〜筆者の過去の話〜
ウソも脚色もなく本当のことを書きました。
俺は現在18歳の予備校生だ。
俺の家は父が開業医をやっていて小さいころから医者になるように言いつけられて生きてきた。
自分の意思なんかなかった、ただ親に言われてそう育ってきた・・・。
でも中学校に入り、悪い友人やネオンに彩られた夜の繁華街に心引かれた。
そして俺はその暗闇の世界へと一歩を踏み出した・・・。
喧嘩・喫煙・飲酒・不純異性交遊・窃盗・無免許運転もやった。
今まで無意識に生きてきた分、この暗闇の世界で自分ははっきり生きていることを実感できていた。
警察の厄介になったこともある、その度に父は俺を殴り叱り付けた。
言い分なんか一度も聞いてくれなかった、そんな父に反抗して家に帰ることも少なくなり無断で外泊する事もしょっちゅうだった。
その頃俺の母は俺の弟(自閉症で養護学校に通ってる)の為に父に出資してもらって事業を起こしていた。
それが俺は気に食わなかった、帰ってきても家には誰もいなく灯りも点いてなかった。
そんなある日、母と俺は些細な事で言い争いになった・・・。
「ケイスケ、あんたはなんでそうなってしまったの?」
母が今にも泣きそうな顔で俺に食って掛かってきた。
「うるせぇクソババア!!誰のせいでこうなっちまっただと思ってやがる!!全部てめぇと親父のせいだろうが!!」
俺は負けじと声を張り上げて母に食って掛かった、今思えばくだらない意地だった。
「なんで?」
母が驚いた顔で俺を見る、その時は何故かムカついていた。
「お前達親が俺にプレッシャーなんかかけやがって!!弟ばかり可愛がったせいだ!!どうせ俺なんかいなくなってもいいんだろ!!」
今思えば支離滅裂な答えを母に思いっきりぶつけた。
「そんな事ない!!私はケイスケもタカスケ(弟の名)も平等に愛してる!!なんでそれが分からないの!?」
母が涙を流しながら俺の胸倉を掴んで必死に抗議した。
「うっせぇ!!今更白々しいんだよ!!んなもん信じられっかよ!!」
俺は母の手を乱暴に振り解いてそのまま部屋に戻り鍵をかけて引きこもった・・・。
そして荒れた中学生活を送っていたツケなのか高校は市内の三流高校にしか入れなかった。
入ってからも学校を無断欠勤し部屋でダラダラしたりパチンコや麻雀ばかりしていた。
正直学校なんか面白くなかった、折角10年間もやっていた剣道も部活の顧問や先輩との対立であっさり辞めた。
母は俺の為に色々してくれた、ウソを付いて学校を休ませてくれたりもしてくれた。
二学期になってようやく落ち着き真面目に登校し始めたが、そこには俺の居場所なんかなかった。
母には心配をかけまいと『友達と今日はOOやって遊んだ』とかウソを付いてごまかし続けた。
やがてそんな生活を送っていたせいか心が壊れた。
部屋に引きこもって登校拒否になりはじめていた。
そんな俺の為に母は知り合いの医者の所にカウンセリングに連れて行ってくれたり励ましてくれたりした。
中学時代にあんな酷いことを言ったのにそれを忘れたのかとも思えるほどだった。
高校時代の成績は目も当てられなかった、理数科目はいつも赤点で文型科目で点数を稼いでいたような物だった。
母は自分の貯金を削り家庭教師を2人も三年間雇ってくれた、それで少しは成績が上がり卒業はなんとかスレスレの超低空飛行で出来た。
進路はもちろん大学進学、東京の私立大学の医学部を受験するも見事に失敗。
父はそれで俺に医者にするのを諦めたらしく『好きに生きろ』とだけ言った。
俺は自分の将来に絶望して自殺をも考えた、だが俺は常に母に救われた。
「お父さんはああ言ってたけど・・・あんたの事を心配してるんだよ?」
薄暗い部屋で呆然と過ごしていた俺に母が言った。
