3話
「お疲れ様でした、生徒会長」
廊下の左右の端により、道の真ん中が開けられ、奏と慧は歩いていく。
「皆さんもお疲れ様でした、それではごきげんよう」
朝と同じように慧から靴を出してもらい、ローファーに履き替え、外に出る。
すると、門の前には、リムジンが止まっていた。
「うげ、またこれかよ」
慧は心底嫌な顔をした。
慧はリムジンが嫌いなのである。
「えぇー?いいじゃん、リムジン!あたしは好きだなぁ、慧とふたりっきりになれるし」
慧はびっくりした顔をした。
奏は、言い終わってから、自分が一体何を言ったのかと自覚して、顔が真っ赤になる。
「べべべ別に期待して言ったわけじゃないよ!?」
すると、慧は吹き出した。
「んなもん知ってっから、言い訳すんな」
俯いて真っ赤になった顔を見せられない。
うわぁぁ、何て事を言ったんだろ、あたし!
「お疲れ様でございます、慧様、奏様」
慧と同じくらいの身長に、どこか日本人離れした顔の男性が、スーツに身をまとってリムジンに待機していた。
「政さん!お久しぶりです!」
「奏様、お久しぶりです。お元気でしたか?」
彩原政は、慧の家に仕える執事だ。
「はい!すごく元気でした!」
「それはようございました…慧様、このまままっすぐ向かわれますか?」
「あぁ、車出してくれてありがとな」
「滅相もございません、これが仕事ですから」
さぁ、お乗りください、と政は二人を促した。
「じゃあ頼む」
「かしこまりました」
リムジンは学校から離れていく。
実質後ろの席は何か用がない限り運転席から開けることはしないし、運転席と後席は完全にシャットアウトされている。
音は全く聞こえない。
家と聞いてはいるものの、それが本当なのかも怪しい。
すると、不意に慧は奏の肩に頭を乗せた。
いつの間にかイヤホンは外れている。
「け、慧…?どうしたの…?」
何度もこんな事はあったが、いまだに慣れない。
「何で俺あいつにはあんなに嫌われんだろうな…」
「あいつ…?マリーのこと?」
「何であんなに信用ないかな…凹むわー…」
「んー?何なに、寂しいの?」
奏はからかったように聞いた。
慧は奏を睨んで、「あ?んなわけあるか」と低い声で呟いた。
「奏に嫌われる事が一番寂しいわ」
奏の前だけで見せるベタ甘な慧。
この甘さにも慣れない。
「か、からかってないよ!」
「俺のことからかったらどうなるか、お前が一番知ってるんじゃねぇの…?」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべ、奏に視線を合わせる。
「そ…それはそうだけど!」
慧はこういうからかいがあまり好きではない。
一度からかったことがあるが、その後が大変だったのである。
「あ、あたしも慧に嫌われたらやだなぁー」
奏は、話題を逸らした。
「まぁ、後で覚悟しておけよ」という、意味深な言葉は聞こえなかったふりをした。
しばらく走って、リムジンが止まる。
「慧様、奏様、着きましたよ」
連絡窓から政が声をかけ、リムジンの扉が開く。
「で?なんでここに連れてこられたの、あたし」
連れてこられたのは、慧の父が運営する高級ホテル、三橋ホテルだ。
最上階の95階には、慧のために作られた極秘スイートがある。
最上階に繋がる専用のエレベーターに乗り込み、最上階を目指す。
もちろん、奏、マリーは出入り自由で、慧は基本ここに帰ってくる。
「んー、知らん」
奏はポカンとした。
「知らんって…!」
「知らんもんは知らねぇよ。盗み聞きした情報だと、40階にあるドデカイホールでなんかあるってしか聞いてない」
エレベーターが最上階についたことを教え、ドアが開く。
部屋に案内され、奏は重要なことに気がついた。
「ってか、あたし制服しかないよ!?」
「ん?あぁ、大丈夫。ドレス見繕ってあるから」
ドアがノックされ、どうぞと慧が答えた先にいたのは、希望だった。
「え!?のぞ!?」
「おかえりなさいませ、慧様、お嬢様」
「見繕ったやつ、着せといて」
「かしこまりました。お嬢様、こちらへどうぞ」
訳の分からないまま、奏は希望について行った。