第1話「見知らぬ世界」
しばらくすると、シズクは再び意識を取り戻した。未だ頭痛は残るが、問題視するほどの痛みではない。
小さく頭を振り、ゆっくりと目を開く。開けてすぐは歪んでいた視界だったが、それも徐々に明瞭になっていく。
鮮明になった視線の先にあるものを見て、シズクはぽつりと言葉をこぼした。
「ん? なんだこれ」
シズクの正面には、深緑色の巨大な板がひとつ。生まれてこの方見たことがないものだ。
訝しげに感じながら、シズクは腰に手を当てた。と、そこであることに気づく。
いつもなら腰に手を当てれば安い革の感触が手に伝わるのだが、今は違う。伝わってくるのは、とても滑らかで良い質感。
ちらと自分の着ている服に目を落とす。
「――っ」
視線の先にあったのは、普段着ているような安価な黒革のコートではなく、見知らぬ紺色の上着に灰色のズボンだった。
目をぱちくりさせながら、自分の激変した服装を見つめ固まるシズク。今の状況に脳の処理が追いつかない。
これは一体どういうことなのだろうか。目が覚めたら見知らぬ場所で、覚えのない格好をしている。
「え、待って。ちょっと待って。いや、待ってよ」
などと、多少混乱しながら、シズクは今の状況についてあれこれと考えを巡らせる。
ミアラとフィールとともに行ったあの平野で、シズクは儀式の最中に頭痛によって気を失った。となると、ミアラとフィールは宿屋かどこかで介抱してくれたはずだ。
が、しかし。今現在シズクがいる場所は、宿屋とは到底思えない見知らぬ場所。それに、介抱するならベッドに寝かせるのが普通だ。けれど、意識を取り戻したときには既に直立姿勢だった。それに、ミアラもフィールも近くにいない。
ますます状況が飲み込めなくなるシズク。
と、そんな時だった。後ろの方から声が聞こえた。驚きと疑問の色が含まれた声だ。
「……ちょ、ちょっとあんた……」
シズクはビクンと肩を揺らして喫驚し、すぐさま声の主の方へ振り返る。
するとそこには、艶やかな金色の髪を右側頭部でひとつに束ね、澄んだ緑色の瞳が特徴的な少女がこちらを見て立っていた。
窓の鍵部分に手を当てていることから考えるに、彼女は鍵を閉めていたのだろう。
少女を見つけたシズクは、今の状況を説明してもらおうと、すぐさま彼女に駆け寄る。
「お、教えてほしいんだけど、あの深緑色の板は何だ?」
少女は、はあ? と言いたげな顔をすると、シズクのことを怪訝な目で見つめながら答えてくれた。
「深緑色って……ああ、黒板のこと? てか、そんなことよりも聞きたいこ――」
少女の言葉を遮り、シズクは次の質問をぶつける。
「じゃ、じゃあ、あれだ。この服は?」
「え? 服? いや制服でしょ。……じゃなくて、私からも質問が――」
「あえっと……じゃあ、ここはどこなんだ? 見た感じ、宿屋じゃないっぽいけど」
「いや、ここはどこって……そりゃ、学校でしょう。てか、宿屋ってなに」
「学校……?」
シズクの中では馴染みのない言葉だった。聞けば聞くほどこの状況が理解できなくなっていく。
「あのさ、私からも質問あるんだけど――って、ちょっと聞いてる、橋崎?」
少女が発した言葉に、腕を組んで黙考していたシズクが、はっと顔を上げる。
「は、はしざき? はしざきって誰だ?」
「誰って、あんたの名前でしょ。橋崎静久」
当然のようにそう言われ、シズクはよろよろと後ろに下がる。
そんなシズクの様子を見て、少女が心配そうに眉を寄せる。
「ねえ、ちょっと大丈夫? 顔色悪いけど」
「いや、正直全然大丈夫じゃない。もう頭パンクしそうだ。……そ、そうだ。こういう時はあれだ、あれ。一度宿屋でゆっくり休むべきだな。な、なあ、この辺に宿屋ってあるか?」
少女は一層怪訝な顔する。
「宿屋ってホテルってこと? 駅の近くとか中心街に行けばあるとは思うけど」
