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3

優雅なワルツが流れ、舞踏の間の視線がふたりに注がれていた。


 皇太子レオナールとグランディエ公爵令嬢リリス。

 誰もが羨望の眼差しを向けている。


 けれど当のリリスは、その視線さえもどこか遠く感じていた。


(踊り……手順通りに動けばいい。感情は必要ない)


 そう自分に言い聞かせていた。


 一方、レオナールはリリスの手を取ったまま、視線を逸らさず言葉を紡ぐ。


「リリス嬢は、ご趣味などおありですか?」


「趣味……ですか」


 一瞬の間。

 舞踏会用に用意された答えは山ほどある。


「音楽や書物が好きですわ」


「なるほど、知性もおありなのですね」


 微笑んで返す。

 だがその目は、言葉以上のものを探っていた。


 レオナールは少し身を屈め、声の調子をほんのわずか柔らかくした。


「けれど……それは心から楽しめているのでしょうか?」


 リリスの踵がわずかに揺らいだ。


 この問いは想定外だった。

 表面的な会話で流せるものではない。


(なぜ……なぜそんなことを聞くの)


 顔は変わらず微笑を保ったまま、リリスは答える。


「ええ、もちろん」


「……そうですか」


 レオナールはにこりと笑った。

 けれどその瞳は、微かに意地悪な光を帯びていた。


「私はね、仮面の下の顔に興味があるんです」


 低く囁かれたその言葉に、リリスの心はひやりと凍った。


(……見抜かれている?)


 思わず視線を合わせてしまう。

 レオナールの青い瞳は冗談めいて見えて、その奥に本気の色があった。


「……殿下は、人の仮面を暴くのがお好きなのですね」


「いいえ。ただ……あなたのような方は、きっと本当はもっと面白いのだろうと、そう思っただけですよ」


 音楽が終わり、踊りが終息していく。


 リリスは丁寧に礼をとった。


「お戯れを」


「戯れではありませんよ、リリス嬢」


 レオナールはもう一度、彼女をまっすぐ見つめた。


「……また、ぜひお話を」


 その言葉に、リリスの胸がひどく騒いだ。


──何も感じないはずだったのに。


 その「興味の目」が、自分の心の奥底に手を伸ばしてきたような錯覚。


 舞踏の間の喧騒の中で、リリスはそっと息を吐いた。

 自分でもわからない動揺が、わずかに胸を締めつけていた。


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