表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

2

「お噂以上に、お美しい」


 そう言って微笑む皇太子の青い瞳は、まっすぐにリリスを見ていた。


 その視線を受けても、胸は静まり返ったままだった。


 ──何も、感じない。

 なぜ私は、こうなのだろう。


 自嘲を胸の奥に押し込みながら、リリスは微笑を崩さず返す。


「過分なお言葉ですわ。殿下こそ、噂に違わぬご容姿とお振る舞い」


「……光栄です」


 ひと呼吸の間。

 レオナールはふと首を傾げた。


「令嬢は舞踏会がお好きですか?」


「ええ、皆さまと同じように楽しんでおりますわ」


 用意された答えを滑らかに紡ぐ。

 本当は、ただの社交の場でしかない。心が動くことなどないのだ。


 けれどその瞬間、皇太子の瞳が僅かに細められた。


「……皆さまと同じように、ですか」


 一瞬の沈黙。

 問いかけの裏に、探るような色が滲んでいた。


 リリスの心に、かすかな焦りが走る。


(この方……私の仮面の裏を見ようとしている?)


 だがすぐに表情を整える。


「殿下も、舞踏会はお好きなのでしょう?」


「ええ、人と会うのは嫌いではありません」

 レオナールは柔らかく微笑んだ。


 ──だがその瞳の奥に、どこか深い影が宿っているのをリリスは見逃さなかった。


 この人もまた、すべてを素直に表しているわけではない。

 そう理解した瞬間、ほんのわずかに胸がざわついた。


(……今のは、何?)


 しかしその感覚も、すぐに掴めなくなった。


「よろしければ、一曲お付き合いいただけますか」


 差し出された手。


 ──断る理由はない。

 リリスは完璧な笑顔でそれを取った。


「喜んで」


 けれどその心は、また静かな湖面に沈んでいく。

 皇太子の手の温もりすら、自分のものとは思えなかった。


***


 一方、リリスの手を取りながら踊り出したレオナールは、内心で小さく息を吐いていた。


(……やはり、何かが欠けている)


 触れた指先が、まるで硝子細工のように冷たい。

 この娘は、自分でも気づかぬほど深く心を閉ざしている。


(なぜ、こんなにも完璧な仮面を被っている……?)


 踊りながら、レオナールは静かに決意する。


 この檻の奥にいる本当の彼女を、知ってみたい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