【番外編一】西森千裕の困惑の日々(千裕視点)
昨日本編が完結しました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
本日からは番外編を更新していきますので、よろしくお願いします。
本日は都合により6時更新のみになります。
今年はラッキーな年かも知れないと思い始めたのは、次男翔也の小学校入学式の時だった。
担任が守谷先生だと分かり、思わず拳を握りしめ心の中で「ヨッシャー」と叫んでいた。
守谷先生はこの三月まで、長男智也の担任だった。この春から教師三年目となる彼は、爽やかで子供たちに真剣に向き合おうと一生懸命な先生で、とても好感が持てた。そして、なにより保護者(主に母親)に受けたのは、その芸能人かモデルかと見紛う程の人目を惹く容姿だった。
やっぱり、眼福だよねぇ。
私は又この一年も、この年若く端正な目鼻立ちのイケメン担任を間近に見られる幸せに預かれるのかと思うと、優越感に浸った。
綾ちゃん、悔しがるだろうなぁ。
そして、そのラッキーが担任と保護者という関係だけにとどまらず、もう一歩先生に近づけるクラス役員というところまで続いているとは、守谷ファンを公言する私と言えど、想像すらしていなかった。
そりゃあ、私は守谷ファンですよ(開き直り)。でもね、自ら進んでクラス役員に立候補するほど、目が眩んではいないのですよ。それは他のお母さん達も同じで、誰も立候補する人はいなかった。
おそらく去年の不倫騒動(旦那怒鳴りこみ事件とも言う)の影響で、下手に立候補なんかしたら、守谷先生目当てなんて勘ぐられるのが怖いのだと思う。それにね、一昨年長男のクラス役員をしたけど、役員の仕事はそれなりに大変だった。今時の母親は仕事を持っているから、仕事を早退したり休んだりと犠牲にする部分も多い。やはり主婦としては生活が第一だもの。
だから、まさか自分がくじ引きでクラス役員に当たってしまうなんて、思いもしなかった。
でもね、内心ちょっと喜んだのよ。クラス役員になると担任と話し合いをする機会もあるし、今年から公表しないという担任の携帯番号も、もしかしたら役員にだけは特別に教えてくれるかもしれないし(これはやはり教えてもらえなかったけど、メルアドは頂けた)。それになにより、他の保護者が知らない守谷先生を見られるかもしれないじゃない? こんなお得なポジションを、くじに当たったから仕方ない、皆さんの嫌がる仕事を犠牲になって引き受けますって顔して、ちゃっかりゲットできちゃうんだもの。なんて、私も現金だよね。
守谷先生のファンっていうのは、最初は本当に外見だけ愛でられればそれで幸せ、みたいな気持だったんだけど、長男の担任をしてもらって、子供たちや教育への考え、対応を見ていて、その一生懸命さや真面目さに、信頼と応援したくなる母性本能みたいな気持ちも生まれ、今ではファンというよりサポーターという感じかな?
でも、そんなこと真面目に周りの友人たちに言うのも恥ずかしいので、アイドルのファンのようなノリで、守谷ファンを公言しているの。
そんなクラス役員を決めるくじに当たったのは、私だけではなくもう一人いる。クラス役員は各クラス二人と決まっているから。そして、そのもう一人と対面した時、彼女は魂を抜かれたかのように茫然としてそこに立っていた。
初めて見る彼女の名前は、篠崎美緒と言った。
彼女の第一印象は、『若い!』だった。そして、その場に溶け込めていない雰囲気。まるでそう、年の離れたお姉さんが、母親の代りに来ているって感じ。でも、さっき母親って自己紹介していたよね?
「篠崎さん、だったわよね? 当たっちゃったわね。仕方ないから覚悟を決めて、一年間頑張りましょう。よろしくね」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
彼女の緊張具合に、私は思わず笑ってしまった。そこまで緊張するほどのことじゃないって!
私がそう言って笑い飛ばすと、彼女はホッとしたような顔をした。
しかし、今度は守谷先生を前にした途端、先程以上の緊張に彼女が固まるのを感じた。
そんな彼女を見て、ああこれは初めて守谷先生を目の前にした時にだれもが陥る緊張だなと、その緊張をほぐしてあげたくて、わざと明るく彼女も笑って緊張が解けるように、突っ込んでみた。
「わかるわぁ。私も最初そうだったもの。他のお母さん達も同じよ。でもね、浮気はダメよ!」
その途端、彼女は完全にフリーズした。
驚いたのは私の方だ。どうして? どうしてそこでフリーズ?
