『引退』
2017年度一発目の投稿が「引退」。
中々酷い幕開けですね。でも卒業シーズンだし、良いじゃありませんか。
そんな暗くはありません。笑って読んでください。
「この高校も、教室も見納めか。淋しいなぁ」
「まぁね」
小さな花のコサージュを胸につけて、私は友人と談笑しながら廊下を歩いていた。校舎を去る前に、一通り中を見ておくのだ。鞄の中では卒業証書の入った円筒が揺れている。
清清しい気分だった。今までいた場所を去る訳だし、勿論喪失感はある。だけど志望大学に受け入れられた喜びはそれにも勝る。
何より、もう部活に出向かなくて良い。
文芸部に入ることに決めたのは、高一の頃。趣味が小説を書く事で、その練習の為だ。
お陰で小説に限らず、作文の腕が全体的に良くなった――だけならどんなに良かったか。
二年の頃、クラスメイトが一人入部してきた。偉そうな仕切り屋で、正直あまり好きじゃなかった。他の部員も萌えアニメやライトノベル、兎角内輪受けする話ばかり。
集まったのは印刷の日だけとはいえ、そこにいた実感は持てなかった。早い引退の割に寂しさが少なかったのは、その所為だろう。
「どうしたの」
友人に肩を叩かれ、我に返る。回想するのに気をとられ、周りを見ていなかったらしい。私は慌てて謝罪した。
「貴女、よく作業してなかった? あそこで」
彼女が指差した部屋の窓から、見覚えのある機械が覗いていた。扉を開ける。インクの匂いが私達を包み込んだ。中に入って見ると正体は印刷機だった。
よくここで部誌を刷っていたなぁ。単純作業だったけど面白かった。
机の上に昔の部誌が一冊あった。失敗して捨てるやつだ。中には誰のかも判らない話が幾つか、それと部員全員による後書ページ。
『楽しんでくれましたか?』
格好つけたペンネームと遠慮がちなコメントは、紛れもなく私が書いたものだ。
友人が記念に一つと欲しがった。私の話が読みたいらしい。持っていた部誌を手渡した。
「どうかな。そんな悪くないと思う」
歪な文字列を、外の光が明るく照らした。




