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世界の裏側  作者: 鯉々結び
探偵さん篇
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第三章-ある居酒屋での恋愛談

お店に着いて知ったことだが、彼は個室の席を予約しておいてくれたらしい。

名前を伝え、席に通してもらうと彼の到着を待った。

私は、あまり時間にうるさい人間ではない。待ち合わせの時間ぴったりの到着を目指すような男だ。

その私が約束の時間の15分も前に到着している。

自分で心が躍っているのが分かり、不幸な事件なのだからそれなりの態度でいろ、と自分を窘める。

そんなことをしながら待っていると、彼が到着した。


「報告終わりました。待たせてしまいましたか?」

「いや、そんなに待っていないよ。むしろ予約までしてもらって悪かったね。」


彼は、全部甘えちゃうのは悪いですから、と言う。


その後、酒とご飯ものを頼んだ後、事件関連の話をしないよう気を付けながら、彼との会話を楽しんだ。

しかし、彼は話を盛り上げるのがうまい。何故、恋人ができないのか、と突っ込んだ話までしてしまう。

おっさんと青年の笑い声が個室に、いや店全体に響いていたかもしれない。


食事を終え、ひとしきり色恋沙汰の話が終わったところで、彼から事件の話に入ろうとしてくれる。

こういった気配りもできるいい男なのだが仕事人間だというのが悪いのか、と考えてしまう。


「さて、五十嵐さん。僕に聞きたいことありますよね。なんの話でもいいですよ。」


酒をあおりつつ、私は答える。


「うむ、では初めてできた彼女との夜の方は…いや、私が悪かったから灰皿を置いてくれ。」


一呼吸した後、事件についての情報を聞く。


「まず、アイスピックだが、犯人の情報は無かったんだよね?」

「それは先ほども言った通り、指紋、皮膚片、血痕など一切ありませんでしたよ。」

「うん。では、犯人の指紋が無かったのかい?それとも、犯人の指紋もなかったのかい?」


この質問に、彼は首を傾げ、だがすぐにこちらの考えに気付いたのだろう。


「自殺の線はないみたいですよ。指紋もない上に首の傷は自分1人ではつけられないものでしたから。」

「そうなるか。だとすると…被害者宅にはサンタさん専用の煙突でもあったのかね。」

「あるわけないですよ。そんな家、今どきの日本には。密室はご高名な探偵をも惑わしますか。」

「正直、全く思い浮かばないな。玄関のドアの鍵穴についても調べたかい?」

「ピッキングの可能性なし。鍵の複製に関しても履歴が残っていない上に、被害者の知人に鍵屋はいません。科学者ならいましたが、液体金属を使った鍵の複製の線も無いようです。鍵穴にはなんの情報もありませんでした。また、ほかに外部から開けられるドア、窓の類もありませんでしたよ。」

「やっぱり、警察の方も密室を開くのに全力を挙げているみたいだね。液体金属はいけると思ったんだけどな。」


私は行き詰まり、そしてある案に到達する。

そうだ、犯人が犯人でなければいけない理由なんてない。

犯人が、犯獣だったり犯虫だったりしてもいいのだ。


「田口君、ネズミにならこの犯行は可能なんじゃないかね?」

「ふざけてますか?それとも本気ですか?後者なら警察病院での治療をお勧めいたしますが。」

「悪かったよ、いや、お手上げだ。」

「一応、言っておきます。ネズミが入れるような穴素隙間は四か所ありました。リビングにエアコンがついていたのでひとつ。換気扇のある風呂、トイレ、キッチンにひとつづつ、計四つですね。」


そこで彼は大きなため息をついた。


「…その隙間すべてに、何かこすったような跡があったようなのですが、鑑識曰く、ゴキブリでも通った跡だろう、と。」

「…まさか警察も犯人ならざる犯虫を疑ったのかい?」

「それはないと思いたいです。やる気なくしてましたよ、鑑識の連中。馬鹿すぎて付き合ってられんと。」

「まあ、特に換気扇関連だと何が付着しててもおかしくないからな。証拠だってでっち上げられるものもいくつか挙がったんだろう。」

「それで、一個ずつ報告書書かされるんですから、たまったものじゃありませんね。」


また、彼はため息をつく。

個人で探偵をやっている私には到底わからないのだが、組織、それも階級ですべてが決まる警察では

上の命令は絶対なのだろう。心底彼に同情しながら、この話を終える。


「現段階では何もわからないな。明日も仕事かい?」

「ええ、捜査本部が立ったら休みなんてないも同然ですから。」

「だったら明日、被害者宅を見せてもらえないかい?」


彼はニヤッと笑いこう言う。


「もう、交通費の支給まで出してもらってますよ。きっかり二人分の。」

「まったく、その積極性をどうして女性に使えないものか。」

「この積極性を恋人に使ってるんで問題ありません。」


二人して笑った。さて、彼もここでお別れという気はないだろう。

もともと、コミュニケーションに長けた彼のことだ。身内のゴシップネタには食いつきもいいだろう。


「よし、では、密室に関しては明日頑張るということにして…警部の話に移ろうか。」

「まってましたよ。」

彼はニヤニヤ笑っている。


恋人ができない理由が分かった気がした…


読んでくださる方々に、ただただ感謝です

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