「なるほど。駅の近くと中心街だな。分かった、とりあえず行ってみる」
実際のところ、『駅』というのがどういう意味なのかシズクには分からなかったが、中心街というのは理解できた。シズクの慣れ親しんだあの街にも中心街と呼ばれる活気溢れる地域があったからだ。
シズクはふぅ、と小さく息を吐くと、そのまま教室から出ようと歩を進める。
「え、ちょっと橋崎!? まだ日直の仕事終わってないんだけど! ていうか、私からもあんたに質問あるんだけど!」
何やら言っていたが、シズクは特に耳を貸すことなく学校を後にした。
学校を出ると、空は茜色に染まっていた。白かったであろう雲も夕焼け色に着色されている。鼻で大きく息を吸ってみれば、どこからか漂ってくる美味しそうな匂いに鼻腔がくすぐられる。思わず、どこか懐かしい気分に浸ってしまう。
「ここは一体どこだ……? もう、マジでわかんないんだけど」
独り言ちながら、とぼとぼと知らぬ景色の中をひとりで歩くシズク。
目に見える一般住宅も、シズクからしてみれば馴染みのないものばかり。行き交う人々も、シズクの知る街の人々とは身なりからすべてが違う。まず武器と思しきものを持ち歩いていない。シズクの知る街の住人なら、ほとんどの人が武器を持ち歩いている。
もちろん適合職などで変わってくるが、モンスターと出くわす可能性があるため、普通なら攻撃に使えそうな何かは持ち歩いているのだ。しかし、それが見られない。
まるで別世界に迷い込んだようにさえ思える。
そんなことを考えながら歩くこと数分。シズクはふとあることに気づく。
「つか、俺。どこに中心街があるか知らないじゃん……」
終わった。
直感的にそう感じた。
見知らぬ街で想像を越える現象に遭遇し、挙句の果てには宿屋にすらたどり着けない。
シズクは天を仰ぎ、自身の愚かさを嘆いた。
こんなことならば、さっきの少女に中心街までの行き方を聞いておくべきだった。
だがもう歩き始めているため、今更悔やんでも仕方がないのも事実。とりあえず、道がある限り進んでみよう。と、シズクはもう一度歩き出す。
道なりに歩いていると、活気に満ちた大通りにたどり着いた。人の多さがシズクの知る街とは比べ物にならないほど多い。おそらくここが中心街なのだろう。
周囲を見渡すと、大小様々な商店が並び、シズクの見たことのない大きな建物も多数建っている。
少女の話ではここに宿屋があるらしい。
しかし見たところ、シズクが思っているような酒場の二階に宿が設えてあるような建物は見当たらない。どれもシズクからすれば不思議な建物ばかりだ。
だが、おかしなことに、妙に見覚えがある気がする。一度としてここに来たことがないため気のせいだと思うが、シズクは何だか奇妙な感覚に包まれる。
そんな自分でも不思議な感覚を味わいながら歩いていると、シズクはふと足を止めた。
立ち止まったそこは、新鮮な魚介を売っている魚屋だった。ちょうど店員が魚をさばいている。そのさばいている姿は圧巻の一言に尽きるが、シズクの興味はそれではなかった。
「……あのダガー、中々の切れ味だな。あれなら、モンスターと戦うときに役に立つかもしれない……」
顎に手を当て、ぼそぼそと呟きながら思案する。すると、店の奥から野太い声が届いた。
「どうした、兄ィちゃん。気に入った魚があったかい?」
ちらと声のした方を見やると、魚をさばいている店員のすぐ横に、たくましい顎鬚を生やした四十歳ほどの男性がこちらを見て立っていた。
シズクは咄嗟に反応する。
「ああ、いや。ちょっと欲しいなあ、と思うものがあって」
「お? なんだい兄ィちゃん。タイ? それともメバル? ああ、サワラもあるぜい」
にこにこと人柄良さそうに笑いかけてくるが、挙げられる魚介類すべてにシズクは興味がない。
