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いつか見た虹の向こう側【改稿版】  作者: 宙埜ハルカ
番外編
91/98

【番外編九】僕がお兄ちゃんになる日(拓都視点)

本日3回目の更新です。

どうぞよろしくお願いします。

 僕はもうすぐ二年生になる。

 四月になったら、新しい一年生が入って来るから、僕達はお兄さんお姉さんになるんだって、僕の大好きな守谷先生が言っていた。

 今日、僕の友達の陸君が、お母さんのお腹に赤ちゃんが出来たから、弟か妹が生まれるんだって、陸君はお兄ちゃんになるんだって言っていた。

 僕が二年生になってお兄さんになっても、僕に弟か妹が出来る訳じゃない。陸君はお兄ちゃんがいるのに、その上お父さんも来たのに、弟か妹が出来るなんて、ちょっとずるいと思った。

 でもママは、僕が「パパが欲しい」って言うと悲しむんだ。

 やっぱり、お兄ちゃんや弟でも、ママは悲しむかな?

 ママはパパやお兄ちゃんや弟が欲しくないのかな?

 家族が増えたら楽しいと思うけど。


     *****


 春休みに、ママが大切な話があると言い出した。

 それは、ママに結婚したいほど大好きな人がいて、その人が僕のパパになりたいんだって。

 その人だったら、ママは悲しまないんだって。だから、僕はその人に会おうと思ったんだ。

 そうしたらなんと、その人は守谷先生だったんだ。

 守谷先生もママが大好きで、ママと結婚したいんだって。それから僕のことも大好きだから、パパになりたいんだって。僕たちの仲間になりたいんだって。三人で家族になりたいんだって。

 それは、陸君のところと同じなんだってママが言うから、ぼくはやっとどういうことか分かったんだ。

 陸君のママもパパと結婚して、陸君や陸君のお兄ちゃんのパパになったから、それと同じことなんだ。

 じゃあ、陸君のお家みたいに、赤ちゃんができるのかな? 弟か妹が出来るのかな? 僕本当のお兄さんになれる?

 僕が守谷先生に仲間にしてあげるって言ったら、すごく嬉しそうに笑って、僕をギュッとハグしてくれた。その笑顔を見たら僕まで嬉しくなった。

 それから春休み中に守谷先生はママと結婚して、僕の家に引っ越してきた。家族になったから一緒に住むんだって。

 それからね、守谷先生は篠崎先生になったんだって。でも、僕はすぐに間違って「守谷先生」って呼んでしまう。すると守谷先生は困ったような顔をして、「先生というのはまちがいじゃないけれど、俺は拓都のなんだ?」って尋ねてくるんだ。

 僕はなぜだか恥ずかしくて、なかなか「パパ」って呼べないんだ。でも、「パパ」って呼んで欲しいんだって言ってた。


 僕は二年生になって、陸君とも翔也君ともクラスが別れちゃったけど、休み時間には一緒に遊んだりする。今日陸君が嬉しそうに、ママのお腹にいる赤ちゃんの写真を見せてもらったって話していた。だから僕は訊いてみたんだ。「僕の家にもパパが来たけど、僕にも弟か妹が出来るかな?」って。

 すると、陸君は少し考えて「あのね、ママとパパがラブラブだから赤ちゃんができたんだって、お兄ちゃんが言ってた」って言ったんだ。

 僕はラブラブというのが分からなくて訊いてみると、「ママとパパがとっても仲良くて、キスとかしたりすること」だって言うんだ。

「ねぇ、パパとママはラブラブなの?」

 ある日の夕食時、僕はママとパパに訊いてみた。するとパパは「そうだよ。パパとママは、とっても仲良しでラブラブだよ」と答えてくれた。

 そっか、ラブラブなら……。

「あのね、陸君のパパとママはね、ラブラブだから赤ちゃんができたんだって。じゃあ、僕の家も赤ちゃんができるの?」

 僕は嬉しくなって訊いてみると、ママもパパも困った顔をしている。

「ん……神様次第かな? でも、ママとパパがラブラブの方が可能性はあるだろうね」

 神様次第って、一杯お願いしたら、神様は願いことをきいてくれるのかな?


 僕が毎日神様にお願いしていたから、ママに赤ちゃんができたんだ。

 夕食の時、皆でテーブルに付くと、ママは「嬉しいお知らせがあります」と言って、本当に嬉しそうに笑ったんだ。ママのそんな顔を見ただけで、僕はワクワクしてきて、どんなお知らせかなって楽しみになった。パパは何のお知らせか分かってるみたいにニコニコしてる。

「今日病院へ行ったら赤ちゃんができていることがわかりました。まだ小さいけど、心臓はしっかり動いていたのよ」

 ママはそう言うと、赤ちゃんの写真を見せてくれた。その白黒写真の真ん中の小さな黒い袋のような部分の中にある白っぽいものが赤ちゃんなんだって。

「ヤッター! 僕が毎日神様にお願いしたからだよね? ママ、絶対弟だよ」

 僕がそう言うと、ママとパパは顔を見合わせて笑い出したんだ。そしてパパがね、「そうか、拓都が毎日お願いしてくれたのか。ありがとうな。でもまだ弟か妹かは分からないんだよ」と言いながら僕の頭を撫でてくれた。