「やだぁ、篠崎さん、そこは笑うところよ」
私はいたたまれず、ガハハと笑って流したけれど、雰囲気は微妙だ。
その上、守谷先生までもいつもと雰囲気が違って、ニコリともしない。
なんなの? この緊張感漂う微妙な雰囲気は!
守谷先生の方に、冗談で突っ込んでみても、以前のように軽いノリで返って来ない。
私はすっかりお手上げ状態になってしまった。
これって、あの事件の後遺症なのかな?
今年度からは、保護者との距離を思いっきり離すとかってこと?
その日はそのままの雰囲気で終わってしまい、なんだか疲労だけが残った。
守谷先生とお話しできたというのに、喜びよりも疲労の方が大きいなんて!
この一年、守谷先生はこの雰囲気でいくのだろうか? なんだかな。
心の中ではそう思っていたけれど、友人達には自慢しまくって、心に空いた穴を何とか優越感で埋めた。
だけど、右も左も分からず迷える子羊のような篠崎さんに頼られるのは、母性本能がキュンキュンと刺激され嬉しかった。
私って、頼られると弱いのよねぇ。
彼女は若く見えるから、もしかしたら十代で子供を生んでいるのかもしれない。知り合いのママ友もこの小学校にはいないみたいで、常にどこか緊張したような表情のままだった。私がこの小学校でのママ友第一号だと思うと、何となく嬉しい。
こんな風に私と篠崎さんのクラス役員がスタートしたのだった。
最初迷える子羊のようだった篠崎さんも、クラス役員や広報の会議などで顔を合わし話すたび、だんだんと打ち解け親しくなっていった。そして、いつか下の名前で呼び合うようになり、メールや電話で連絡を取り合うようにもなるほど親しくなる頃には、篠崎さんの最初に感じた印象はすっかり消えて、芯のしっかりした真面目で頑張り屋の良いお母さんというイメージに変わって行った。
それでも、彼女に対して何か違和感を覚えるのは、守谷先生と一緒にいる時だ。彼女はいつまでたっても、守谷先生といる時緊張が取れない。その緊張は、他の人が守谷先生の傍にいる時に感じるポッと頬を染めるような緊張では無く、どこか怯えたような緊張なのだ。思い返せばそのことが、頭の片隅にずっと引っかかっている違和感だった。
守谷先生もそうだ。最初に今年度は保護者と少し距離を取るのかなと懸念したように、会議の時に間近で話をしても、以前のような笑顔が無い。黙々と会議を進めるだけで、無駄話一つしない。
どうしちゃったの? もしかして、保護者と打ち解けるのが怖くなったの?
そんなこと、訊ける訳もなく、私はこの二つの違和感を抱え悶々としていた。
美緒ちゃんに会う度、新しい事実を知り驚いてしまう。まるでそれはびっくり箱のようで、何かまだまだ秘密を隠し持っているような気になる。
最初から何か訳ありな感じで、自分のことはあまり話さない美緒ちゃんだったし、聞いてはいけない雰囲気があったから、彼女から話してくれるのを待っていた。
けれどキャンプに誘った時、旦那も一緒に行くのか気になり、もう待てないとばかりに尋ねてみると、彼女は申し訳なさそうに真実を話してくれた。
『千裕さん、ごめんね。気を遣わせて。実は拓都は亡くなった姉夫婦の子なの』
その話を聞いた時、私の中にあった美緒ちゃんに関する疑問が、パズルがぴったりはまるように解けた気がした。
そして、彼女の話を聞いて、あらためて彼女の強さを実感した。まだ二十代の独身の女性だから、恋や結婚にもあこがれるだろうと思うのに、全てを飛び越えて子育ての道を選ぶのは、苦渋の選択だったのでは? 否、彼女の性格からしたら、その道しか選べなかったのだ。たった一人で、頼る身内もなく、子育てして来たのかと思うと、母親という立場からしたら胸が痛い。私なんか旦那にも親にも甘えているのに。
そんな話をすると、彼女は優しく微笑んで、同じような立場の友達が支えてくれたと教えてくれた。そして今は、お隣のおばさんと、千裕さんがいるからと、嬉しいことを言ってくれた。
