【第一話】エンライトン大学
「ここが王国ナインスピア……」
メルヘンチックとでも言おうか。そこはなんとも中世ヨーロッパを彷彿させるような大きな街であった。
「とは言っても、ここは世界でも一番小さな国でね。ほとんどエンライトン大学の収入で王政が成り立っているようなものなんだ。」
「そのエンライトン大学っていうところが、教授の言ってた?」
「あぁそうだよ。ここにしかない学部があったりして、全世界から生徒が集まるんだ。」
かわいい教授の目の前なこともあり冷静を装っていた俺だが、興奮が止まらない。思い描いた異世界を具現化したようで、なにもかもが新鮮極まりない。
「さて…久しぶりの生徒だ。しばらく研究で忙しかったからね。さ、最近…授業ができていなかったから、限界だったんだ……明日からビシバシ行くから………かかかか覚悟してね?」
興奮していたのは俺だけじゃなかったらしい。この人、案外ヤバい人か?
「ここがエンライトン大学だよ。で、この地図に書いてある一年生寮の410号室が君の部屋。何もなくて退屈しちゃうかと思うけど、まあ野宿よりマシだろ?」
「おっしゃるとおりです。」
「うむ。じゃあ私は昨夜の実験まとめないといけないから、また明日そっちに伺うね。」
「はい。本当にありがとうございます。」
「いいんだよ。そんなに謙虚にならなくて。」
ということで、俺は地図を見ながら一年生寮へと向かった。しかし、ご丁寧に文字まで読める。絶対に日本語じゃないのに。話している言葉も、よく考えたら日本語じゃないのに自然と話せている。本当に不思議な感覚だ。
「……なんだ?新入生か?」
……面倒臭そうなやつがいる。
寮の前にたむろしていた3人組の男子生徒。ブレザーに黒いローブ。皆同じ制服だ。雰囲気的に夜通し遊んだ後だろうか。怖い。
「…特待生だな。この時期に入るってことは。」
「私服だしな。」
ほう。この時期には転入とかができないのか。しかし、俺は特待生なのか?たしかに特別な待遇っぽい感じはするが、臨時の生徒と言った方がピンとくる。
こちらが困惑するほどにガン見する1年は、特に何も声をかけてくることなどもなく、ただじーっと見つめている。
何も起こるな。何も起こるな。そう念じながら、俺は寮へと進む。
無意識に目が泳ぐ。まずい。俺いつもどうやって歩いてたっけ?絶対にまだ見られてる。やべぇ急に殴りかかってきたり…
「おい。」
「なんでしょう!?」
咄嗟に気持ちの悪い声を出してしまった。
「お前…特待生だろ?裏口か?それとも実力か?学問推薦とかか?」
白髪の、いかにもな目付きをした男が、すごい剣幕で問う。
「…えっとその、いやぁその辺はよく分からないというか…とにかく特待生なんかじゃ」
「お前、何その態度。バカにしてるとしか思えないんだが。」
いやいやいやいやいや!そんなわけないじゃん!俺こんな萎縮してるんだよ!?死ぬほど猫背だと思うよ今!?
「しかもお前、特待生『なんか』って言ったよな?それ以上の、なにか特別な理由で入学したのか?」
「いやいや!それは言葉の綾というか…」
「こいつ、いちいちムカつくな。どっちにしろ気持ち悪い方法使って入学したんだろ。こんな実戦経験もなさそうなカモ。」
もう1人の黒髪で背のでかい、威圧感えげつない男が言う。
「え、えぇ…本当にすみま……」
いや、今の俺は前までの運動音痴ファイティングアビリティゼロ男じゃない。この体なら…この世界なら行けるのではないか?
