第十九話-ある青年の信念
「で、結局、何でそんなことやってんの?」
コトハはオウルに尋ねる。
人類の平穏、そして一般人への危害の嫌悪。
その二つを根底に置いているのなら確かに今回の件は腑に落ちない。
オウルは黙ってしまう。
それと同時にコトハも黙ってオウルを見る。
また訪れる静寂。
今回は先ほどよりも長く、だがそこで割って入る人物がいた。
「それは、俺らの本心じゃない。俺らは…
「やめろ!!」
そこで初めて声を出したのは真犯人、いや、黒翼の会の、諦観を目に宿した青年であった。見たところ20代後半と言ったところだろうか。言葉を遮ったのはオウル、彼女はとても鋭く、青年の言葉を制止する。
コトハはそれを聞き…納得したような顔をして…
黒翼の三人を思い切り蹴り飛ばした。
それをみた冴島警部は慌ててコトハを止める。
私は面食らってしまいその場から動けずにいた。コトハはそう言った苛立ちで人に害をなすタイプの人間だとは思えなかったからだ。それに、彼は別に口を割らせずとも心を読んで状況は知ることができるだろうに、それをしないというのも考えてみればおかしな話だ。
「コトハ!何をしている!」
冴島警部は怒りをあらわにした様子だ。彼もコトハの側にいるということはあまり直接的な暴力は好まないのだろうか。
コトハはまったく気にしない様子で、冴島警部でなく黒翼に向かって話す。
「盗聴器、今壊したから何言っても大丈夫だよー。さ、話してごらん。」
コトハは盗聴器を見抜き、それを聞いているであろう人物にわからないように壊したというのか?確かに三者三様蹴っている部位は異なっていた。というより、盗聴器なんてものを使うのだろうか?聞いている側も魔術を使う者を利用するだけあって、よほど魔術に長けている者なのだろう。であれば、盗聴、あるいは観察をするような魔術を用いるのではないか?その人間には使うことのできない魔術ということなのだろうか。
そもそも、コトハはなぜ盗聴器の位置が分かったのだろうか?
袖を引かれる。見ればあざみであった。
「なんか解説役みたいになってるのがイラっと来るけど。探偵さんの質問に全部答えてあげよー」
「まず、魔術的観察は、さっきもいったよーにここは結界で囲まれてるから、そんなもの通用しない。わたしと鱗花がガチで組んだやつだからね。で、盗聴器の位置はーコトハは見たいものがあれば何でも見えちゃうから、見ようと思えばすぐにわかる。まあ、普通、魔術に頼って盗聴器なんか使わないから、特に人類を嫌ってる黒翼が人類が作った道具を使うとは思わなかったから失念してた。よっぽど警戒心が強いんだろうね、相手は。で、最後に、心を読むのだけど…うん、あの子たちのは読めない。というか一定以上の力を持っている人には使えないんだよねー、私もコトハも。まあ、万能に見えて弱点もあるってことで。」
なるほど、力の差がなければ心は読めない。
私は彼らの助けになりたいと思う。今も今後も。しかしこうもはっきりと差を見せられてしまうと物悲しいものがある。
それに、コトハは前情報の通りなんでも見えるらしい。みたいと思えば何でも見える、これにもそれなりの制約があるのだろうか。
そして、思い知らされるのはコトハの、いや、ここにいる全員の用意の周到さだ。自分を捨てる覚悟だけでここに来た自分が情けない。
考えこんでしまう私にあざみは、それもすごいことなんだよ、と一言言ってくれる。
そうこうしているうちに、本当に盗聴器が壊れていることを確認したオウルは弱弱しく、問いだす。
「…なんですぐに私を殺さない?お前はそっちで頑張って、今の地位を手に入れたんだろう?だったら…」
「それは、嫌だからだ。ほかに理由なんてないし、いらないでしょ。もし、これで国が、僕を排除するんだったら、それはそれでいい。少なくとも、君らの本心を聞くまでは、ぜったい死なせないよ。」
コトハは即答した。そのあとに、
「まあ、第一位の僕を切り離すんだったら国にもそれなりの被害は覚悟してもらうけどね?」
と、笑いながら付け足す。たしかに、彼が第一位である以上、簡単に切り離されることはないだろう。
そして、それを聞いたオウルは納得したような顔に、ほかの二人は困惑顔になっていた。
「なるほど、ガーデンね。…実在したんだ。」
「どゆこと?」
コトハが訊ね、そこからオウルは語りだす。動機を、過程を、目的を。