「いや実はマスター。いま魚をさばいているその人の持っているダガーが欲しいんだ」
男性は眉間に皺を寄せ、小首をかしげる。
「は? ダガー? もしかして、包丁のことを言ってんのかい?」
「包丁? なるほど、包丁という武器名なのか。これはマスターのオリジナル武器か?」
「武器名……、オリジナル……? よくわかんねーけど、包丁は包丁だ。残念だけど、これは売りもんじゃねんだよ、兄ィちゃん。包丁欲しいなら魚屋じゃなくて、ホームセンターにでも行ってきてくんねーかな」
心なしか、先ほどまでと比べて男性の声音は不機嫌そうなものになっていた。目も細く釣り上がり、態度も少し変わっている。
シズクは不思議に思いながらも、「あ、はあ」と軽く頭を下げて、魚屋から立ち去った。
それにしても、視界に入る光景のひとつひとつが、シズクにとっては新鮮であり、不思議なものだ。何階建てなのか分からないほど高いビルに、美味しそうな匂いを漂わせる建物。どれもこれも、意識が飛ぶ前までのシズクのいた街とは大違いである。
好奇心を刺激されながら大通りを歩いていると、シズクはあることを思い出して立ち止まった。
「そういや宿屋に行くって言っも、金あるかな……」
いざ宿屋に行っても金がなければ意味がない。しかし、今のシズクが金と呼べるものを持っているかどうかは、シズク自身ですら分からない。
そこはかとなく嫌な予感に包まれながら、シズクは自分の体をぽんぽんと触ってみる。すると、尻ポケットのあたりに何か固くて厚いものが入っていることが分かった。
おもむろに尻ポケットからそれを引き抜く。それは、黒い革の長財布だった。ところどころ傷があるところから察するに、新しいものではないようだ。
手にした財布を前に、シズクはいわれのない緊張感を覚える。しかしよくよく考えてみれば、別に誰かの財布を盗んできたわけではない。自分の着ている服の尻ポケットに入っていたのだ。だからもしかしたら、これはシズクの財布なのかもしれない。シズク自身に憶えはないが。
などとおかしなことを考えながら、シズクは財布を開ける。
シズクたちがいつも使っている宿屋は一泊銅貨三枚。だからせめて、その分だけでも入っていて欲しい。今のこの状況を整理するためにも、一度休みたい。
シズクは実際に財布を開ける。瞬間、中に入っている金額を目にして、しばしの間フリーズした。ゆっくりと脳が金額を理解し始め、シズクは目一杯に目を見開いた。
「おおおおおおお、ちょいちょいちょいちょい……。え、嘘だろ。銅貨が三枚、銀貨が三枚。そ、そそそそれに、き、金貨だとぉ!?」
中心街の真ん中で、他人の目を気にすることなくシズクは叫んだ。
それもそのはずだ。普通の冒険者の財布には、まず金貨などという高額な金は入っていないからだ。金貨が一枚あれば、冒険者ならば二年は余裕で暮らせるレベルである。
軽く混乱状態に陥りながら、シズクは考える。
「こ、これ、絶対俺の財布じゃないわ。うん、マジで。なんで俺こんなの持ってんの? ――いやいや分んねーよ!」
金貨を乗せた手がぷるぷると震える。初めて手にした金貨に恐れさえ感じている。
ここに来てますます自分の置かれている状況に理解が追いつかなくなってしまった。シズクはこめかみ付近に手を添えて、首を二、三回軽く振る。
「どうなってるんだ、俺は。知らない街で知らない格好、そしていつの間にか大金を手にしている……これは一体……」
金貨をそっと財布にしまい、再び尻ポケットへ戻す。このまま立ち止まっているわけにも行かないため、シズクは再度歩き出す。
歩きながら、シズクは足りない頭で考えを巡らせる。