「…あ?なんだよその目。やんのか?」
「……どいてください。邪魔ですよ。」
「……え?今なんつった?」
もう1人の男が、真顔で言った。
「別に私は喧嘩をしたい訳じゃない。寮に行きたいだけなんです。それに、同級生なんだからこんな敵対する必要うがっ!?」
俺の脳が相手の動きを認識する前に、右頬に拳がめり込む。
「がっ……うっ…」
「…お前、いい気になんなよ。こんなあまっちょろい拳を防ぐ程度の防御魔法すら持ってないなんてな?」
地面に横たわる俺を無理やり起こし、胸ぐらを掴む男。
「10発。10発殴らせろ。1人ずつな。そしたら許してやるよ!」
「や、やめろ…!」
胸ぐらを掴む手を外そうと、強く掴んでもがくが、圧倒的な力の差だ。ビクともしない。
「よっし、まずは1発……目……あぁ…」
胸ぐらを掴む男の力が抜けてきたと思うと、途端に膝から崩れ落ちる。
「え、ど、どうしたんだよ。」
「ま、まさか…こいつの魔法?」
残った二人は少し後退りをしてから、倒れた男を抱えてどこかへ行った。
「な、なんだったんだ?頭に血が上りすぎて貧血とかか?」
いやそんなことあるか?しかし、俺はあんな魔法取得した覚えもないし…まず魔法というものを使ったことがない。
「…っててて……人に殴られるってこんな痛かったっけ…」
この痛みは、何か嫌な思い出を想起させる。
『なぁ?俺の彼女だって知りながら手出そうとしたのか?』
そんなわけないだろ!俺は純粋に愛紗さんのことが…
『いやいやいや、誰が信じるんだよお前が弁明したところで。』
うぐっ……痛ってぇ……なんでそこまでするんだよ!知らなかったんだから…ぐっ…
『いやいや、知らなかったとかそういう問題じゃなくて、じゃあ、俺の彼女ってこと知らなかったら、誰でも愛紗とセックスしていいのかよ。』
そ、そこまでは言ってな……うぎゃあっ!
「うっ…吐き気がしてくる。」
しかしまあ、面倒なのも追い払えたところで、部屋探すか。
俺は木製の扉を開けると、地図を見た。
「……っと、410号室は……ここか。」
不人気だから空いていたのか、4階の、それも1番奥の遠い部屋だった。まあ、無料なんだし仕方ないか。
しかしこの寮広い。現代の高層ビルみたいな高さは、技術的に難しかったのだろう。4階建てに、横100メートル以上あるレンガ製。東京駅を死ぬほど横に伸ばしたみたいだ。
「さて、扉がいくつかあったが、何ヶ所か入る場所があったのか。それにしても端っこは遠いな。」
正面に3つほど扉があったが、3つとも中心寄りであったためどちらにせよ端っこは遠い。
「ここが410号室か…」
長い間使われていなかったのか、ドアノブがホコリを被っている。まあ、4階は結構入居者が少ないようだったから、ここが使われるのは随分と稀なのだろう。
「さて、一体どんな内装なのかなーっと……おぉ。」
中は意外と綺麗にしてある。まあ、使われていないのなら当然だ。窓すら開けていないからか、埃が舞っていることもなかった。
ワンルームで、家具はシングルサイズのベッドがひとつに、小さめのソファ。十分に勉強が出来そうなサイズの机に、普通の椅子。その他棚やタンスまで置いてあった。ここに1ヶ月泊めていただくなんて、本当にアードマン教授には頭が上がらない。
「さて、明日が授業なわけで、今日は時間があると。」
なんと言ってもまだ早朝の5時。この世界に来る前の俺だったら、あと9時間は寝ていたが、意外と早起きというのは悪くない。
と、俺が今日何をしたいかと言うと
「あっ、忘れてたよ。はいこれ。」
「ん?なんですかこれ?」
教授が俺に手のひらサイズの麻袋を渡す。
「ここに10000ソルト入ってる。日用品やら服やら好きに使うといい。」
「え、あぁ、ありがとうございます!こんなことまでしてもらって…」
ソルトと言うのは通貨の単位だろう。しかし、1ソルト1円換算でいいのか?それって言うと1万円くれたわけか。この世界の物価はよく分からないが、まあ頑張れば足りるだろう。
「じゃあ、今度こそ行ってくるから、明日はちゃんと出席するんだよ?」
「はい!」
「…ん、1000ソルト紙幣が5枚と…500ソルト貨幣が6枚…あとは100ソルト貨幣が20枚か。」
なかなか細かく入れてくれてるな。財布に100円が20枚とか、ゲーセン行く時くらいだぞ。
