夢と現実
目の前ものは何なのか。
目を瞬くがそれはただ無機物のように何も語はしない。
「上咲 つぼみさん、もう二学期に入ります。成績のことをちゃんと考え始めた方がいいと思うのですが…。」
担任の先生は無表情で眼鏡をクイッと上げる。
そうだよね…、先生は何も言わないけどきっと残念がってるよね…。
成績表の一学期と書かれた文字の下に、2がズラっと列をなしていた。
「国語はいいんですけど、他のはちょっと難しい様で…。」
そう!国語だけは自信もって言える、5なのだ!
実は高校に入って2年目、すべての国語の成績だけは5なのだ!
「ところであなたは何になりたいのですか?」
ある意味オール5をとれたことに胸をなで下ろした私に唐突な質問が突き刺す。
「しょうせ…。」
あ、しまった。思わず滑らした口を塞ぎ、隣の母親をちらっと見る。
母親は冷たい眼差しで何かを訴える
。それは分かりきったことだった。
「…ふ。」
「すみません。もう一度。」
「…フリーター。」
先生の口がフッと吹き出した。
その後、しばらく沈黙が流れる。
夕焼けが3人のいる教室を照らす。
ただ、グラウンドで活動する運動部の声だけが響いていた。
自分でも何を言っているかわかってる、わかってるけど…。
「ふふっ、すみません。この子ったら将来の夢が無くて。だから思わずそう言っちゃったんですよ。」
先に口に出したのは母親だった。
「そ、そうなんですか…。」
「はい。」
その会話に胸が締め付けられる。
もう、決まってた事なのになんで…。
何か口に出そうで怖い。手をもう片方の手で握り、必死にこらえる。
その後の母親と先生の会話は頭に入らないまま、三者面談は終わった。
ガラッ…
母親と2人、教室から出る。
廊下はだれもいない。
「やっぱりね。」
母親は教室とは違う声のトーンでこう切り出した。
「あなた、どうもがいても意味無いのよ。わかるでしょ?」
怖い…、怖い。
「小説家なんていう前に現実を見なさい。あなたにはフリーターがぴったりよ。」