もしかしたら、これは夢なのかもしれない。だとすれば、見知らぬ街や服装、持っているはずのない金貨など様々な現象に説明がつく。それに、そう思うことでシズクとしても気が楽になる。むしろ、そうでなくてはこの状況に説明がつかない。
「そうだよな、きっと夢だ。これは夢なんだ。俺はきっとあの頭痛のせいで、まだ目覚めてないんだな。ああ、絶対そうだ!」
腕を組み、ひとりでうんうんと頷く。夢ならばすべて解決だし、特に問題視することもない。一抹の不安を覚えながら、シズクはこれが夢であることを必死に自分に言い聞かせる。
そんなことをしていると、シズクは茶色い壁にピンク色のラインの入った、縦に長い建物にたどり着いた。看板にはピンク色の文字でホテルと書かれている。
「確か……この街だと宿屋のことをホテルって言うんだよな」
教室で少女の言っていたことを思い出す。夢の中だと言ってもさすがに疲れたため、このホテルに入ることを決意する。財布には平均的な宿代を優に超える金額が入っているため、金銭的には問題ないだろう。
「あれ……ていうか、なんで俺、あの字を読めたんだ?」
知らない文字のはずなのに、ごく自然に読めてしまった。なぜだろう、と眉根を寄せるシズク。しかしすぐに、きっとこれも夢だからだろう、と結論付け、深く考えることを避けた。
とにかく、今は早く休みたい。シズクはホテルに入るため、自動ドアへと足を向ける。
すると、シズクの右腕がいきなり誰かに掴まれた。咄嗟に背後を振り返る。
「はあ……はあ……。やっと見つけたわ……」
そこにいたのは、先ほど教室で一緒だったあの金髪サイドテールの少女だった。走ってきたのか、額には汗がじんわりと滲んでいる。
「あ、お前か。何か用か? 俺はこれから宿屋でゆっくり休もうと思ってるんだけど?」
言われて、少女は視線をシズクからホテルへと移す。
「は? 休むって……な――っ! あんた、ここで休むって正気?」
「いや、正気かどうかと聞かれると、素直に頷けない自分がいる」
今起きている現象を夢であると必死に思い込もうとしている時点で、それはもう正気とは言えないだろう。
「案外すんなり正気じゃないことを認めるのね、あんた」
苦笑する金髪サイドテールの少女。
「それで、お前は何しにここにいるんだ? あ、もしかしてお前もこの宿屋で休もうとしてるのか?」
「はあ!?」
少女は驚愕の相でそう叫ぶと、シズクの胸ぐらをぐいっと掴んだ。
「な、なな、なんで私がここで休もうとするのよ! ていうか、ここ宿屋っていうかラブホテルよ!? あんたこそ入るとこ間違ってんじゃないの!」
締め上げられているせいで苦しくなりながらも、シズクは必死に抗議する。
「こ、この街だと宿屋のことをホテルって呼ぶって教えてくれたのお前じゃねぇか! だから、ホテルって書いてあるところに入ろうと思っただけだっての!」
少女は納得のいかない表情で、さらに口を開こうとする。が、少女の言葉が放たれる前に、低く野太い声がそれを遮った。
「おいおい、ボウズに姉ちゃん。店の前で暴れられたら困るんだけど」
シズクと少女は反射的に声のした方を見やる。
そこには、ラブホテルの従業員と思しき黒いスーツを着た強面の男性が、眉を吊り上がらせて立っていた。自動ドアのすぐ横に立っている男性は、もみあげと繋がっている顎鬚を風になびかせ、力強い目でシズクたちを見据えている。
金髪の少女は、シズクの胸ぐらを掴んだまま男性から力なく目を背ける。
「あ、いや、その……」
男性はゆっくりとこちらに近づいてくる。先刻よりもより一層声を低くし、男性はシズクたちを交互に見る。
「君たちまだ高校生だよね。高校生が使っていいと思ってんの?」
凄まじい眼力で言ってくるが、シズクからしてみれば高校生になったつもりはない。見知らぬ街に来たが、シズクは身も心も冒険者なのだ。そのため、注意を受けているという感覚は毛頭ない。