しかしこの世界も、だいたい金のシステムは同じらしい。1000ソルトは紙幣なのか。日本と計算が同じで助かる。
「じゃあ、とりあえず行くか。」
なすがままと言った感じで、俺はしばらくゆっくりした後、寮を出た。
「しかし、言語も分かって文字も読める。みんな元の世界と同じような顔立ちだし…俺だけ変に目立つことは無そうだ。」
だが、たまに人以外の種族も混じっている。あの鍛冶屋で真っ赤な鉄を打っている極端に小さい男は、おそらくドワーフ族だろう。エルフ耳の種族もいるし、ケモ耳のかわいい子も…
いかんいかん。どうせ自分から声もかけに行けないくせに、むしろ声をかけられても話せないくせに、良くないな。
寮の扉から長い一本道が続き、そこにはバザールのような市場がずらりと並ぶ。学生御用達という形を狙ってここにあるのだろうか。
しかし、色々なものが売っている。元の世界にもあるようなフルーツも沢山ある。バナナやらリンゴやら、名称まで同じだ。そういえば、食い物ってどうすればいいのだろうか。教授が食堂とかに連れていってくれるのか?いやいや、今日の分の食料は自分で確保しなきゃだよな。ってことは、この10000ソルトから、日用品に服に食料なんかを揃えなければ行けないのか?なかなかに厳しいな……
「おっ、兄ちゃん見ない顔だな。どうよ。うちはナインスピア名物の川魚料理が食えるぞ。魔力量の多い川で捕れたから、身も引き締まってて美味いぞ。」
と、真後ろから声をかけてきたのは、飲食店の店主らしい男だった。
「…えっと、じゃあ食べていこうかな。」
「毎度!」
押し負けた感がある。しかしまあ、めちゃくちゃに腹が減っているのも事実。転移前も、ろくな夜飯食ってないまま寝たからな。
「初めてなんでよくわからないですね。なんかオススメとか。」
「はいよ!当店限定の飛びっきりのやつ出してやんよ!」
ま、まあ、そこまで根は張らないだろう。それに寮の前だ。ぼったくりとかしてたら、すぐに客足は遠のくはず。
しばらく待つと、甘酢のような、とても食欲のそそる匂いがしてくる。しかし…なんか嗅いだことあるような匂いだな。
「お待ちどうさま。当店名物ヴィスカスだ。」
おっ、なんか嗅ぎ覚えがあると思ったら、餡掛けか。この店主、なかなかやるな。俺の好みを知っている。
味はとてもよく、この店名物として定着しているのも頷けた。
「ふぅ、美味しかったです。お勘定お願いします。」
「そうか!口に合ったなら良かったよ。」
と、店主は代金を提示した。
「…ご、50ソルト?」
「あ?どうかしたか?そんなに高いか?」
や、安くないか?ふと、俺はほかの屋台を見る。
バナナ1本7ソルト…リンゴ1個10ソルト…
意識して見ていなかったが、俺の思っていた計算と合わない。1ソルト10円という認識の方が合っているのか。それでいうと、教授は10万を、良くも知らない俺にポンっと渡したのか?
「お、おーい?もしかして金ないとかか?なんだったらツケにして置いてもいいぜ?」
この人いい人だな。
「いやいや、ちょっと考え事してて、はい。ご馳走様でした。」
と言って、俺は100ソルトを出す。
「あぁ良かった良かった。毎度あり!また来いよ!」
と、俺は店を後にした。
しかし、日本円にして10万ももらってしまったとは。服はもう一着くらい持っておくとして、他の日用品諸々合わせたところで随分と余る。まあ、明日返せばいいのか。
俺は衣服や授業のときに必要かもしれない筆記用具、そして歯磨きやタオルなんかの日用品を揃えた。歯磨き粉とかはなかったが、みんなそういうのは使わない文化なのだろうか。寛容なんだな。
俺は紙袋を持ちながら、寮へと帰る。しかし、今は昼休みなのだろうか。制服姿の生徒がよく視界に入る。
ってことは…
「あっ……お、おいクリス。来たぞ…」
「あっ…あの意味わかんねえ魔法使うやつか…」
いる。あの三人が。復讐しに来たのか?悪いが、次は全力で逃げるからお前らに勝ち目はないはずだ。
「……おい。ちょっとこっち来い。」
あぁ…おわた。逃げようにも、足があの三人に従わないという選択をさせてくれない。
「あの、私喧嘩とか強くないんで。まあさっきの見てくれたらわかると思いますけど。」
「ちげぇよ。今度はそういうのじゃねえって。」
といって右手を前に出す金髪男。なんだ?魔砲の詠唱でも始めるつもりか?
