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Vitamin☆Days

スニーカーとピーチウォーター

作者: パルコ

長編のシナリオにしようと思ったものを短編にした作品です。

 僕は二十歳はたちにして、高校3年生である。どういう事かというと、仕事をしながら都内の通信制高校に在校しているということ。僕、江夏湧也えなつゆうやは十三歳から声優活動をしていて、ありがたいことに忙しい日々を送っている。中学を卒業してそのまま仕事を続けていたが、高校は卒業した方が良いと両親や社長から言われたので、今在校している高校を受験した。今は学校でも現場でもいい仲間に恵まれて充実している。


 今日はスクーリングも仕事もない丸一日オフという貴重な日だ。大好きな小説家の新作が近くの書店で入荷したらしいので、書店に向かっている。マネージャーから丸一日オフと聞いたときは本を読み耽って過ごせるチャンスだと喜んだ。一つ角を曲がると僕がよく訪ねる書店、向かいにはコンビニが見える。僕は書店に入ろうと足を進めて――――

「せんぱーい!」

「!?」

向かいから女の子の声がして振り向くと、そこには僕の高校の後輩が笑顔で大きく手を振っていた。腕まくりした白いシャツに、紺色の短いプリーツスカート、黒のクルーソックスという十代の特権とも思えるコーディネートは、彼女の無邪気で爽やかな笑顔をさらに引き立てた。

「穂香ちゃん」

「えっくん先輩、お仕事は?」

「今日は一日休みだよ。だから今日は新しい本買おうと思って」

「先輩、本好きだよねー」

そう言ってニコニコしているのは、高校の1年後輩である井川穂香いがわほのかちゃん。彼女に初めて会ったのは、4ヵ月前。彼女は明るくて、笑い上戸で、そして、僕が彼女を見かける時は、決まってキャンバススニーカーを履いていた――――


 5月中旬のある日の夕方、その日はアフレコの後すぐにスクーリングへ行った。僕は授業が終わって、これからのスケジュールをスマホで確認していた。夜はイベントの打ち合わせがあって、明日はレギュラーの収録とラジオ収録。それから―――

    ドンッ!

「あだっ!」

「え……。ああっ!? ゴメン! 大丈夫?」

「いてて……」

スマホに意識を向けるあまり人にぶつかってしまったようだ。僕とぶつかった女の子は肩をさすっていた。

「大丈夫! もう平気!」

女の子は元気印のような笑顔でそう言った。

 思い出した……。彼女は井川穂香。いつもニコニコしていて、掴みどころがない子だ、と噂で聞いた。確かに、彼女から負の感情が読み取れない。本当に太陽のような笑顔で、僕は少し戸惑っていた。

「江夏せんぱい?」

「……え? 何で名前……」

「知ってるよー! 昨日テレビ出てたしー、友達もキャーキャー言ってるし!」

「ああ、そういうことね……」

多くの人が俺を知ってくれてるのは分かっていたが(本当にありがたい)まさか学校までとは……。

 嬉しいやら気が休まらないやら、複雑な思いを頭の中に渦巻かせていると両頬に温もりを感じて、視界いっぱいに彼女の顔が映っていた。

「えっくん、よく頑張ったね!」

え……。今、頑張ったって言われた……? 

「え? どういうこと?」

「アタシが小学生のときね、テストでいい点数とった時とか、バスケの試合が終わった時におばあちゃんがやってくれたんだー! こうされると、胸がじわぁーってあったかくなって、何だかすごいうれしくなるんだ~」

そう話す穂香ちゃんは弾んだ声で、そして最後の方は幸せそうな声だった。穂香ちゃんの手は相変わらず僕の頬をぐりぐり押している。

「えっくんは? あったかい? うれしい?」

穂香ちゃんの意図が全く読めなかった。けれど、何かがこみ上げてきたのは視界が滲んだので分かった。穂香ちゃんのレモンイエローの足元が、いやに鮮やかに見えた。彼女の言葉や両手から、温かくてふわふわしたものが伝わってくる。めまぐるしく時間が回る中で、一瞬だけ安らげるような……。


    ああ……僕はずっと…………こうして欲しかったんだな…………。


それが分かったとき、堪えていたものが一気に湧き出るのを感じた。大の男が女の子の前で声を上げて泣いてしまった。それでも、穂香ちゃんは傍にいてくれた。


 あの日から僕は、穂香ちゃんに興味を惹かれて、穂香ちゃんを見かけては話しかけるようになった。穂香ちゃんはいつもニコニコしながら僕の話を聞いてくれた。ときどき目に入る穂香ちゃんの足元はカラフルなキャンバススニーカー。でも、寒色のスニーカーを履いているのは、見たことがないと思う。

なんとなく、なんとなくだけど、この温かくて明るい色をした彼女の足元が、普段、何を考えてるかわからない彼女の心の色を表しているように思えた。今回はパステルピンクのスニーカーを履いている。

「穂香ちゃんはこれから学校?」

「ううん、友達と遊ぶ!」

穂香ちゃんはそう言ってピーチウォーターのペットボトルを取り出した。

「はい、あげる! アタシこれあんまり好きじゃないんだ」

穂香ちゃんに押し付けられるがままピーチウォーターを受け取ってしまったが、好きじゃないなら何で買ったんだ。やっぱり彼女の意図は読めない。

「いや……これまだ飲んでないし、好きじゃないなら何で買って…………あれ? 穂香ちゃん……?」

僕が疑問を口にしたときには、穂香ちゃんはもう遠くにいて、軽い足取りで歩いていた。

――――ほら、やっぱり掴めない。けれど、なんだか凄く面白い子だ。

 僕は書店でお目当ての本を手にし、家路をゆっくりと歩く。忙しくて見かける機会なんてあまり無いけれど、次も会って一番に、穂香ちゃんが僕に笑いかけてくれたら嬉しい。

ピーチウォーターを体に流しながらそう思った、暑さの残る季節、正午のこと。

まとまらない……。

何かアドバイスありましたらよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう同級生、もしくは後輩ちゃん……一人でもいたらなぁ(ぇ
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