胸ぐらを掴んだまま怯える少女を他所に、シズクはポケットから財布を取り出す。さらにそこから銅貨を三枚取り出した。
「あ。これで一晩泊めてくれないか」
一瞬、その場の空気が止まった気がした。従業員も少女も、ぴったりと固まった。ふたりともシズクの差し出した銅貨三枚に目が釘付けになっている。
先に動きを取り戻したのは、男性従業員だった。
「あ? 何言ってんだ、ボウズ? 十円玉三枚出して、泊めてくれないかだ? ふざけてんのか? つか、まだ高校生だろ」
「いや、俺は高校生じゃなくて冒険者なんだけど。ていうか、銅貨三枚よりも高いのか!? 宿屋の相場よりも割高じゃない? しかたない……。これならどうだ」
言いながら、シズクは銀貨を一枚取り出した。それを男性へと差し出す。
「おまっ、百円って……。舐めてんのか!? つか、お前ら高校生だろ」
「だから、俺は高校生じゃなくて冒険者だっての! 長旅で疲れてるんだ!」
「なんだよ、冒険者って。あーもう、お前ら帰れ。バカガキの来るところじゃねんだよ」
顎鬚の男性は、面倒くさそうな顔で差し出された百円玉をつっ返すと、チッと舌打ちをして翻る。
しかし、シズクとしても宿に泊めてもらいたい。このままではじきに夜が来る。泊まる宿がなければ野宿になってしまう。それは避けたい。
そんなことを考えていると、ぐいっと腕を引っ張られた。シズクはそちらを見やる。
「あんた、冒険者ってなによ? ていうか、本気でここに泊まろうとしてたの!?」
「当たり前だ。野宿はあまりしたくないんだよ。だが、まさか宿屋の相場の銅貨三枚でも泊めてくれないとはな」
「いや、たぶんどこのホテルも三十円じゃ泊めてくれないでしょ。――じゃなくて、あんた馬鹿じゃないの、こんなところに本気で泊まろうなんて!」
「ああ、本気だね。もう超本気だね。なんだ、お前も一緒に泊まりたいのか?」
シズクからすれば何気なく口にした言葉だったのだが、言った瞬間、少女の顔が怒りの色に染まった。かと思えば、彼女の右拳がシズクの腹に飛んでくる。
「うぐっふぇ……っ! お、おおおお……。えぇ、なぜぇ……」
腹を抱え、痛みを緩和するように少しばかり前かがみになるシズク。対する少女は鋭い眼光を放ちながら、
「あんた、馬鹿と冗談は休み休み言いなさい」
シズクのいた街では冒険者どうしで部屋をシェアし、宿代を折半することなど日常茶飯事なことなのだ。その方が一泊分の宿代も浮くし、どのあたりにどんなモンスターがいるのかなど情報の交換もできるからだ。
しかし、この街ではどうも違うらしい。冗談のつもりなど毛頭なかったシズクだが、謝る以外の道はなさそうだ。
「す、すみません……した」
痛みに堪える掠れた声で、シズクは小さく頭を下げた。
ふと先ほどの男性従業員を見ると、彼は箒を持って今にも店内に入るところだった。
「あ、ちょっと待ってく――」
呼び止めようと口を開いたが、すぐに少女に口を塞がれた。
男性は自動ドアの前で肩越しに振り返り、「んだよ?」と苛立ちと面倒くささの両方を孕んだ声を返してきた。
口を塞がれているシズクは何も言えなかったが、代わりに少女が男性に答えた。
「あ、いえ。何でもないです。それじゃ、私たちはこれで」
ぎこちなく苦笑いし、少女は小さく頭を下げた。続けて、シズクの口を塞いでいた手をすぐさまシズクの腕に移し、そのまま全速力で走り出した。シズクの体がすごい速さで引っ張られていく。
お久しぶりです、水崎綾人です。
今作の主人公は前作、前々作の主人公とはタイプの違った主人公だと感じております。私としても初めてのタイプのキャラクターであるため、今後どのように物語を紡いでいくかを見届けていただけたら幸いです。
本作は隔日投稿を考えております。
それでは、次話をお楽しみください!