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世界の裏側  作者: 鯉々結び
探偵さん篇
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第七章-ある男の追走

異質な声、は何かの間違いだということにしよう。

偶然、神崎君の口の動きに合わせて自然の音が重なったのだろう。

そうであってほしい。でないと説明がつかない。


「おや?何か気になる点でもありましたか?」


見ると、冴島警部は心配そうな面持ちで私の顔を覗き込んでいる。


「いえ、何でもありません。それよりも、今回は密室の手掛かりを探すためにここまで来たんですよ。拝見させていただいても?」

「ああ、田口君と一緒に、という条件付きだが…好きに見ていってください。」

「ありがとうございます。」


話を戻すことに成功した。今回の目的は、あくまでも密室の手がかりを探すことなのだ。

そう自分に言い聞かせて、田口君に目を向ける。彼も気を使って私たちの会話に入らないようにしていたのだろう。

目を向けるとすぐに、冴島警部に一言いれてテープをくぐっていく。

私もそれに続いた。



ここからが正念場だ。気を取り直して家を観察する。

そして三時間が過ぎた。



「まあ、警察の方でも調べていたということだからわかってはいたが…何もないな」


そう、何もないのだ。普通の一軒家、外から侵入することを拒むただの家だ。

密室に穴をあけることを目的としていたが、これは痛い。

家の周り、事件現場、各部屋。

全てを回ったがいたって不自然なところはない。


「どうしますか?この後」


田口君は聞いてくる。私は数秒考え、そして引き返すことを決めた。


「今日はこのぐらいにしよう。そろそろ引き返した方が良いだろう。」

「そうですね…一応聞きますけど何かわかったことは?」

「何一つない。いや、探偵として、自信なくすよ…」


彼の方もその答えはわかっていたのか、肩を落とすこともなくうなずく。


「まあ、警察も何もつかめていない状況ですからね。そう気を落とさないでください。ご飯でも食べてから帰りますか。」


時間はすでに午後3:00付近になっている。観察に夢中で気が付かなかったが確かに腹も空いてきた。


その後、現場を離れ、近くのファミレスに入る。もう、冴島警部の姿はなかった。


ファミレスはすいていた。平日の午後でこの立地だ。私たちは席に案内され、それぞれ注文をする。


「困ったものですね。」


彼はつぶやく。本当に困りものだ。なんの収穫もなかったのだから。

そして私はもう一度、神崎君のことを考える。

そう、今日は平日なのだ。彼のような青年が出歩くような日時ではない。

冴島警部に会いに来たようだが、しっかり約束を取り付けてきたのだろう。

しかし、休日であれば親戚に会いに来るのもわかるものだが、平日にそんなことがあるだろうか。

彼にも自分の職場、ないし学校の予定があるだろうに。

それを、取り消してまで冴島警部に会いに来る。冴島警部、疑惑の警部に。

そして、田舎には似つかわしくない容貌。


私からすると、あの場で唯一、異質な存在に映った。

そして、ある決意をする。


「田口君、私は当分ここに残ろうと思う。」


彼は面食らったような顔をしている。


「なぜです?現場には何も不自然なところはなかったように見えますが…」

「そうだな、確かに現場はいたって普通。だからこそ抜け穴のない密室になっていた。」

「じゃあ…

「現場以外に不自然なものはあっただろう?」


彼は困惑している。


「神崎君、神崎コトハ君の存在だよ。」


私は神崎君を、ありていに言えば疑っている。今日の彼の行動、容貌、すべてが不自然極まりなく感じたからだ。

田口君も得心いったのか、納得した表情をうかべてから、しかし私に反対する。


「それは、やめておいた方がよくないですか?あなたが一般人のことを深く調べると、運が悪ければ逮捕ですよ?それに…冴島警部と何かかかわりがあるみたいですし…」

「確かに、探偵によくある素行調査のようなものなのに、今回ばかりは何か身の危険を感じる。しかし、何らかの鍵を握っている可能性は大きくないかい?」


彼はまだ迷っているようだが、私の顔を見てヤレヤレといった顔をする。


「わかりました、名目は調査続行ということで、近くの宿代も出しておきますよ。」

「ああ、それはやめてくれ。今回は、あまり冴島警部にも知られたくない。調査は中断、いったん帰ってから様子を見る、ということにしておいてくれないかい?宿代くらいは自分で出せるしね。」


彼は、「当たり障りない感じでごまかしておきます」と言い、ちょうど運ばれてきた食事を口にする。彼のこういうところも信用できる。上司に疑念を抱いているとはいえ、虚偽報告はできないのだろう。

本当に、正直な男だ…


あとは、雑談で盛り上がり、今日からお世話になる宿にあたりを付け、会計に向かう。

今日までお世話になったからこの場の支払いは私がしよう。そう思いレジに並ぶ。


そこで私は、前で会計している親子に目が行く。父親とその娘だとうかがえる。

気になったのは娘さんの方だ。真っ白な肌、髪、そしてこちらを見つめる赤い瞳。その娘さんと目が合っていた。年は、10程度だろうか。しかしその表情は非常に大人びて見えた。


アルビノなのだろうな、と思う。が、それ以上にこちらをじっと見つめていることに気が向いてしまう。

とても可愛らしく、大人になると美しい女性になりそうだ。っといけない。これでは私が少女趣味のおっさんのようではないか。しかし…目が離せない。


父親の会計が終わったようで娘さんも出口に向かう。すれ違いざまに、少女がくすりと笑った。


「五十嵐さん?」


田口君の声でハッとし、いそいそと会計を済ませる。少女に目を奪われていたため、彼の方は会計を済ませた後だった。


「いや、ぼうっとしていてすまなかったね。前にいた少女に目を取られてしまっていたよ。」


店の外に出てすぐに彼に詫びる。が、彼は


「いやそれはいいんですが…え、五十嵐さんって少女が好きだったりしますか?」

「違うそういうんじゃないんだ…でもあの少女は気になってしまうだろう?」

「何か特徴でもあったんですか?」


彼は白々とした目をこちらに向けている。


彼は気づかなかったのだろうか?アルビノの少女に?しかもこちらを見つめていたにもかかわらず…


結局その場は「可愛らしい子だったんだよ」といって終わらせた。店の前で直前に出て行った客の話をするのも失礼な話だと思ったからだ。


「それじゃ、五十嵐さん、お体にお気をつけて。」

「ああ、君も君でがんばってくれよ」


そのまま店の前で別れ、彼は駅に、私は宿に向かう。


歩くこと20分ほど、もう少しで宿につくといったところで私は見つけた。

今日の昼からずっと引っかかっていた人物を。


神崎コトハ


そこから、彼を尾行することにした。

好奇心に負けてしまったのだ。


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