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真の『美食』とは一体、何なのか!?

新連載です。よろしくお願いします!


(プロローグ・1)


「本当にこの私を、満足させられると言うのか、斉藤?」

「はい、ここの料理なら、西大路センセイを……フフッ」

そう言って、小柄な男は廊下を足早に駆けていく。

「フン、あの程度の男では、この私を満足させるなぞ到底、不可能だろう……」

誰にも聞こえないであろう小声で、長身のその男は呟いた。

高級な和服の似合うたたずまいは、一見で彼がただ者ではない事を、周囲に知らしめるだろう。

先を行っていた男は立ち止まり、どこか下卑た笑みを浮かべて、振り返った。

「こちらです、西大路センセイ。どうぞ」

「うむ……見せてもらおうか、斉藤。お前の本気とやらを」

低く威圧感のあるその声に、斉藤の身体が小さくブルっと震える。

だが次の瞬間には、意を決したようにふすまに手をかけ、ゆっくりと開けていった。

「さぁて、この私に一体、何を用意したのやら…………むううううっ!?」

「……フッ……フフッ」

『食通界に、その人あり』と言われている西大路龍山さいおうじりゅうざんが、思わず足を止めた。

足を踏み入れた和室のド真ん中に置かれた、木のテーブル。

それは樹齢100年は越えるであろう大木を切り、削り出して作られた逸品だった。

そしてその上に並べられた『料理』は、常人なら完全に言葉を失い、ただただ呆然とするしかない……それほどのものであった。

あくまで『常人なら』で、あるが。

「こ、これは……」

「いかがでしょうか、西大路センセイ。これならば、食にうるさいセンセイでも、ご満悦いただけるのではないかと……」

「これは……これは、こんな…………」

一歩、また一歩と、西大路龍山がテーブルに近づいていく。

彼の眼下にあったもの『料理』であり『料理』ではなかった。

「実に美しいでしょう、西大路センセイ。この2人は京の芸者の中でも、特に肌が白く美しい、若さ溢れるベッピンです」

「…………むぅ……」

「それぞれの身体に盛りつけられた料理は『京懐石』と『高級鮮魚盛り』。目でも味でも、違う楽しみができる趣向となっております」

自称・食通である斉藤が、この国でも一、二を争うほどの『きわみ食通』西大路龍山に用意した『特別料理』。

それはなんと『女体盛り』であった。

透き通る肌の美しい、2人の女性。

テーブルに横たわったその身体には、これでもかというほどの山海の幸が盛りつけられていた。

「さあさあ、お座り下さい、西大路センセイ。すぐに酒も運ばれてきますから」

「ム…………ムム……」

「おやおやぁ、どうしましたか? あまりの驚きで、言葉も出ませんか、センセイ?」

「……てん……を、よべ……」

「はいぃ? 何かおっしゃいましたか、センセイ?」

わなわなと、西大路龍山の全身が震えた。

それは感動から来るものでも、興奮から来るものでもなく……怒りによるものだった。

「店主を、呼べええええええぇぇぇっっ!!」

「きゃっ、きゃあああああぁぁっ!!」

「いやぁぁっ、な、なんなのよぉぉっ!!」

2つの女体が、そして数々の料理が、宙を舞った。

空中で2回転半ほどした、全裸の女性の肉体は、唖然としていた斉藤を直撃した。

「うわぁぁ、なな、なんて事をするんですか、西大路センセイっ!!」

「黙れ、斉藤! このような料理で、私を愚弄するとは! すぐに店主を呼べと意っておろう!」

「わ、私が店主の、宮星亮三でございます! 何かお気に召さぬ事がありましたか、西大路様」

「お気に召さぬ事、だと? 全てだ、全てが気に食わん! この私を侮辱しているのか!?」

部屋の入り口で土下座をし、ただただ謝るしかできない、店主。

その横に並んだ斉藤は、正座をしながらも、訴えるように頭上の西大路龍山に声を放った。

「こ、これは私と店主からの、最高のもてなしなんですよ! 極食通の西大路センセイが、並の料理では満足できない事は、重々承知しております」

チラリ、と部屋の隅で横たわる、京の女の裸体を見てから、斉藤はあらためて公言する。

「だからこその、高級女体盛りです! この『金ノ鯱』は、都内でも3軒しかない、厳選された女体盛りを出す店なんです」

「それがどうした? この私をもてなす料理が何故、女体盛りなどという、下卑た料理なのだ?」

「そんな……だって、西大路センセイは……」

言いよどんだ斉藤に変わって、頭を下げ続けていた『金ノ鯱』店主、宮星が顔を上げた。

「し、失礼ですが、西大路センセイ! 貴方は裏の料理界では、エンジェルディッシュの第一人者と……」

「っっ!!!」

怒りに満ちた西大路龍山の目が、大きく見開かれた。

更に強烈な、黒い怒りに突き動かされて、彼は店主の胸ぐらをつかみ、その小柄な身体を引き上げた。

「エンジェル、ディッシュ…………一介の料理人風情が何故、その言葉を知っている?」

「そ、それは……私にも、その方面の知人が……で、ですから!! そんな西大路センセイをおもてなしする為に、当店なりのエンジェルディッシュを…………わああぁっ!!」

ブンッ!! と、豪快な音を立てて、『金ノ鯱』店主、宮星の身体が投げ飛ばされた。

彼は障子を突き抜けて、庭の池へと落ちていった。

「ふぅ、はぁ、はぁ……この、バカもの共がっ!! 『エンジェルディッシュ』を、こんな下品な女体盛りと、同様と考えているとは……絶対に、許される事ではないぞっ!!」


*****


「水道橋、すいどうばし~! お降りのお客様は、お忘れ物のなきよう……」

そんなアナウンスと共に、耳に聞き覚えのある発車音が、僕の頭上で鳴り響く。

駅から歩いて数分で『様々な人たち』の聖地、東京ドームにたどり着く。

「うーん……でも本当に、こんなところに……あるのかな」

ネットに転がっている情報だけでは当然、あてにはならない。

だがそれに、自分が見聞きした『情報』を合わせると、僕の探し求めている場所はやはり、ここという可能性が高くなるのだ。

「昔、セイさんからちょっと、聞いた事もあったし……母さん、東京ドームの話をしたら、顔を背けたし」

とにかく、今はここを調べるしかない!

ネット上の噂では、他にも「北海道の時計塔」「大阪の通天閣」「琵琶湖の小島」などなど、全国30ヶ所を越える『謎の会場』の情報があった。

「全部周るわけにもいかないし、交通費だってあんまりないもんな」

バイトをしていない学生の小遣いなんて、たかが知れている。

今日だって、何も見つからなかったら、1000円を超えるムダな交通費を使った事になる。

僕の財布にとって、それは大ダメージだ。

「せめて一つでも、手がかりがあれば…………よーし、気合い入れるぞっ!!」









プロローグの後編は、明日更新予定です。

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