第十一章-ある少女の教え
その後も少女の話は続いた。
この世には精霊というのもが存在する。
万物には精霊というのもが、大小差はあれど、備わっている。
精霊の保有量が多いほど物としての強度が増す。そして、自分という存在を維持するために使用している精霊の余剰分を魔術という形で世界に放出することができる。
この世には三種類の人が存在する。
「人類」…人の中では最も精霊保有量が少ないが、その数、そして現代では科学の力でほかの種に引けを取らない。ただし精霊保有量が少ないため魔術が扱えるものは少ない。
「天使類」…精霊保有量の平均値が人類の平均値の300倍近い値を出す。白、または黄色の翼を持つ。天使と言っても善性を有しているわけではない。その数は3000人ほどだが、ほかの種よりも高い精霊保有量で種の存続を守っている。平均寿命は150歳ほど。
「悪魔類」…精霊保有量の平均値は人類平均の150倍ほど。5000人ほどの数がいる。どの種よりも攻撃的な性格と、悪魔類特有の精霊を変換することなくぶつける強力な攻撃手段で危険視されている。黒に近い色の翼をもつ。平均寿命は120歳ほどである。
また、魔術とは、自分の精霊をあるプロセスをたどることで力として影響を与えるものである。プロセスには多くの種類があるが、一番メジャーなものは魔術式に自分の精霊を流し込むことで発動する物であるらしい。個々の精霊は性質が生まれつき異なっており、たとえば火属性、水属性のように使用できる魔術にも制限があるという。
この世には序列が定まっている。
順位付けにはある決まりがあるらしい。序列は個人としての資質、力を示すものであり上位3000人に与えられるものである。また、種の中で序列が一番高いものがその種の王となる。
また、序列が高いと色々なサービスが受けられるらしい。ホテルのスイートルームが一般料金と同じになったりする。ここだけいやに一般的だが。
この世にも法と秩序が存在する。
法、秩序を守っている集団「天界査問執行会」によって集められた「天界査問連合」によりすべては決定される。基本的に同種間の争いには干渉しないが、それが他種間に拡大した時には争いを止める。また、人に害をなす害獣の駆除などの仕事を請け負い、時に斡旋する。この時の報酬はすべて天界査問執行会によって定められる。
現在、天界査問連合には高位序列者の過半数が参加しているため反対意見等はほとんど出ないらしい。
そして、その法の中には過激なものもいくつかある。
その一つが「魔術及びそれに準ずる行動による殺傷行為を理由なく行ったものは殺処分とする」というものである。しかし、理由があればよく、それは「ガンとばされた」程度の物でもいいらしい。
そして、この世には神崎言葉というイレギュラーが存在する。
本来人類には発現しない翼の保持。すべてを見通すと言われている目。それをもって序列の頂点にまでたどり着いた人類。
また、目の前の少女も超高位序列者であるらしい。
第一位…「GARDEN」こと神崎言葉(人類、19歳)
第二位…「Destroyer」(悪魔、48歳)
第三位…「Force」(天使、29歳)
第四位…「アザレア」ことあざみさん(天使、10歳)
第五位…「ハート」(天使、23歳)
第六位…「天秤」(天使、30歳)
第七位…「鳳凰」(悪魔、13歳)
第八位…「おーるふぉーみー」(悪魔、年齢不詳)
第九位…「マキナ」(悪魔、年齢不詳)
第四位だった。
目の前の彼女が、だ。
彼女の話をまとめるとこんな感じになる。
「なるほどな」
私はそうつぶやき情報を頭に叩き込む。あざみさんからメモは取らないようにと再三注意を受けたからだ。その情報の守秘具合から見ても彼女は適当なことを言っているわけではないのだろう。
現に白い翼を見てしまったので疑う必要もないわけだが…
「うん、こんぐらいわかってればいいんじゃない?」
「ではあざみさん、質問を、いいかな?」
「まあ、質問はいいけどさ…さんとか敬称とかいらないから。ふつうにあざみって呼んでよ」
「いやそれは…」
「これは言葉からもらった大事な名前。それにいらないものを付け足さないでー」
「言葉君から?親からもらった名前ではないのか?」
「私、親二人とも死んでて、そのショックで家族のこと思い出せないんだよねー。」
絶句、とはこのことを言うのだろう。少女があっけらかんと口にした言葉にはそれだけの力があった。ショックで記憶がなくなるほど、ひどかったのだろうか。
「まあ、あんま気にしないでね?一時期は荒れてたけど、いまはもう…言葉が居場所を作ってくれたし。私には言葉と、マヤとリンカ、それに冴島とか、それだけいれば十分。」
あざみさんの顔がとても穏やかになる。
そして知らない名前が出てきた。言葉君の次に出てくるぐらいだ。とても大切な人なのだろう。
「ああ、マヤとリンカは私と言葉の仲間。仕事仲間?で家族みたいなもん。舞う夜、で舞夜、鱗の花で鱗花。」
「…あざみさんにもいろいろとあるんだな…」
「あざみ」
「…はい」
少女にすごまれて、その恐怖で一瞬足がすくみ、すぐさま呼び方を間違えないようにしようと心に刻む。
それにあざみにもこれだけの過去があったのだ。その他の人間もそれなりの過去があるのだろう。
「まあ、あんまり人の過去を勝手に話すのはあれだけど…一応タブーに引っかからないように軽く教えてあげる。舞夜は悪魔で、滅んだ一族の生き残り。家族一人を除いて皆殺し。鱗花は人だけど生まれつき神を宿してる子。ちなみに13歳と14歳。」
「ちょっと待ってくれ、神を宿すとはなんだ?」
「人の願い、強すぎる願いは精霊を伝達させる。その精霊の集まった場所で身ごもった子は精霊に感化されながら育つわけだから、神としての能力を宿すこともある。日本みたいな多神教の文化の中では確率は低いはず。しかも大体が胎児のうちに精霊に感化されすぎて死産になる。だからめっちゃ稀。まあ、一神教が根付いた場所だと死産ケースがほとんど。今世界に三人、うち二人は日本で確認されてる。確率低くねーなこれ。」
「鱗花さんもそういうケースなのか?」
「そう、家が蛇神を祀ってるとか。しかも鱗花は体質まで神に近づいてる世界初の例。マジ稀。ちなみに序列は29位」
「神の力をもってしてもその序列なのか…」
「まあ、症例的には精霊を保有しすぎて体質が変わった言葉と似てる、のかな?それに序列って100位以内は一派一括りに化け物だからね。正直そんなに差はない。」
「なるほどな、というか、さっきから気にはなっていたんだが…全員日本語なんだな…というか高位序列者の二つ名もこっちの言葉だったよね?」
するとあざみさんはちょっと笑いながらこう言う。
「言葉が第一位になった時言ってた。『僕は天界語も魔界語もちょっとしかできない。だから今日からこっちの社会では日本語が共通言語な。』って」
その答えに私も苦笑してしまう。魔術においては天才的で、第一位などと言われていてもやっぱり人間なんだな、と思う。それにあざみさんも喜怒哀楽が顔に出て、本当に表情豊かな可愛らしい少女だ。
この子たちは人間だ。
そんなことを改めて思いながら本当に気になっていたことを聞いてみる。
「ちなみに、異種族間で戦争とかの争いは起きないのかい?」
その問いにあざみは少しあきらめたような顔をして、
「異種族間大戦争みたいなのは起きない。王三人、ああ、第一位、第二位、第三位が仲良しだから。でも欲望にまみれた人はどの種族にも存在する。そして…
迫害されるのはいつも『人類』なの。」
と言った。