「どこがだよ・・・もう俺は駄目なんだよ、なぁ?母さんも俺なんかに金出すよりも妹に望を託した方がいいんじゃない?」
自暴自棄に陥り半分アルコール中毒になりかけていた俺はうつろな目で母にそう言った。
「俺はもう駄目なんだよ・・・親父や母さんの言う通りに真面目に勉強してればこんな事にはならかった・・・もう俺死のうかな?死んだら楽になるだろうし、保険金も降りるだろうさ」
俺はラム酒の入ったボトルを傾けながら自嘲気味に言った。
次の言葉を出す前に俺は強烈な痛みを頬に感じた。
−−−母が俺が生まれて初めて本気で俺を叩いたのだ。
「殴れよ・・・どうせ俺なんか可愛くないんだろ!!殴れよ!!いや、殺せよ!!殺してくれよ!!」
俺は殴られた痛みからか堤防を切ったように感情を爆発させた。
母は無言で俺に歩み寄り、そして・・・。
−−−俺を抱きしめた。
「自分が腹を痛めて産んだ子供が可愛くない訳無いでしょ!!死ぬなんて許さない!!やりもしないで自分を全部否定なんかするな!!」
母が俺を抱きしめながら俺に言った。
俺はその言葉に涙を流した、中学時代いつも迷惑をかけ、高校時代はウソを付き続けた俺をそこまで想っていてくれたことに・・・。
「全部に挑戦して・・・もしも全部駄目だった時、その時死になさい・・・その時は母さんもあんたと一緒に死んであげる・・・」
母がグッと俺の頭を胸に埋めて泣きながらつぶやいた。
俺は声を殺して泣き続けた。
そして俺は作家か声優になる為に得意だった文型科目を勉強する為に予備校に通う決意をした。
そして母は俺が一人暮らしをする為に遠い街へ引っ越す前夜に飲みに連れて行ってくれた。
「おいおい、母さん・・・俺は未成年だぞ?」
俺は一応社交辞令的に皮肉を込めて言った。
「高校を卒業したらもう大人よ」
母はさらりとそう応えながら酎ハイを呑み続けた。
アルコールが入ってか二人で色々なことを話した、昔のあの出来事も。
「あの時はバカなこと言ったなぁ・・・」
俺も精神的に大人になりしみじみ自分の愚かさを恥じて言った。
「あんたも大人になったわねぇ・・・」
母がウリウリと俺の頭を撫でながら言った。
「俺もいずれ結婚して家庭と子供を持つんだろうなぁ・・・」
俺がはにかみながら未来に想いを寄せて呟くと母はどこか寂しそうな顔をした
「ケイスケ、これだけは覚えてなさい・・・あんたが幾つになっても・・・あんたは私とお父さんの大事な子供だよ」
母が笑顔を作って俺に諭してくれた。
「分かってるさ・・・」
俺は恥ずかしそうにそう呟き返した。
その翌日、俺と母は遠くの街へと行くために朝早く車に乗って故郷を旅立った。
そして三日後アパートについた荷物を整理し終え母は帰ろうとした。
どこか寂しかった、どんなことがあっても俺の味方であってくれた母がいなくなる。
どんなことをしても俺を庇ってくれた母がいなくなる。
だけどそんな感謝の言葉一つ出なかった・・・。
そして母が『元気でね、夏休みに遊びに来るから』と言ってドアを閉めようとした時。
俺は生まれて初めて素直な笑顔で母に感謝の言葉を言った。
「ありがとう・・・母さん」
母はニコリと微笑んでドアを閉めて帰っていった。
そして今、俺は時々予備校をサボりつつもどうにか真面目に生きている。
自分の夢も決まり自分の道を歩んでいる、その先は見えないけどいつか自分が息絶えるその時まで必死に歩み続けている。
俺に全力の愛を注ぎ続けてくれた母、その存在が大きいのは言うまでもない。
未だに完全に素直になれない貴方の愚息ですが・・・今ここではっきり言わせてください。
どんな時も俺の味方でいてくれて、ありがとう。
俺の為に色々してくれて、ありがとう。
そして−−−。
産んでくれてここまで育ててくれてありがとう、母さん。
書き終えた今、ちょっと涙が出てきました。
本当にありがとう、母さん。