第8話「時を越える廊下」
翌日。あっという間に授業は終了し、放課後が訪れた。
オカルト部員になってしまったシズクは、これから部室に行かなくてはならない。もとの世界に帰れる手段になるような活動がしたいが、どうも違うことをやっている気がする。
シズクは深めにため息を吐くと椅子から立ち上がった。カバンを片手に携え、教室から出ようと足を動かす。が、すぐにその足を止めた。
目の前に桜花がいたのだ。金色のサイドテールの毛先をくるくるといじり、どこか恥ずかしそうに聞いてくる。
「あ、あんたさ。今日も部活行くの?」
「へ? ああ。部員ってやつになったからな。入ったからには行かないと。パーティーと一緒さ」
「あいや、パーティーと一緒かどうかは別にどうでもいいんだけど、今日も体験入部してみようと思ってるから、一緒に行かない?」
緑色の目をタイル張りの床に向け、桜花はもじもじと体を動かす。
「それは構わないけど、どうしたんだお前。昨日、あんな目にあったのに」
「そ、それはそうなんだけどさ。なんか、もう一回部活の空気を感じてみたいっていうか。……って、何言わせんのよ!」
「はあ? お前が勝手に言ったんだろぉ!? てか、部活の空気って何」
桜花がどんな考えで『部活の空気』という言葉を発したのか、シズクにはまるで分からない。けれど、普段教室にひとりでいる桜花の顔に、心なしか楽しそうな色が見えたので、シズクはそれ以上聞き返すことはしなかった。
「いいから! 行くんでしょ、部室」
恥ずかしさを隠すように大きな声で言うと、桜花はくるりと反転する。そして肩越しに振り返り、
「ほら、さっさと行くわよ、橋崎」
「はいはい、分かりましたよ~」
シズクは後頭部をぽりぽりと掻くと、桜花と一緒に教室をあとにした。目指すはオカルト研究部部室。今日は一体なにをするんだろうか。
ガラガラと扉を開け、シズクたちは部室に入る。すると、目に飛び込んできたのは、机に置いた消しゴムを指で弾いて遊んでいる結依たちの姿だった。
「お、お前ら、何してんだ?」
苦笑混じりに聞くと、琴夏は消しゴムに向けていた顔をシズクたちに向ける。
「お、来たか。橋崎に桜花。今、熱い戦いをしてたところなんだ。消しゴムを指で弾いてこの机から弾き飛ばした方が勝ちっていうゲームな。これが終わったらお前らも入れてやるからちょっと待ってろ」
そう言うと、琴夏は再び消しゴムに意識を集中する。細い人差し指でピンと消しゴムを弾き、誰かの消しゴムにぶつける。
どうやら、ぶつけられた消しゴムは明日香のもののようだ。明日香は微かに苦しい顔をすると、「やりますねぇ、琴夏先輩」と赤い瞳を輝かせながら唇の端を釣り上げる。
「おいおい、今日は部活ないのか?」
「いえ、ありますよ」
消しゴムに目を向けたまま、結依が答えた。
「え? じゃあなんで」
消しゴムで遊んでるんだよ、と言おうとした時だった。結依と琴夏の落胆する声が響いた。視線を机の上に向けると、明日香の消しゴム以外なくなっている。見たところ、明日香が一度の攻撃で二つの消しゴムを落としたらしい。
明日香は「ふふん、私を侮ってもらっては困りますよ、先輩方!」と得意げな笑みを浮かべている。
琴夏と結依は悔しそうに顔をしかめると、「くぅぅぅ」と唸った。何なんだこれは。
ひとしきり悔しがると、結依が小さく手を叩いた。シズクの意識はそちらに向けられる。
「橋崎さんも桜花さんも来ましたし、今日の活動内容について説明しましょうか」
結依はホワイトボードの前まで移動すると、黒のマジックペンでキュキュッと筆を走らせる。そこには、『神ケ谷高校七不思議その二、時を越える廊下!』と書かれた。
「時を越える廊下? なにそれ?」
椅子に座った桜花が小首をかしげながら、疑問を口にした。