 ママも柔らかく微笑んで「拓都がいい子だから、神様はお願いを聞いてくれたんだね。拓都、ありがとう」と言ってくれた。

「僕、今度は弟にしてくださいってお願いする」

 僕の言葉を聞いて、パパとママはまた笑った。

「拓都、弟もいいけど、妹も可愛いぞ。パパはママに似た女の子が良いなぁ」

 パパがそんなことを言うと、その願いを神様が受け取っちゃうかもしれないじゃないか。

「絶対に弟がいい!! ママ、絶対だよ」

 僕は弟とゲームやキャッチボールをしたいんだ。

 けれどママは、少し困った顔をして笑っているだけだった。


 それからも時々、パパとは男の子がいい、女の子がいいと言い合った。その度ママは困った顔をするから、ある時訊いてみたんだ。

「ねぇ、ママはどちらがいいの?」

「ママはね、どちらでもいいの。無事に産まれて来てくれたら」

「じゃあ、男の子にしてくださいってお願いして」

「あのね、拓都。赤ちゃんはもう男の子か女の子か決まっているの。でも生まれてくるまでどちらか分からないの。拓都とパパが男の子がいい、女の子がいいって言ってると、赤ちゃんは困っちゃうと思うんだ。困って生まれて来られなかったら、悲しいでしょ? だから、神様には無事に生まれますよう、お願いしてほしいな」

 僕はママの話を聞いてとても驚いた。そしてすぐに赤ちゃんに謝った。パパもママのお腹を撫でながら「ごめんな。パパも拓都もおまえが生まれてくるのを楽しみにしてるから。パパ達の言ってたことは気にしなくていいよ」と声をかけている。

 そっか、もう決まっているのか。どっちなんだろうな。

 僕は、赤ちゃんが困って生まれてこなかったら嫌だけど、やっぱり弟がいいなと思った。でも、もう神様に弟にしてくださいってお願いはしないよ。


 夏休みになって、ママのお腹が少し膨らんだ気がする。それでも赤ちゃんはまだまだ小さくて、生まれるのは来年の一月なんだって。

 夏休みに僕は、パパのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんのお家へ泊りに行くことになった。パパとママはお仕事があるから、僕は一人でお泊りするんだ。なんといってもここには僕の従兄がいるんだ。四歳の葵ちゃんと三歳の奏君。

 二人ともとっても可愛くて、僕のこと「拓ちゃん」って呼んで、遊んでって後を付いてくるんだ。妹と弟が出来たみたいで嬉しい。

 葵ちゃんは小さいのに奏君を遊んであげたり、面倒を見たりと世話を焼く。小さくてもお姉ちゃんなんだな。

 だから僕はもっとお兄ちゃんなんだから、二人とおもちゃで遊んだり、絵本を読んであげたり、おやつも喧嘩しないように分けてあげたり、一生懸命に二人のお世話をした。するとお祖母ちゃんが「拓ちゃんはもうしっかりお兄ちゃんなんだね。赤ちゃんがいつ生まれても大丈夫だね」と言ってくれて、僕はとても嬉しかった。

 一週間、葵ちゃんや奏君と過して思ったのは、お兄ちゃんって結構大変だけど、二人と遊ぶのは楽しかったということ。それから、男の子と女の子の違いに驚かされた。女の子がこんなに可愛らしいなんて思わなかった。妹もいいなと思ったことは、パパには内緒だけどね。

 

 ママのお腹は少しずつ大きくなって行った。それでもママは元気に仕事も家のこともしているけど、僕にできることはお手伝いした。

 パパは帰ってくると必ずママのお腹を撫でながら、赤ちゃんに話しかけている。僕も毎日赤ちゃんに話しかける。学校のこと、友達のこと、パパとママのこと。

 時々赤ちゃんがお腹をボンと蹴るのが分かるんだ。きっと早く僕と遊びたいんだな。待ってるよ。だから安心して生まれておいで。


 十一月になって、陸君のお家に赤ちゃんが生まれた。女の子だった。陸君もずっと弟が欲しいって言っていたけど、生まれてみれば、もう毎日妹の自慢をしている。とっても可愛いんだと、僕が守るんだと言っている。

 僕は陸君の話しを聞いて、葵ちゃんや奏君のことを思い出した。

 僕はもう男の子でも女の子でも、どちらでも関係ないと思えるようになった。

 なんだか今まで以上に楽しみになってきた。


 ママは年末まで働いて、新しい年になったらお仕事はお休みするらしい。そして赤ちゃんが生まれてくるのを待つんだって。

 もうママのお腹はとても大きい。このお腹の中に赤ちゃんがいるなんて本当に不思議だけど、すごいことだと思う。

 いつもの年のように新しい年を迎える準備をして、初めての三人でのお正月を過ごす。そして、来年は四人のお正月だ。ずっとママと僕の二人だけだったのに、どんどん増えてくる。そのことがすごく嬉しい。


 三学期が始まった最初の土曜日、本当は赤ちゃんが生まれる予定の日は二日前だったらしいけど、赤ちゃんが生まれてくる様子が無くて、ママは散歩に行ったり、大掃除のように掃除をしたりしている。動いている方が早く生まれるんだって。

 もうすぐ、もうすぐ会えるんだ。そう思うだけでワクワクしてくる。でも、その日の午後、ママがお腹を痛そうに押さえて座り込んでいるのを見て、僕は怖くなった。赤ちゃんに何かあるのだろうか? ママは大丈夫なんだろうか?