「……なんだ…まあ、いきなり殴んのはまずかったよな。悪かったよ。」
………はえ?
「お、俺たち三人とも、ギリギリで特待生の枠取れなくてさ。結局親に嫌な顔されながら学校通ってんだ。だから……遊び回った後ってのもあって調子乗ってた。俺からもすまん。」
このこら、意外といい子?確かにここの学校、日本で言う東大みたいな立ち位置っぽいし、ここに入学できる時点で、結構良い成績なのだろう。
「いや、全然。俺なんてああいうの慣れてるくらいだから。」
「ってことは、俺にここまでしかやり返さなかったのもわざとだったっていうのか?」
「やっぱすげえな。そういうところが、もう俺たちと違うんだもんな。」
あれれ。なんだか誤解されているような。まあいっか。この認識でいてくれれば、もう喧嘩ふっかけられたりしないだろうし。
「俺がクリスで、こっちの黒髪がハグット。でこの赤髪がマルノな。」
なんともカラフルだ。
「まあおんなじ寮生としてこれからよろしくな。なんかわかんないことあったら呼べよ?」
という形で、俺たちの喧嘩は幕を閉じたのだった。
「ふぅ…今日はなんだか新鮮だったな。」
と、ベッドに横たわる俺。そうは言っても、昨日も十分新鮮だった。ルネさんとの一件は度々フラッシュバックして悶えるが。
俺の異世界転移は最悪のスタートダッシュを切ったが、三人の元気なお友達(仮)もでき、このまま順風満帆といった感じで物事が進んでいく……はずだった。
「ん…教授かな?」
翌日、俺の部屋は静かにノックされた。
「あっ…良かった。寝ていたらどうしようかなと。」
まあ、別にやることもなかったしすぐ寝たしなんなら6時くらいには起きてたし今9時だし。こんな急に来るとは思っても見なかったが。
「今から授業ですか?」
「うんそうだね。記憶喪失の君には、1から全部教えこんであげないと。そしたら、どこかのタイミングで思い出すかもしれないしね。」
ああそうだった。この人授業をすることにとても興奮を覚えるタイプの人だった。
大学に着くと、1階のすぐそこのところにあった空き講義室のような場所で、だだっ広いところにただ一人座らされた。1番前の席に。
「おっほん。じゃ、これから授業を始めるアードマンと申します。」
「知ってます。」
「メイフ君。君はこの世界の歴史だったりというものは知っているかい?」
「知らないです。」
「そうかいそうかい。じゃあさくっと教えちゃおう。」
トントン拍子で進む授業。昔っから授業というものは大嫌いだった。人権を無視して人を束縛して、挙句の果てに知りたくもない知識を、嘔吐したくなるまで飲み込ませる。そんなことをして、教員はどんなことを大学で叩き込まれたのかとても興味があった。
しかし、教授の授業はとても長いこと聞いていられた。もちろん簡略化されている部分が多くあり、わかりやすいということもあるだろう。しかし、教授の教え方が上手いということや、俺がこの世界について無知すぎたこと、異世界の歴史は単純に面白いこと、と言ったことが重なり、とても時間が早くすぎた。
「で、長いこと全世界でドンパチやってたんだけど、28年前。ここ王国ナインスピアの王、トンクス様によって、全世界が平穏になった。それは、彼が強すぎたためだ。強すぎて、他国は彼に従うしかなかったんだよ。」
「強すぎたって、各国は軍隊を成して戦争をしてたんですよね?それを1人で?」
「そう。1人で。それも20歳という若さでね。彼はある一族の出身でね。それはもうすごい強さなんだ。おそらく、彼の全力の魔法をこの地にはなったら、この隣国の隣国まで消し飛ぶだろう。」
「そ、そんなに?」
「そんなにだよ。」
世界大戦的なことが終わったのは、意外と最近らしい。ってかこの国の王は何者なんだ?伝説を聞いているような気分だったぞ。
ちなみに隣国の隣国とか言っていたが、世界の広さは、地球と対して変わらないらしい。しかし、国は全てで6個しかなく、大陸は1つで、横幅に約20000km、縦幅に15000kmという、途方もないような広さになっているそうだ。
「さて、この世界の歴史は、まあ簡単にだがだいたい話しきった。なにか思い出すことは?」
「うーん…特には。」
「そっか。じゃ、1度休憩にしようか。3時間ぶっ通しだったからね。」
え?普通に1時間くらいの体感だったのだが。
体が変わったから時間感覚も変わったとかか?いや、そんな些細なこと、異世界転移した今更感じるもんか?