彼女はこのことを学校にも言っていないと言う。養子縁組までしていると言うのには驚いた。よっぽどの覚悟なのだろう。
そして、彼女に感じていた違和感の正体について、やっと思い至った。学校側にこのことを知られたくなくて、守谷先生の傍にいる時に怯えたように緊張していたのだと。
私はあらためて、友としてできる限りの協力をしていこうと心に決めた。私はやっぱり頑張っている人の応援をするのが、嬉しかったのだ。
二学期が始まると、翔也のクラスに転校生があった。その子の母親と美緒ちゃんはK市にいた頃、シングルマザー同士で助け合った友達なのだと紹介された。そのお友達は再婚を機にこちらへ引っ越してきたのだった。子供も二人ともウチの子たちと同じ学年だった。
美緒ちゃんとは十歳違うらしく、私よりも年上で、サッパリとした頼りがいのある気持ちのいい女性だった。私達は美緒ちゃんがいたおかげで、すぐに打ち解けた。美緒ちゃんも私といる時よりも、その由香里さんという友達を頼っているような感じだった。
そんな由香里さんから知り合ってすぐに電話があった。
「これは美緒に内緒なんだけど、美緒は独身で、拓都君はお姉さんの子供だということは知っているよね? それで、美緒はこちらの友達とは立場が違っちゃったせいか、あまり友達がいないのよ。だから、千裕ちゃんが友達になってくれたことをとても喜んでいたの。彼女はいろいろと辛い思いもしているし、今も辛いことがあると一人で抱え込んでしまうようなところもあるから、さりげなく助けてあげてほしいのよ。私は彼女にとって叱る役目だから、千裕ちゃんはフォローしてほしい。美緒は生真面目なうえに頑固なのよ。それに変にプライドが高いから、時々叱り飛ばしてやるの。素直になれってね。フフフ」
由香里さんからそんな電話を貰って、私達は美緒ちゃんに対して同じ想いでいるんだと安心した。そして、由香里さんに友達として認めてもらったようで嬉しかった。
それから時々、由香里さんとは連絡を取り合った。けれど、十二月に忘年会と称した女子会をするまで、美緒ちゃんがとても辛い恋をしていたなんて、思いもしなかった。美緒ちゃんの悩みは拓都君のことばかりだと思っていたから。
知り合ってからもうずいぶん経つのに、今までそのことを話してくれなかったのは、ちょっと淋しかったけれど、私の中で、もしかして美緒ちゃんは守谷先生のことが好きなんじゃないかなって思い始めていたから、本当のことを知ってちょっとホッとしたんだ。
だって、守谷先生には愛先生がいるし、担任と保護者じゃ、ね。やっぱり難しいと思う。
守谷先生と言えば、二学期になってから、私達に対する態度が一変した。一学期は役員会議の時、笑いもしなかったし、どこか厚い壁を感じていたのに、穏やかな表情で笑顔も出るようになったし、冗談の突っ込みにも笑って返ってくるようになった。
いったい守谷先生に何があったの? と考えて見て、あの不倫騒動の藤川さんのことが解決したのが大きいのかなと結論付けた。
まあ、なんにしても以前のような守谷先生に戻ってくれるのなら、何よりだ。
守谷先生が変わったせいだろうか? 美緒ちゃんの緊張も、落ち着いてきた。それはたんに慣れただけなのかもしれないけれど、以前は守谷先生とまともに顔を合わすことさえ避けているような緊張感があったから。
*****
もう二学期もあと残すところ三日となった十二月二十二日、個別懇談が行われる。一応個別懇談は二十日から二十二日の間の希望日時ということで、私と美緒ちゃんと由香里さんは、相談して二十二日の午後三時台に順番で組んでもらえた。また、懇談終了後、一番近い我が家でお喋りしようという計画だった。
十七日に女子会で集まったばかりだというのに、私達は幾らでもおしゃべりできるから不思議だ。そう思っていたら、美緒ちゃんから、今日の懇談に仕事で早退できなくなったため行けなくなったとメールが来た。
残念だけど、仕事なら仕方ないよね。