「その名のとおり時間跳躍の出来る廊下のことです。それが、なんと、うちの学校の廊下にあるというのですよ、桜花さん!」
結依は目を大きく見開き、興奮気味に腕をぶんぶんと振る。しかし桜花は信じられないようで、「いやいや、まさか」と苦笑い。
そんな二人のやり取りを眺めていると、シズクの視野の隅で誰かの手が挙がった。確認すると、それは明日香の手だった。
「はい質問質問。ねえ、結依先輩。もし本当にその廊下で時間を越えられるなら、みんな毎日学校に来てるわけだし、結構な数の生徒が時間旅行してるんじゃないですか?」
言われてみれば確かにそうだ。学校には毎日多くの生徒が登校している。そうすると、その『時を越える廊下』というのを移動教室の際などに使っている生徒も多くいるはずだ。しかし、廊下を歩いてたら時間移動しちゃった、なんて噂シズクは聞いたことがない。
そんなことを考えながら、シズクは結依に視線を戻す。
「フフ、いい質問ですね、明日香。実はこれには条件があるんですよ! その条件とは、十六時四十四分に、特別棟一階の廊下を全速力で走ることなんです! この条件を満たせば、時間跳躍が可能らしいです。つまり、ほとんどの生徒が条件を満たさずに廊下を使っているため、誰も時間旅行をしておらず、これが七不思議になったってわけです」
「なるほど。そういうことですか」
ぽんと左の手の平に右の拳を打ち付け、明日香は納得する。同時にシズクも心なかで納得した。
結依は部室の壁に掛かっている時計に目を向ける。
「ちょうど今は十六時三十七分。もうそろそろ時間なので移動しましょう。みなさん、今回は時間旅行ができるかもですよ!」
やけにテンションの高い結依を先頭に、シズクたちは特別棟一階を目指す。
シズクたちは特別棟一階の理科室前にやってきた。理科室があるのは廊下の一番端、つまりは特別棟の端っこにいるというわけだ。
廊下は目測で七十メートルほど。向こうの尾端は壁になっているが、そこを左に曲がれば体育館へと通じる廊下になっている。バスケ部やバレー部が活動している声が微かにここまで聞こえてくる。
シズクは足首を回し、軽く準備運動をする。この世界の体はどうにも運動不足だ。モンスターが出ないという平和な世界のため仕方がないのかもしれないが、それにしてもこの体は運動不足すぎる。万が一怪我でもしたら大変だ。
「もうそろそろ時間ですね。準備しますか。それじゃあ、誰が走ります?」
時計を確認し終えた結依が言った。
「俺が走ろう!」
シズクは廊下の先端に移動する。
「あ、静久先輩、私も走ります!」
手を挙げて明日香が破顔しながらぴょんぴょん跳ねる。
「私も走ろう、かな」
サイドテールの先端を指先に絡めながら、桜花も立候補した。昨日、あんな目にあったというのに、めげずに七不思議にチャレンジするらしい。
「それじゃあ、今回はこの三人にやってもらいましょうか」
「結依と琴夏先輩はやらないのか?」
怪訝な目でシズクが訊ねる。さっきまで興奮気味だった結依がやらないのは意外だった。
「今回はパスですね。特に変えたい過去も、行ってみたい時間もありませんので」
「私もパスだ。タイムパラドックスが怖い。これでもし変なふうに時間が変わったら、お前らのせいだからな」
なぜか変なプレッシャーを与えられてしまった。言った本人がいたって真面目な顔をしているのがタチが悪い。
シズクの左側には明日香が、右側には桜花が並ぶ。しかしどうして彼女らはこの七不思議に参加しようと思ったのだろう。
「なあ明日香、なんでお前は時間を越えようと思ったんだ?」
クラウチングスタートの態勢になっていた明日香は、顔だけを上げてシズクを見る。
「そうですねぇ。今日のお昼ご飯、A定食じゃなくてBランチにすれば良かったなー、と思ってまして。だからですかね」
「あんたの理由ちっちゃいわね!?」
