こんなくだらないパーティ今すぐ抜け出してさ、
「ヘイ、ロキシー。楽しんでる?」
あたしが緑色の甘ったるいソーダをちびちび舐めていると、細長いグラスの脚を気障ったらしく摘まんだディランが人混みをかき分けて現れた。
「楽しんでるわけないでしょ、クソが」
あたしが煌びやかな会場にふさわしくない言葉遣いで吐き捨てると、ディランはきひひと悪趣味な笑い声を立てる。
「ほんと、俺たちなんでこんなパーティにいるんだろうな」
さっきからあたしが染みみたいにへばりついてた壁に、ディランもだらしなく背中を預けた。
中央のシャンデリアの下では皆がおしゃべりに恋に大忙しで、ここは台風の目みたいにぽっかり静かだ。
「とか言って、あんたも相当めかしこんでるじゃない。それ、プロムの時に着てたタキシードじゃないの?」
「一応な、TPOってやつだろ。あちこちキツくなっててビビったぜ。2年で体型って変わるもんだな」
ディランがちろ、とあたしの服に目を走らせた。
それだけで、言われなくてもお察し。
いつもと同じ服。いつもと変わらず冴えないあたし。
「いいのよ。これがあたしのトレードマークだもの。ほら、漆黒の魔女、みたいな」
「プロムのときも黒いドレス着てたもんな」
「あれはミッドナイトブルーっていうのよ、朴念仁」
「さいで」
流れる音楽がふいに途切れると、メロウでスロウな曲に変わった。
王子様みたいにめかしこんだマックが、跪いてサンドラに手を差し伸べるのが見える。
「ほんと、クソみたいなパーティだわ」
頬を寄せ合ってチークを踊るふたりを半眼で眺めながら、あたしは本日何度目かの文句を吐き捨てた。
「ま、クソなりにいいところもあるぜ。王家主催のパーティだけあって、メシと酒は最高」
「あんた、そんなんだからタキシードがキツくなるのよ」
「うっせ」
身体に合わない服を着たディランが、大きく伸びをしようとして諦める。
この2年の鍛錬の成果か、腹回りだけでなく首や二の腕も随分窮屈そうだ。
「あー、つまんね。ゴブリンでも討伐してぇな」
「同感。でかい攻撃魔法でもぶっ放したい気分」
今日はマックとサンドラ王女の婚約披露パーティなのだ。
異世界から召喚された勇者様は、魔王を倒して王女様とご成婚。
めでたしめでたし。
巻き込まれ召喚されたあたしたちを除いては。
「異世界召喚って、ジャパンアニメでしか起きないのかと思ってたぜ」
「マックのクソ野郎が日系人だからよ、きっとそう」
卒業を控えたプロムの夜、ホールの床が突然消えて、あたしたちは異世界に召喚された。
マックが勇者で、ディランが戦士。あたしには魔法の素質があるとわかって、あたしたちはハイスクールも卒業できないまま魔王討伐パーティに組みこまれた。
余所者の高校生に血みどろの戦いやらせる国は真実クソだけど、魔王を倒して平和になったのはまあいい。
帰れないのも、まあ、予想はしてた。
マックは聖女として同行してたサンドラ王女と熱愛、からのロイヤルウェディング。
大変結構。どうぞお幸せに。
あたしたちにも爵位やらなんやらくれる心づもりらしいけど。ハン、今さら。
ハイスクールも強制退学してドンパチってたあたしたちに、次はギラギラのシャンデリアの下が居場所だなんて言われても、戦場以上の地獄にしか思えない。
「なあ、こんなくだらないパーティ今すぐ抜け出してさ、俺と新しいパーティ組まない?」
指先で遊んでいたシャンパングラスの中身を干すと、ディランはきししと品のない笑いを浮かべた。
「使命とか関係なしにさ、面白そうなクエストだけ受けて、夜は酒場で一杯やってさ」
悪くない提案だ。
あたしはふむと頭を巡らせた。
「あたしは学校に行きたいわ。魔術もちゃんと勉強してみたいし。それに信じらんない、あたしたち中卒なのよ⁉」
ディランが「気にするのそこ?」と笑いながら、シャンパンとソーダ水のグラスをそこいらに片づける。
手が空いたあたしは、トレードマークの黒魔術師のローブから愛用の杖を取り出した。
「じゃ、行こうか。こんなパーティより、もっと楽しいこと探しにさ」
漆黒の魔女の杖がちかりと光ると、場違いな壁の染みたちの姿が消えた。
ふたりが消えてもシャンデリアは瞬き、笑い声はさざめき、恋人たちは見つめ合う。
これが本当のめでたしめでたし、ってやつかしらね。




