いきなりの、料理?勝負! その1
ここから本編(第1話 その1)です。よろしくお願いします。
「ああ、どうして僕は、こんなところに……」
未だに、信じられない。
どう考えても、僕がここにいるのは、場違いだからだ。
僕はただ、ここに人を探しに来ただけなのに。
なんだか普通じゃない場所で、普通じゃない競技? 勝負?? 大会???
そんなものに、巻き込まれてしまっていた。
僕がこんな目に遭っているのは今、隣りに立っている少女のせい。
見ず知らずの、ハンカチを貸してくれただけの、女の子だ。
いや、名前は聞いたんだっけ……『天織乃音』という名前は。
「あ、あの……僕、どうすれば……」
「江戸川くん、さっき言っていたよね。僕は料理人です、って」
「う、うん。確かに言ったけど……」
それは、ウソではない。
あらゆる事に自信の持てない僕だけど、料理だけは人並み以上の自信がある。
まだ学生だけど『シェフ』としてなら、大抵のお店で働ける気がする。
「じゃあ、えっと……りょ、料理を……決めましょうか、江戸川くん」
「料理を、決める、か……そっか、これ、大会なんだよね。ここのみんなと競い合うんだよね」
どう見ても、あれは『女の子の身体に、料理を乗せている競技』に見える。
前に『ウチのクラスのエロ魔王』橋本くんから借りた、ちょっとエッチな漫画に出てきたヤツにしか見えない。
そう、あれは、女体…………。
「……あれは断じて『女体盛り』なんてものではないわ、江戸川くん」
「そ、そうなの……?」
っていうか天織さん、なんで僕の心の声に突っ込めるの!?
「さっきも言ったけど、これは『エンジェル・ディッシュ』の『金剛杯』、その東京地区予選だから」
「あ、あの……えんじぇるでぃっしゅ、っていうのが、女体盛りじゃないっていうのは、具体的には……」
「それは……話すと長くなるけど。エンジェル・ディッシュには長い歴史があるから」
「長いって、どのくらい?」
「紀元前100年頃には、もう行われていたらしいから……2000年以上は確実みたい」
「……今度、時間のある時に、ゆっくり聞かせて下さい」
『ウソだ!』とは言わないが、とても信じられない。
どう見ても、こんな女体も……。
「エンジェル・ディッシュ、だから!」
「は、はい……ゴメンなさい」
もう心の中でも、女体盛りの事を考えるのは、止めよう。
そう決意した僕の顔を、天織さんはジーッと見つめていた。
「あの……僕の顔に、何か?」
「うーん…………やっぱり江戸川くんって、『えどがわくん』って感じじゃないわ」
「それって、どういう事??」
自分の苗字にクレームをつけられたのは、人生初体験だ。
「だってほら、一般的な『江戸川くん』って、メガネで名探偵で、小さくてカッコよくて……」
「は……はぁ……」
それって多分、漫画のキャラの事とか、言ってるんだろう。
僕も前から『江戸川』だったワケじゃなかった。
色々と事情があって、今は母方の苗字である『江戸川』になっているんだけど……。
「だからわたし、キミの事は、ユウトくん、って呼ぶから」
「えぇっ!?」
「もしかして、その呼ばれ方、イヤなの?」
「い、いや、その……」
いきなり女子に顔をグッと寄せられて、名前で呼ばれたら、僕クラスの男子は激しくドキドキしてしまうって!!
「うん……それで、いいよ……」
こうして僕と天織さんの関係は『苗字呼び』から『名前呼び』へと、一気にステップアップしてしまった。
人間関係的にはまだ、何一つステップを昇っていないけど。
「ユウトくん、どうやら予選Aブロックが終わったみたい。いよいよ、わたし達の番……行きましょう」
「う、うん……」
(第1話 その1:おしまい)
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