シズクの右側から桜花の声が飛んだ。
「そうですかー。小さいですかね? 食べ物の後悔は結構引きずりますよ? 桜花先輩」
「ああ、確かに明日香の言うとおりだ。食べ物の後悔は重く長い」
シズクにもそれなりの経験があるので、明日香の言いたいことは充分に理解できる。
「それじゃあ、桜花先輩はなんで時を越えようとしてるんです?」
何気ない声音で、明日香が質問した。シズクもそれには興味がある。儀式のときといい、噴水の水のときといい、桜花はあまりやる気ではなかった。にも関わらず、今回はなぜか自分からやると言い出した。それはどうしてなのだろうか。
桜花は返答に窮すると、そっと目を逸らす。わずかに目を伏せ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「わ、私にだって変えたい過去くらいあるのよ」
それ以上、桜花は口を開くことはなかった。どうやら教えるつもりはないらしい。
「もうじき四十四分になります。皆さん、準備はいいですか? 五……四……」
結依は時計を見ながらカウントダウンを始める。体の芯が妙に冷え、変な緊張が走る。
「三……二……」
もしもこの七不思議が真実で、本当に時間を越えるとこができるなら、シズクがこの世界に来るという未来も変えることができるかもしれない。
あの日、転送されてきた日に戻ることができれば、その時間には橋崎静久という人間の体がふたつ存在することになる。それはつまり、転送先が重複するということ。ひとつの意識をふたつの体に宿すことは不可能なため、恐らく異世界転送はキャンセルされることになるはずだ。そうすれば、おのずと未来は変わり、改変された未来にはシズクがこの世界に転送されたという事実はなくなっているはずだ。
「……一、スタート!」
三人が同時に加速する。
クラウチングスタートでスタートダッシュを決めた明日香がわずかに前に出るが、シズクも負けじと足を動かす。シズクは懸命に走りながら、ちらと右に目を向けた。意外なことに、桜花の方がシズクよりもいくらか速いではないか。
鋭く息を呑むシズク。ここで負ければ英雄の名が廃る、そう思い、腕を大きく振って勢いを付け、さらにスピードに乗る。
「やりますね、静久先輩。けど、私にはBランチがかかってるんですよ」
「お、俺には未来がかかってんだよ!」
「わ、私にだって…………!」
息を切らしながら、三人がそれぞれの願いを口にする。
一心不乱に加速し続け、徐々に足が熱くなっていく。それに伴って、廊下の端が近づいてくる。もう残り数メートルしかない。この七不思議が本当なら、あと少しで未来が……。
ゴールも目前に迫った時だった。明日香が急にスピードを落とした。
「静久先輩、桜花先輩、止まって!」
桜花は「え? 何によ」と怪訝な顔をしながら止まるが、シズクは足を止める気など毛頭ない。
「ふはは、馬鹿め! 時間跳躍の途中で止まるなんて、お前らの願いはそんなも――ぐぼぁ!」
言い終える前に、シズクの体は何かに吹き飛ばされた。壁にぶつかった感覚とは明らかに違ったが、シズクは背中から地面に叩きつけられる。鈍い痛みが背中から順に広がっていく。
「いてててて…………」
シズクは背中をさすりながら、閉じていた瞼をゆっくりと開ける。そこにいたのは、いかついゴリラのような顔をした、屈強な肉体を持つ男性教師だった。顔を鬼のように真っ赤に染め、荒い息遣いでシズクのことを見下ろしている。
「廊下を走ったのは、お前だな」
重低音がしっかりと効いた、厳かな声音だ。火照っていたシズクの体が、一瞬にして冷気に包まれる。
「あえっと…………。走っていたというよりは、時間を超えよとしてた、というか」
「あん? なにを訳のわからないこと言ってんだ? てか、いつまで廊下に座ってんだ、おら立て」