私は『了解。お仕事がんばって! 明日、よろしくね』と返信した。
そう、明日の二十三日は祝日でお休みだから、昼間に一足早いクリスマスパーティーをしようということになっている。今まで美緒ちゃんは、シングルマザーの会の人達とクリスマスパーティーをしていたらしく、今年できないのは拓都君が可哀そうだと由香里さんがこっそりと教えてくれたので、私の家で三家族集まってパーティーをすることになっているのだった。
懇談の時間になり、呼ばれて教室の中へ入って行くと、一学期と同じように子供の机を向かい合わせにして席を作ってあった。傍に置かれたファンヒーターが点いて温かい。教室は冬冷えるんだと改めて実感した。
「守谷先生、よろしくお願いします」
そう言いながら促されて先生の前のいすに座った。前回と同じように守谷先生は、翔也の普段の様子を話し、成績表を前に広げて説明していく。
こんな時の守谷先生は、本当に普通の先生なのだけれど、子供の様子を話す時に零れる笑みが素敵で、小さな子供でもこの笑みに惹きつけられるんだろうなと考えながら、自分もその惹きつけられた一人かと心の中で苦笑した。
あらかた説明が終わった頃、私の携帯がメールの着信を告げた。マナーモードにし忘れたため、設定していた着信メロディが流れ、慌てて止めた。そんな私を見ていた守谷先生が、「メールですか? 見てくださって構いませんよ」と言ってくれたけれど、「メールですから後でいいです」と携帯を又鞄の中へしまった。
その時携帯のことでふと思い出し、守谷先生に問いかけた。
「守谷先生の携帯の待ち受けって、虹の写真なんですってね?」
私の問いかけに先生は驚いた顔をした。
「どうして知っているんですか?」
「ふふふ、本部役員の人で覗き見た人がいて、噂で聞きました。守谷先生の待ち受けだから、もっとみんな期待していたんだけど、虹の写真と聞いて、がっかりしていましたよ」
「どんな写真を期待していたんですか?」
「そりゃあ、彼女の写真とかですよ」
「そんなプライベートな写真は、誰に見られるかもしれない待ち受けになんかしませんよ」
「あっ、彼女というのは否定しませんね?」
「ノーコメントです。教師と言えどプライバシーはありますから」
「ふふふ、そうですね。 じゃあ、その虹の写真は、もしかしたら『にじのおうこく』の虹の架け橋を真似て撮ったものですか?」
そう訊いた途端に、先生の表情は先程以上に驚いた顔になった。
「えっ? どうして? もしかして、何か聞いているんですか?」
「えっ? それはどういうことですか?」
何か聞いている? ってどういう意味? 誰に?
「いや、いいんです。私の勘違いでした。でも、どうして『にじのおうこく』が出て来たんですか?」
守谷先生は困惑したような余裕の無い物言いで訊いて来た。
ああ、やっぱり当りなんだ。守谷先生も案外ロマンチックだねぇ。
「ふふふ、当たりですか? 何かその絵本のせいで虹の写真を送り合うのが流行ったんですか? 篠崎さんも虹の写真を待ち受けにしているから、理由を聞いたら『にじのおうこく』の虹の架け橋の真似をして撮ったものだって言っていたんですよ。守谷先生も彼女から送って来た虹の写真ですか?」
私はクスクス笑いながら言うと、きっと愛先生から送られてきた虹の写真だろうなと思った。
仲のよろしいことで。
「西森さん、もしかして、カマかけている?」
「はぁ?」
カマかける? なんだそりゃ?
「いや、いいです。篠崎さんも私の待ち受けが虹の写真だと知っているんですか?」
「えっ? 篠崎さん? はぁ、まあ、そうですけど。そういえば、守谷先生と篠崎さんって、折り紙と言い、虹の写真の待ち受けと言い、結構趣味が似ていますよね? 篠崎さんと愛先生って似ていますけど、趣味も似ていますか?」
フフフ、今日は突っ込んだこと訊いても会話が続いているから、ポロリと何かバラしてくれないかなって、私は芸能記者か!
