表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
800字の短編世界  作者: 沙猫対流
2017年
11/11

赤毛

欧米では赤毛にマイナスイメージが多いそうですね。見慣れない色だからでしょうか。

赤自体は良い色だと思います。血の色で、火の色で、生きるエネルギーをフルにあらわしているようで。

今回はそんな赤毛の少女の話です。

 暖かい色だ。朝焼けみたいな優しい色。


 彼は今日も私のお下げ髪を手に取り、撫でる。白い手に色をすり込ませるようだ。髪の色の事を言われても、不思議と気にならない。



 学校ではよく「にんじん頭」と呼ばれた。お下げを引っ張られた。クラスに赤毛は私しかいなかった。私が脚を折ってここに来ても、誰もお見舞いに来なかった。



 彼とは私が部屋を間違えて知り合った。病室が隣同士だったのだ。歳が近いからすぐ仲良くなれた。酷く色白で、白い院内着を着ていると極限まで色彩を減らしたように見える。


 よく一緒に病院の庭を散歩する。私はまだ立てないので、彼が車椅子を押してくれる。お日様の光が眩しい。

 その後木陰のベンチでお話しする。すっかり暖められた赤毛を、彼は包むように撫でる。


 彼に初めて髪を褒められたのは、三ヵ月位前の事だ。暖かな気持ちになれるらしい。

 人参農家の祖母と暮らしていた彼は、半年程前に病院に運ばれた。口から鼻から血を流して大騒ぎだったそうだ。


「今も時々鼻血が出る事がある」彼は語る。何度か院内着に真っ赤な血をつけてふらふら歩いている所を見た。私が言っても拭こうともしなかった。生きている実感が湧くらしい。

「ここで見るのは白いものばかりだ。壁も、服も、僕までどんどん存在が薄くなるみたい。血を見ると、僕にも色があったのに気づける。君に逢うと、目の前がぱっと明るくなる」



 いつか僕の家に来てよ。丘の上にあって、綺麗な朝焼けが見える。おばあちゃんの人参スープはとても美味しいんだ。



「……うん、そうね」私はわざと言葉を濁す。


 これで何度目よ。なんでそう言うの。知ってるのよ、お医者様が貴方に話してたの。帰れないんでしょ。あんまり白くなりすぎて絶対消えちゃうもの。

 私、いくら色をあげても良い。髪だってあげるわ。傍にいてよ。


 そう言いたいのをぐっと飲み込んで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