「お腹が痛くなるのは、赤ちゃんがもうすぐ生まれるよっていうサインなの。だから大丈夫よ」

 ママはそう言って笑ったけど、またお腹が痛くなってくると苦しそうな顔をする。心配しているとママが「そろそろ病院へ」と言うので、三人で車に乗って病院へ行った。

 病院へ行ってからも、お腹がどんどん痛くなってくるのか、ママは苦しそうだ。そしていよいよ分娩室という赤ちゃんを産むお部屋へ入って行った。僕とパパはそのお部屋の前の椅子に座って、赤ちゃんが生まれるのを待っていた。中からママの苦しそうな声が聞こえると、僕はドキドキしてパパの方を見た。パパも心配そうな顔をして僕の手を握った。

「女の人はすごいな。あんなに苦しい思いをして赤ちゃんを産むんだから」

 パパの言葉を聞いて、僕もウンウンと頷いた。そして心の中で、男で良かったと思ったことは言わなかった。

「拓都も俺も母親があんなに苦しい思いをして産んでくれたんだろうな。やっぱり母親ってすごいな」

 僕を産んでくれたのはお空のお母さんだ。今のお母さんはママだけど、産んでくれたのはママのお姉さんらしい。

 今まであまり意識して考えたことなかったけど、僕を産んでくれたお母さんもあんなに苦しんで産んでくれたのだろうか?

「僕もあんな風に生まれて来たの?」

「そうだよ。赤ちゃんを産むっていうことは、それだけ大変なことなんだ」

 僕達がそんな話をしていると、中から赤ちゃんの泣き声が聞こえて来た。

「あぁ、生まれた!」

 パパの声に僕は嬉しさが込み上げてきて「ヤッター」とパパに飛びついた。

 しばらくすると、看護師さんが赤ちゃんを抱いて出てきた。

「おめでとうございます。女の子ですよ」

 看護師さんはニコニコの笑顔でそう言うと、パパに赤ちゃんを抱かせた。パパは「ありがとうございます」と言いながら、恐々赤ちゃんを抱き、僕にも見せてくれた。

 赤ちゃんは真っ赤になって泣いている。小さな手を握り締めている。目も鼻も口も耳もみんな小さい。

「拓都、ママのところへ行こう」

 パパは赤ちゃんを抱いたまま分娩室へ入っていった。僕もその後を付いて行く。

「美緒、ご苦労様。それから、ありがとう」

 パパがそう言うと、ママはヘニャリと笑って、「無事に生まれてよかった」と言った。

 パパがママに赤ちゃんを抱っこさせたので、一生懸命に背伸びして僕も赤ちゃんを覗き込んだ。

「ママ、ありがとう」

 僕がお礼を言うと、ママはまたヘニャリと笑った。

「拓都ごめんね。弟じゃなくて」

「ううん。僕、妹で嬉しい。陸君のところもそうだし」

 僕がそう言うと、今度はママが嬉しそうに笑ってくれた。


 ママと赤ちゃんはこのまま入院するので、夜遅く僕とパパは家へ帰ってきた。

「拓都、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと、それから、拓都のお母さんとお父さんに報告しよう」

 パパはそう言うと、座敷へと入っていった。そして二人で仏壇の前に座ると、飾ってある四人の写真を見た。

「お義父さん、お義母さん、お義兄さん、お義姉さん、美緒が無事に出産しました。女の子でした。ありがとうございました」

 毎日見ている四人の笑顔の写真が、嬉しそうに笑ったような気がした。僕は僕を産んでくれたお母さんを見つめた。

「それから、お義兄さん、お義姉さん、拓都を産んでくれて、ありがとうございます。二人の分まで拓都を大切に育てます」

 僕は驚いた。パパがそんなことを言うなんて思わなかったから。

「ほら、拓都も、お母さんが一生懸命苦しみを乗り越えてお前を産んでくれたんだから、お礼言わなくちゃ」

 パパは僕の顔をじっと見てそう言った。そして僕はもう一度お空のお母さんの顔を見つめた。

「お空のお母さん。僕を産んでくれて、ありがとう」

 僕がそう言うと、パパは頭を撫でてくれた。

「拓都、今日はパパと一緒に寝ようか?」

 僕はパパの言葉に大きく頷いた。

「さあ、そうと決まれば、まずお風呂に入ろう」

 パパは立ち上がると、僕の背中を押しながら座敷を後にした。

 僕は座敷を出る時もう一度振り返って、心の中でお空のお父さんとお母さんにありがとうと言った。






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