「えっ? 愛先生? 彼女は別に折り紙が好きだとか、虹の写真が好きだとか聞いたこと無いけど」
守谷先生はそう答えながら、怪訝な顔をしている。
あっ、もうこれ以上はまずいかも。でも、最後に一つ。その反応だけでも見て見たい。
「待ち受けの虹の写真は、愛先生から送られて来たんですか?」
そう言った途端、目の前の守谷先生の表情はすっと冷めたものになった。
「西森さん、さっきも言ったように教師にもプライバシーはあるので、興味本位にいろいろ訊かないでください。それに、大原先生とは何も関係ありませんから、彼女に迷惑をかけるような噂は流さないでくださいね」
一学期の時のような距離を置いた冷たい表情に、怯んでしまった。ああ、怒らせてしまったと、すぐに「ごめんなさい」と謝った。守谷先生の方も、すぐに表情を緩めて「私の方もきつい言い方をしてしまってすみません。でも本当に、プライバシーは勘弁してくださいね」と念を押された。
それにしても、愛先生とは関係ない?
付き合っていないということ?
じゃあ、虹の写真は誰から送られてきたの?
自分が撮った写真だという反論は無かったよね?
*****
「それで千裕は、守谷先生に怒られて、落ち込んでいる訳だ」
パパにそう言われて、私は神妙に頷いた。
私はその日あったことをいつもパパに話す。他の人には口が軽い訳じゃないけど、パパにだけはなぜだか話してしまう。それはまるで日記を書くように、その日あったこと、自分が感じたことを話すのだ。
パパは呆れながらも、耳を傾けてくれる。もしかしたら聞き流しているのかもしれないけれど、結構昔に話したことも覚えていたりするから、きちんと聞いてくれているのだと思う。
「落ち込んでいるというか。愛先生と付き合っていないのかなって。それにね、懇談の後で由香里さんにその話をしたら、『千裕ちゃん、いい突っ込みしてくれたねぇ』って言うのよ。どういう意味かな?」
「そりゃー、言葉どおりの意味だろう? 守谷先生の本音が聞けたという意味で」
「守谷先生の本音? 愛先生と付き合っていないっていうこと? でも、それが分かっても、由香里さんは別に守谷ファンってわけじゃないし。噂話が好きなのかな? そんな感じじゃないけど」
「千裕は本質が見えてないなぁ。ほら、その『にじのおうこく』の真似をして虹の写真を送り合うっていうのも、以前、美緒さんから訊いた時、そういうの流行っていたのかなって、千裕言っただろ? あの時俺も興味があったから、ネットで調べてみたんだよね。でも、そういうのは一つも出てこなかったよ」
「ええっ? じゃあ、それってまったくオリジナルってこと? じゃあ、じゃあ、美緒ちゃんと守谷先生ってまったく同じこと考えたってことかな? 今日の守谷先生の反応じゃ、『にじのおうこく』の真似をしたって言っているようなものだったし」
「千裕、確かに別々に同じことを考えることもあるかもしれないけど、その二人が送り合ったって考える方が自然じゃないか?」
「えー!! それは無い、無い! パパ、思い出してよ。美緒ちゃんの好きな人は仕事の関係で再会したって言っていたのよ。拓都君のことだって、まだ話していないって」
「でもさ、守谷先生のファンだって公言しているおまえに、言い辛くて隠しているのかもしれないだろ?」
「そんな……。そんなこと無いよ。あり得ないよ。今日守谷先生は、彼女いること否定しなかったし。美緒ちゃんはまだ片想いのようなこと言っていたし、もしもそうだとしても、その虹の写真は今の彼女からの写真かもしれないじゃない?」
「おまえ、可哀そうな想像するんだな。もしも、守谷先生の元カノが美緒さんだったら、美緒さんと交換していた虹の写真を、また今の彼女とも同じことをするかな? 美緒さんは元カレからの写真だって言っていたんだろう?」
「そうだけど、やっぱりあり得ないよ。美緒ちゃんの元カレが守谷先生だなんて。パパ、思いすごしだって! 虹の写真が引っかかっているだけでしょう? たまたま同じこと思ったんだって!」
私は否定しながら、パパの推理に思い当る部分を気付かない振りをした。
そんなこと、やっぱりあり得ないよ。
もしそうなら、話してくれるはずだよね?
それともパパの言うように、言い辛くて隠しているの?




