いきなりの、料理?勝負! その6
第1話 その6です。よろしくお願いします。
「ユウトくん、大丈夫、ユウトくんっ!?」
「あ、天織さん、裸で抱きつくのは、勘弁して……うぅっ」
「なぁ、ユウト。お前さっきから、裸、はだか、って言っとるけど、それは裸やないで」
天王寺くんのその言葉に、僕は一時的に理性を取り戻した。
「こ、これが裸じゃないって、どういう事!?」
「そのノンちゃんも、ウチのユイも、ちゃんと『プルマージ』を着ているんやからな」
「ぷ、プルマージ、って……??」
「近代エンジェル・ディッシュの、大きな転換点の一つや。『衛生面』と『倫理性』を追求して作られた、まさに現代の『天の羽衣』やな」
「カズヤ、それちょっと違う例えな気がするで。ようするにユウくん、これはウチらディッシュ専用の服、みたいなもんなんや」
「服……ちゃんとみんな、服を着ているんだ……」
目の前のユイさんも、僕に抱きついている天織さんも、ちゃんと服を着ていたんだ。
確かに胸の特別なところや、股間とか、一応は見えていない。
某○ークスで作っている素体フィギュアみたいな感じだ。
「なっ、すごいやろ! 更にすごいのは、そのプルマージは『ディッシュ』の特徴である、体温、柔らかさ、体臭、肌触りにはまったく、影響を与えていないんや」
「えっ、それって……」
「着ているようで、着ていない。それがプルマージ最大の特徴なんやで」
結論:結局は大事な処が見えないだけで、全裸状態と大差なし。
その事実に気づいた僕の鼻血は、止まる事はなかった……。
「いや、ダメだ、このままじゃダメだって!!」
これでは僕は、ここに鼻血を出す為だけに来た事になる。
違う、それだけは絶対に違う!!
「あの、天織さん。僕は大丈夫ですから……もう、離れて下さい」
「あっ……う、うん、わかったわ……」
僕は『料理を作る為』に、今ここにいるんだ。
だったら、やるしかない!!
めいっぱいのティッシュ(鼻セレブ)を鼻孔に詰めてから、問いかける。
「てんのーじはん、料理の課題、なんでふか?」
「鼻にティッシュ詰めてると、ヘンな声になるんやな。課題は『中華』や」
「ちゅう……か、ですか……」
盛りつける『皿』はとんでもないのに、料理は結構、普通なんだな。
「ちなみに中華は、ワイのもっとも得意な料理や。ユウトはどうなんや?」
「僕は……得意とか、あんまりないです。中華なら3000以上の料理が作れます」
「さっ、3000やて!? それは多すぎや! 『中華街の覇王』の異名を持つ、秋川ジンにも匹敵するで!!」
「秋川……それってジンさんかな? 子供の頃、一緒に料理したりしてたかも」
「ゆ、ユウト……お前、誰なんや? ジョーダンやないんか?」
もちろん、冗談じゃない。
僕にとっての『料理』は、空気を吸ったり、歩いたり、小指で耳をほじったりと、普通の日常的な行為と同じレベルだった。
「用意されている食材は、小麦、豚バラ、ピーマン、それと…………うん、料理は決まったよ」
「ユウトくん、本当に大丈夫?」
「はい、大丈夫です……でもちょっと、離れていて下さい、天織さん」
やっぱり裸にしか見えない、意識してしまう。
でもよく考えたら、周りは『ディッシュ』だらけ。
どっちを向いても、限りなく裸に近い女の子が、目に入ってしまうのだ。
「しょうがないよね、もう…………こうなったら、あれしかない!」
僕は素早く、鞄の中から愛用の包丁の一つ『夜叉斬』を取り出した。
いつ、いかなる時でも、包丁を肌身離さないのは、料理人の基本だ。
(家庭科の調理実習で使ったから、だけど……持ってて良かった)
食材を並べ、キッチンを自分のやりやすいように整えて、準備完了。
「じゃあ……いくよ、夜叉斬っ!!」
「ユウトのヤツ、包丁に名前つけてるなんて、オタクやなぁ……な、ななっ!?」
「大声上げてどうしたんや、カズヤ?」
「こ、コイツ、目を閉じとる!! 完全に目を閉じて、調理を始めやがった!!」
(第1話 その6:おしまい)