表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

真の『美食』とは一体、何なのか!? その3

プロローグその3(完結)です。

よろしくお願いします。


「お願いです、離して下さいっ! わたし、どうしても地下の会場に行かなくてはならないんです」

「ダメだ、さっきから言っているだろう!! 会場に入れるのは大会関係者とVIP会員、それと大会出場者だけだ!」

「だ、だから……わたし、その大会に出場するんです!」

「お前がか? そんな子供のような身体で……それはまあいい、料理によっては、ありかも知れないからな」

「だったら……」

「でも、ダメだ! お前には肝心のパートナーが、料理人がいないじゃないか!」

「そ、それは……ここに着くまでに、はぐれてしまって……きっと先に、会場に……」

「だったら名前を言ってみろ。大会本部に問い合わせてやる」

「な、名前……名前は……うぅっ……」

「フン、やはり口からでまかせか。諦めて、出て行ってもらおうか、お嬢ちゃん」

「うぅっ、そんな……せっかく、ここまで……」

「……あ、あの…………あのっ!!」

なんか出るに出られず、少女と黒スーツの話を廊下の陰で聞いていたが、もう限界だった。

「なんだ、お前は……んっ、さっき、俺とぶつかった……」

「あ、あなたは……さっきの…………」

「ぼ、僕が、彼女の料理人、ですっ!!」

「なんだって!?」

なんで僕、こんなとんでもないウソ、言っちゃったんだ……。


***


「おい、須藤。なんだか入場者ゲート付近で、騒ぎがあったようだな」

「はい、すみません、オーナー。その報告に来ました。実は……」

慌てた様子で、大会事務局に駆け込んできた、黒スーツ。

『オーナー』と呼ばれたその男は、今大会の委員長に、手短に現状を報告した。

「……ふむ。ようするに、大会と無関係の子供が2人、会場に紛れ込んできた、という事か」

「はい、そうです。身元を照合したところ、この2人でして……」

情報の表示されたタブレットを須藤が手渡すと、委員長はそれを流し読みしながら、湯飲みのお茶を飲み始めた。

「なんだ、本当に子供だな。特に女子の方、本当に『ディッシュ』だとしたら、珍品中の珍品だ」

「私も、そう思います。とにかくコイツらが出場者なんて、ありえません。すぐに『処置』してから、どこか適当なところに運んできます」

自らのすべき事を告げてから、須藤は部屋を後にしようとした……が。

「おい、須藤。ちょっと待て!」

「えっ……はい、わかりました……」

今の今まで、どこか寝ぼけたように見えた委員長の目が、鋭く輝いていた。

タブレットに表示されている、2人の『子供』の情報。

それを隅から隅まで読み終えた委員長は、待たせていた黒スーツ・須藤に呼びかける。

「なぁ、確か今日の大会、欠場者が出たって言っていたな?」

「はい、Bグループの柳場が『ディッシュ』が急な病になったとかで、今回は不参加にして欲しいと……」

「そうか……だったら、ちょうどいい。こいつらを代わりに出場させろ」

「ええぇぇぇっ!? ちょっとオーナー、本気ですか?」

「ああ、参加させてくれ。数合わせと思えばいい」

「……わかり、ました。大会委員長がそうおっしゃるのなら、2人を会場に通します」

どうも納得できてはいない黒スーツだったが、厳格な上下関係があるからなのか、サッと本部から出ていった。

一人残されたオーナーは、あらためてタブレットをいじりながら、出かけに駅前で買ってきた『十万国まんじゅう』に手を伸ばした。

「ぱくっ、むぐむぐ……江戸川えどがわ 悠斗ゆうとに、天織あまり 乃音のん。ククッ、実におもしろい、おもしろくなりそうだな、今日は」


***


ガチャン、ギギッ…………ギギギギギィィィ……。

「ほら……ついたぞ、お前ら」

「ありがとう……ございます」

「なんか……随分と地下深くまで、来たような……」

拘束されていた僕らが解放されて、彼女……天織乃音さんの望み通りに『大会』に出られる事になって。

僕らは須藤と名乗った黒スーツの男に、ここまで連れてこられた。

途中、カードキーを使うこと3回、エレベーターに乗ること2回。

そしてあたりには、須藤さんより遙かに屈強な黒スーツが、何十人と行き来している。

(僕、一人でこんなところに潜入しようとしてたんだ……何も知らなかった、甘くみすぎていた、大バカだよ)

「す、須藤さん、そのぉ……ここって、地下何階くらいなんですか?」

「38階だよ。地上から約180メートル。東京駅の最下層より、ずっとずっと深くだな」

「そ、そんなに…………はぁぁ~」

会場への潜入には成功したが、もう逃げるに逃げられない状況だ。

僕には、いや、僕らにはもう『大会』に出場するという選択しかない、それしかできない。

「そろそろ着いたみたい、江戸川くん」

「う、うん……」

同行している女の子、天織さんが、ボクより先にエレベーターから降りた。

今の僕らはもう、互いの名前は知っている。

さっき須藤さんが大会本部に行っている間、僕らはスタッフ休憩室で拘束されていた。

その際、小声で自己紹介しあい、簡単で最小限の情報交換を済ませておいたのだ。

(天織さんのブレザー、やっぱりミハ女の制服だったんだ)

『ミハイル女子学院』、この辺の男子みんなが憧れる、かなりのお嬢様学校だ。

そんな彼女がどうして、こんなところに来たんだろう……うん、大会に出場するため、なんだよな。

僕のように、人探しでここに来たんじゃないんだ。

「でも……あの、天織さん。『大会』って一体、何の……んんっ?」

再び鈍い音を立てて、目の前の鉄のドアが開いていく。

だが今度は、通じているのは、通路やエレベーターではなかった。

異様な熱気と歓声の溢れる、広い空間に出られたのだ。

「さあお前ら、Aブロックの試合はあと15分で終わる。支度でもして、待ってろ。……せいぜい、頑張るんだな」

「はい。色々とありがとうございました、須藤さん。意外に優しいんですね」

「黒スーツの、優しい……おじさん?」

「お、俺はまだ、おじさんって年齢じゃないぞ! それに優しくなんて、ないし……」

「クスッ」

天織さんが、狼狽した須藤さんを笑っていた。

しかし僕は笑うどころか、顔を引きつらせていた。

「こ、ここ……これって……一体……なに……?」

目の前の光景を、僕は思いっきり疑った。

だってそれは、普通に生きてきたら、とても信じられるものではなかったから。

「江戸川くん……どうしたの、顔が青ざめて……あっ、鼻血が出てるの?」

「な、なんでここ、こんな……はぁ、はぁ、女の人が、裸で……どうして、料理を身体に…………もうワケ、わかんないよ」

これっていわゆる『女体盛り』ってヤツなんじゃないのか?

そんな事の大会が、東京ドームの地下38階で、行われている??

常識的に考えて、ありえないって!!

「違うわ……これは、エンジェル・ディッシュよ、江戸川くん」

「えんじぇる、でぃっしゅ……? 天使の、お皿??」

「関東ブロックの予選、第1日目、Bブロック。わたしは、絶対……負けられない」

よくわからない、何がなんだかわからない、さっぱりわからない!

こんなの絶対、おかしいよっ!

ここに人を捜しに来ただけなのに、僕はものすごくラッキーな……いや、ものすごくヤバい事に、巻き込まれているんだ!?


<プロローグ:完>


ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

本編は、来週の週末(28日~29日)から連載予定です。

どうぞ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