辛気臭いと言われ婚約破棄された木枯らしの聖女は求められた地で幸せになります
第7回小説家になろうラジオ大賞参加作品です。
【キーワード 木枯らし】
「今まで我慢してきたが、もう限界だ。そんな辛気臭い顔をした聖女がいるわけがない。この偽聖女が。とっとと出ていけ」
婚約者である王太子からそう言い放たれ、聖女。いやもう聖女ではなくなった、一人の少女は無言のままその場を立ち去った。
もともと宮廷なんて堅苦しいところは性に合わなかった。外に出たら、何だか足取りが軽く感じられた。少女の体内に宿る風の精霊も喜んでいるのかもしれない。
少女は自問した。
「さあ、どこに行こうか。どこかに行こうか」
そして、自答した。
「風の向くまま。気の向くまま」
何だか心の底から笑いがあふれてきた。
少女が去ったその国は、次の日から急速に気温が上がった。忍び寄る冬の寒さに恐れをなしていた国民たちはみな喜んだ。
一度、花を散らし、種をこぼした草花はその温かさからすぐ芽を出し、間を置かず、また花を咲かせた。
収穫を終えたばかりの穀物は、やはり間を置かず、青々とした穂を繁らせた。
「これなら年に何回も収穫できるようになるかも」
国民の期待は膨らみ、風の精霊を宿らせた木枯らしを吹かせる聖女をこの国から追い出した王太子には賞賛の声が集まった。王太子の真の目的が金髪の可愛らしい少女と婚約し直すことにあったとしても、そんなことは誰も問題にはしなかった。
但し、その期間は短かった。最初は気温上昇による温かさは国民を喜ばせた。しかし、聖女がいなくなったことで気温は下がることなく、上がり続けた。
国民は猛暑に苦しみ、草花や穀物は高温障害で焼け、枯死していった。国民の怨嗟の声は王族を脅かし、慌てて聖女を探すもその行方は杳としてしれなかった。
「ようこそ我が国に。木枯らしの聖女。お待ちしておりました」
長身銀髪の青年の声がけに少女は身構えた。
「驚かせてしまったらごめんなさい。でも、僕は一見嫌がられる木枯らしが実は土地を豊かにするのに必要だと知っている。僕が王太子を務めるこの国にずっといてほしいのです」
「私は気まぐれな風の精霊を持つ者。いついなくなるか分かりませんよ」
「精一杯おもてなしします。ぜひ」
「ちょっとだけなら」
そのちょっとは五十年になった。青年は聖女の気持ちを重んじ、聖女はその気持ちに打たれ、婚姻を受け入れた。
木枯らしのもたらす落葉は土を肥し、その寒さは植物に休眠の時期を与える。呼んでくる雪はやがて解けて、国に潤いをもたらす。
国は豊かになり、二人は末代までその名を国民に称えられたという。
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