魔法陣の副作用
「この魔法陣で城まで飛ぶ」
白い髪の若い魔法使いが言う。今は緊急事態で、姫に危険が迫っていた。一刻も早く城に向かわないといけない。
床には青い塗料で描かれた魔法陣がある。青い円の中に線が飛び跳ねまくった文字が書かれ、塗料特有の刺激臭がする。
「今度は大丈夫なはずだよね?……書き方も手順も問題なし、全部確認したし大丈夫」
分厚い本を何度も覗き込みながら魔法陣を発動すると、すぐに城についた。
「やった!」
ここは広間だった。誰もいない。ドアが開け放たれ風が魔法使いの服を揺らす。
だが遠くから人々の叫び声や雄たけび、金属音がする。何かが燃えるような臭いもしていて、ただ事ではないことが分かる。
居ても立っても居られない魔法使いは慌てて走り出す。
周囲を何度も見まわしながら、静かに進む
(……化け物とかいないでくれよ? 戦えないんだからな俺は!)
だがそんな願いも空しく、角から化け物たちが顔を出す。
緑の肌をした大きな体躯の化け物と、人間くらいの背丈の化け物たちが駆けてくる。
「あ!」
魔法使いは思わず声を出すが、化け物たちは気が付かなかったのかそのまま行ってしまった。
「あっぶなー」
冷や汗をかきつつも、魔法使いは進む。
そして目の前に人の集団が出てきた。
「おお!」
魔法使いは驚く。目の前には鎧姿の兵士たちに囲まれて、姫がいたからだ。
だが兵士が剣を抜いた。
「化け物が! 姫様! 逃げてください!」
「化け物!?」
魔法使いが慌てて後ろを振り向いても誰もいない。そして姫たちの方を振り向くと、剣の切っ先が振り下ろされる。
(あ、死ぬ)
剣先が目の前にあるのをゆっくりとした視界で見ながら、自分の死を感じる。
慌てて魔法使いは飛びのき、難を逃れた。
魔法使いは服を乱しながら起き上がって叫ぶ。
「何をするんだよ!」
だが兵士は敵意むき出しに怒鳴った。
「黙れ化け物が!」
「化け物はここにいないだろ!? なんだ貴方は……」
そう思って魔法使いがふと自分の腕の色に気が付く、色がまるで葉っぱのように真緑で、指先は長く、青い爪が伸びていた。
顔に手を触れると、頭が縦に長く、あごも伸びている。髪はなく、頭頂部から一本の角が生えているのが分かる。
「まさか……」
直ぐに魔法使いは思い出す。つい最近魔法陣を使ったとき、髪の色が真っ白に変わる副作用を体験したことを。
あの時は『お洒落だしかっこいい! このままにしておこう!』くらいに思っていたが、これはその比じゃない。
だが兵士はそんなことは分からない。だからそのまま切り殺そうとしてきて、魔法使いはよけて叫ぶ。
「姫! これを!」
「え?」
魔法使いは魔法を込めたお守りを姫に投げた。姫は思わずそれをつかみ、見覚えのあるお守りに驚く。
「では!」
魔法使いはそのまま元の広場に逃げ出すと魔法陣で元の家に戻った。
残された姫はお守りを見つめる。
「これは……。分かりました。はあ!!!」
姫がお守りに魔力を込め、解放する。
すると青い光が姫から広がる。それは城を包んでいく。化け物たちは青い光に当たると体が焼け、直ぐに灰になった。
こうして城は救われたのだった。
「ふう。大丈夫だったかな」
魔法使いは城のことを考えつつ、目下の課題である自分の姿を戻す薬を作り始めた。
ちなみに翌日、城を化け物たちが襲ったが撃退し、姫は無事だった。という噂が聞こえてきた。
「たまには副作用も悪くないってね」
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