーバーに警護してもらって、珍しいアイテムを探しにすぐ近くのロック山に行って散々な目に合ったり……。

 そう、ここでは錬金術や冒険者が美容師や料理人みたいに資格として認められている。

 だからわたしも早く一人前の錬金術師になって、ついでにいい結婚相手いないかなぁと思って。

 ……だって、イリスが言うんだもん。

「えぇっ!?じゃあアリサちゃん、そんな、顔も名前もわからない人と結婚するつもりなの?やめようよ」

ある日の昼下がり、わたしの借りているお家でちいさな身体を丸めてお茶を飲んでいたイリスは、コップをテーブルで叩くようにしながら主張した。

「?そうだけど、なんで?」

わたしはまだことの重大さがわかっていなかったから、気楽に考えていたの。

「だっていくらお師匠さんがいい人だがらって、いい人をアリサちゃんに紹介してくれるとは限らないよ?」

お師匠さんっていうのはジュラルミン老子ね、あの、けっこう有名な錬金術師の、わたしその老子の大ファンで、ファンレター出してから、いつしか文通する仲なの。

「イリスちゃん、わたしはジュラルミン老子と文通はするけれど、子弟関係じゃあないよ。

ただ『錬金術師として一人前になったら、お前にいい人を紹介しようと思う』って言われただけで。

老子に認めて貰えるだけの腕があったらいいなぁ、老子の紹介で知り合いなら、きっとそんなに変な人はいないだろうな。

って思ったってだけで」

結婚なんてそんなに変な人じゃなきゃOKでしょ?

ところがイリスちゃんはわたしの手を両手で握りしめて、涙ながらにこう言った。

「駄目だよ駄目駄目!ちゃんと恋愛しなきゃ!」

「?レンアイ?」

ううん恋愛ねぇ……美味しいの?それ。

「アリサちゃんがそんな人と結婚したらあたしが許さない!」

イリスは真剣だ、このこはいつだってそう。

「そう言われても……それにどうなっても結婚してもしなくても、生きていく力がなきゃ。

だからまずはとりあえず、ロック山付き合って!ウェーバーもいるから」

わたしは立ち上がったけれど、イリスの言うことも気になって、確かにそう言われてみれば、名前も顔もわからないのは……えぇ?一般的な恋愛や結婚がわからないけれどそうなの?わたし変なの?

 小説で読むのはさすがに違うと思うから、わたしなりには、ジュラルミン老子の言ってきたはなしはありはありなんだけどね。

 でも、そうか、イリスが涙ぐんでいるってことは少し違うんだ。

「じゃあイリスちゃん手伝って、わたしこれから一人前になるために色々なところに行くと思うの。そしたら結婚したいって人との出会いもあるかも……。少なくとも、それなら顔も名前もわからないってことはないよね?」

「うん、それなら協力する」

わたしは棚からイリスに木苺入りのクッキーをあげた。イリスはよかったと呟きながらお茶をすすっている。

 わたしは思った、この泣き虫の親友のためにも、まずはちょっとずつ腕を磨こう。

 そしてもし本当に結婚相手が見つかったら、その時老子に言えばいいか。

 ……そう思っていたんだけど。

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