赤毛
欧米では赤毛にマイナスイメージが多いそうですね。見慣れない色だからでしょうか。
赤自体は良い色だと思います。血の色で、火の色で、生きるエネルギーをフルにあらわしているようで。
今回はそんな赤毛の少女の話です。
暖かい色だ。朝焼けみたいな優しい色。
彼は今日も私のお下げ髪を手に取り、撫でる。白い手に色をすり込ませるようだ。髪の色の事を言われても、不思議と気にならない。
学校ではよく「にんじん頭」と呼ばれた。お下げを引っ張られた。クラスに赤毛は私しかいなかった。私が脚を折ってここに来ても、誰もお見舞いに来なかった。
彼とは私が部屋を間違えて知り合った。病室が隣同士だったのだ。歳が近いからすぐ仲良くなれた。酷く色白で、白い院内着を着ていると極限まで色彩を減らしたように見える。
よく一緒に病院の庭を散歩する。私はまだ立てないので、彼が車椅子を押してくれる。お日様の光が眩しい。
その後木陰のベンチでお話しする。すっかり暖められた赤毛を、彼は包むように撫でる。
彼に初めて髪を褒められたのは、三ヵ月位前の事だ。暖かな気持ちになれるらしい。
人参農家の祖母と暮らしていた彼は、半年程前に病院に運ばれた。口から鼻から血を流して大騒ぎだったそうだ。
「今も時々鼻血が出る事がある」彼は語る。何度か院内着に真っ赤な血をつけてふらふら歩いている所を見た。私が言っても拭こうともしなかった。生きている実感が湧くらしい。
「ここで見るのは白いものばかりだ。壁も、服も、僕までどんどん存在が薄くなるみたい。血を見ると、僕にも色があったのに気づける。君に逢うと、目の前がぱっと明るくなる」
いつか僕の家に来てよ。丘の上にあって、綺麗な朝焼けが見える。おばあちゃんの人参スープはとても美味しいんだ。
「……うん、そうね」私はわざと言葉を濁す。
これで何度目よ。なんでそう言うの。知ってるのよ、お医者様が貴方に話してたの。帰れないんでしょ。あんまり白くなりすぎて絶対消えちゃうもの。
私、いくら色をあげても良い。髪だってあげるわ。傍にいてよ。
そう言いたいのをぐっと飲み込んで。