背中を掴まれ、そのまま力任せに持ち上げられる。
「バスケ部の指導に行こうと思ってたところだが、まずお前の指導の方が先みたいだな。あんな全速力で廊下を走るなんて非常識であり、言語道断だ。生徒指導室に行くぞ」
男性教師はシズクの体を持ち上げたまま、方向転換し、生徒指導室へ行こうとする。
「あ、ちょ、ちょっと待て!」
「なんだ、言い訳か?」
「走っていたのは俺だけじゃなぁい! あそこの女子ふたりも走っていたじゃないか!」
男性教師は「あん?」と眉間に皺を寄せ、桜花と明日香に目を向けた。いつもにこにこしている明日香でさえも、男性教師に睨まれて少しばかり表情を固くしている。よほど怖いと評判の教師なのだろう。
「お前らも走ったのか?」
「走ったっていうか、静久先輩が走ってたからそれを止めようとしてただけですよー。ね、桜花先輩」
「そ、そうね。明日香が『止まって』って言っても橋崎、止まらなかったし」
ふたりともシズクと目を合わせようとしない。明日香から「止まって」とは言われたが、そのときには三人とも充分加速していた。全力疾走していたという事実からすればシズクたち三人は皆同罪のはずだ。
シズクは瞳に微かに涙の雫を浮かべ、
「この裏切り者ぉおおお!」
「あん? 何が裏切り者だ、おめぇ! 女子に罪を着せようとしてたなんて、男の風上にもおけねぇな! 久々に説教のあと反省文二十枚に、俺の考案したオリジナル筋トレ十セットだ! おら、行くぞ」
「あ、ちょ、ちょっと待って! いや、待ってください! いやぁあああああああああ!」
シズクの願いは聞き届けられず、男性教師に持ち上げられたまま生徒指導室へと運ばれていった。
結局、解放されたのは二時間半後だった。反省文を二十枚書いたことによる手首の痛みと、筋トレによる腕・腹・太もも・ふくらはぎの筋肉痛によって、シズクの体はボロボロになっていた。
荷物が部室にあるため、痛む体を無理に動かし特別棟三階へと戻る。もう十九時を過ぎているため、誰もいないと思っていたが、意外にも部室の電気はついていた。
中からは楽しげな声が聞こえる。軽く恨めしく思いながらも、シズクは扉を開けて部室に入る。するとそこには、談笑する女子メンツの姿があった。
結依や琴夏、明日香の笑顔はもちろんあったが、その中には桜花の笑顔もあった。
いつも学校ではひとりでいることが多く、出会ってから一度も笑顔を見たことのない桜花が、結依たちと談笑していたのだ。
その姿に新鮮さと驚きを感じていると、女子部員全員が一斉にシズクの存在に気づき、視線を向けてきた。
「あ、橋崎さん。お勤めご苦労様です」
結依の声とともに、みんなが同時にぺこりと小さく頭を下げる。結依や琴夏はいいとしても、問題は桜花と明日香だ。シズクは彼女らをジト目で睨む。
「お、お前らなぁ……さっきは良くも……」
頬をピクピクと痙攣させ、固く握った拳が震える。
「ごめんね、先輩。けど、止まって、て言ったじゃないですかぁ。私、嘘ついてませんよ?」
「嘘じゃなくても、事実じゃねぇだろ! お、俺が……俺がどんな仕打ちを受けたことかぁ!」
シズクの瞳には、いっぱいの涙が溜まっている。向こうの世界ではこんなことはなかった。せいぜい、ミアラの魔法を命中させるために、モンスターの囮にされたくらいだ。
「ご、ごめんね、橋崎。あの先生の怖さに、ちょっと自分から身を捨てる覚悟は持てなかったわ」
「っ…………。もう、いいっ。それで、結局今回の七不思議の結果はどんな感じで落ち着いたんだ、結依?」
「そうですね。橋崎さん、怒られてる時、どんな風に感じました?」
質問に質問で返され、少しばかり当惑したシズクだったが、聞かれたからには答えなければいけない。思い出したくもないが、生徒指導室での出来事を脳内で再生する。
「……時間が止まったように感じたな、うん」
「じゃあ、それにしましょう。今回の七不思議は、『時間旅行ではなく実は、時間静止旅行だった』ということで」
安易に結論を出した結依に、シズクは即座に口を開く。
「いやちょっと待て。あの先生にぶつかっただけで、まだ廊下を完走しきれてないぞ。それで七不思議の結論を出していいのか?」
「ええ。構いませんよ。恐らく、あの先生にぶつかるところまでが七不思議だと思いますんで」
「は?」
「あの先生は生徒指導兼バスケ部顧問の強井先生です。職員室の先生に聞いたのですが、強井先生はいつも、バスケ部の指導に行く前に、先に職員室で仕事を片付けているそうです。そして、その仕事が終わるのがいつも大体十六時四十分頃」
結依はホワイトボードに図を書き、説明を続ける。
「体育館に繋がる廊下は、職員室のある普通棟一階と特別棟一階の廊下と繋がってますので、強井先生が仕事を終え、体育館に向かおうと特別棟に足を踏み入れるのは、おおよそ十六時四十四分だと考えられます」
「じゃ、じゃあ、この七不思議ってのは……」
「たぶん、強井先生にぶつかって、橋崎さんのように時間が止まっているように感じた誰かが、七不思議っぽく言い換えたんでしょう。強井先生が先ほど『久々に』と言っていたことからも、前にも似たようなことがあったのだと思います。大方、自分と同じ目に合わせてやろうとでも思ったんじゃないですか?」
ということは、まんまとシズクは嵌められてしまったと言うわけだ。怒られ、筋トレをさせられ、挙句の果てに時間跳躍もデタラメだった。ことごとくついてない、とシズクは心中で愚痴を吐露する。
「そういや、何でこんな時間まで残ってるんだよ? いつもは結構早く帰るのに」
シズクは俯けた顔を上げる。それに答えたのは琴夏だった。
「いやあ、お前を待ってたんだよ、橋崎」
「俺を?」
「さすがに今回は橋崎ひとりの負担が大きかったと思ってな。だから私たち考えたんだよ」
琴夏が何を言いたいのか、シズクにはいまいち把握しきれない。こんな時間まで残ってシズクに何をしようというのだろうか。
琴夏は座っている全員に目配せをする。桜花、結依、明日香がこくりと頷き、各々自分のカバンに手を突っ込む。何やらゴソゴソと中を探り、取り出した物を机の上に置いた。
「な、何だよ、それ」
「何って、見ての通りジュースだよ。これでも飲んで心の傷を癒せ、橋崎」
内心、何かもっとひどいことをされると思っていたが、まさか気遣ってくれるとは考えてもみなかった。机の上に置かれた四本の缶ジュースを眺め、シズクは心が温かくなるのを感じた。
「ま、全部カルプスだけどな。残さず飲めよ」
悪戯な笑みを浮かべた琴夏が、ジュースをこちらに差し出してくる。
「味全部同じかよっ! けど、ありがとな。残さずしっかりいただくよ」
シズクは優しく微笑むと、琴夏からジュースを受け取った。全員がじっとシズクを見つめている。どうやら今ここで飲め、ということらしい。
ふぅ、と息を吐くと、シズクはほぼ一気飲みのような勢いで四本すべてのカルプスを飲み干した。わずかに口許に付いたカルプスを、制服の袖で強引に拭い取る。
「の、飲みきったぞ……。ありがとな、お前たち」
桜花たちが「おおー」という感嘆の声とともに、パチパチと拍手をする。一体どういう空気なのか分からないが、シズクは何となく嬉しくなる。
散々な目にあったが、もしかしたらこれも案外悪くないかもしれない。久しく感じていなかった仲間との時間を、再び感じることができたのだから。
こんにちは、水崎綾人です。
実際に廊下を走って時を超えれたらどんなにいいか……。私自身にも色々とやり直したい過去があります。
もっともっとインプットしておけば良かった、とかね。
ですが、前を向いて精進していきたいと思っております!
それでは、また次回!