「……きゅ、休憩しないの?」
「あ、いやいや、してますよ。ちょっと考え事してただけで…」
「もうちょっとトイレ休憩とか間食とかさ。まあいっか。」
と、アードマン教授は隣に座ってくる。
「実際、言語は理解できるんだね。じゃあ一応、しっかりその言語が使われている地で生まれ育ったわけだ。」
「…はい。多分そうだと思います。」
昨日、部屋で嫌なほど試した。前の世界に関することは言えない。それが、誰かに自分が転移者であることを伝える意思を持ったものであれば。実際、日本語は話せるし、前の世界の固有名詞なんかも話せる。それは、こちらの世界の人には理解できないためだろう。
「それか、他の世界から何らかの原因によって転移、転生して、都合よく君の情報を書き換えられたとか?」
「…な、ど、どういう…」
「いやいや例えばの話だよ?たしか、昔の文献にそんな人達が書いてあったな。今度探してきてあげようか?」
「…お、お願いします!」
「や、やけに食いつくね。」
まさか、他にも俺と同じ症状の人が?それは是非とも知っておきたい。
その後もしばらく授業は続き、やっと俺の1番興味ありまくりだった、魔法の授業に移る。
「魔法とかの知識っていうのは、どのくらいあるの?」
「いや、よくゲームとかではやってたんですけど…実際はよくわからないです。」
「そのゲームとかはよく分からないんだけど、まあある程度のイメージはあるわけだ。」
すると教授は、どんどん板書を進めていく。
「はい。魔法の階級というのはこんな感じになってます。」
黒板に書かれたのは『低級』『中級』『上級』『真級』『皆級』の5種類。
「魔法には炎、水、木、闇、光、地の6属性があるんだけど、その中にも階級っていうのが存在しているんだ。低級がいちばん低くて、皆級が1番高い。」
それは文字列である程度察しがついた。
「しかし、世の中にはそれ以外の便利な魔法も存在する。どんなのか分かるかい?」
「えっと…治癒魔法とか、結界魔法だったりですか?」
「あれ、そういうのは知っているんだね。まあいいや。その通り。そういうのはまとめて『機能魔法』と呼ばれている。防御魔法とか、転移魔法とか、操作魔法とか。それらは特に階級はなくて、術師の練度で程度が変わってくる。基本、魔法は属性魔法と機能魔法の2種類だ。」
ある程度、魔法の認識は前の世界と大差ないようだ。
「というところで、これからこの魔法について詳しく授業していくわけなんだけど……」
と、アードマン教授の授業はものすごいスピードで進んでいき、ここの学生が基礎として身に着けている6年間分の知識を、噛み砕きまくって一週間程度でねじ込んだ。
「じゃあ、今日は予定通り実習だよ。とりあえず、今までの知識があればどれだけ弱くともできるはず。」
眼の前に置かれたのは小さなプランターに植え付けられた雑草。これは、雑草に魔力を送り込み、雑草の成長と操作を促すという、とても初歩的な魔法のトレーニングだ。ちなみに魔術師志望の生徒たちは、大体小学一年生程度でやる内容らしい。しかし、こういうのは詠唱がいらないんだな。てっきりいるもんだと思っていた。実際この世界でいう詠唱というのは、自分がなんの魔法を打つのか明確に意思決定をし、自己暗示する意味があるらしい。自分に『この魔法を打つぞ』っていう警告をしているニュアンスだろう。
まあいろいろ教わったが、泣いても笑っても、これは俺の初の魔法となる。気を引き締めて…この雑草に魔力を送るんだ…
「……?もうやってるかい?」
「……はい。」
「………」
何も起こらない。そんな…いやまあ、順当に考えればもともと、魔法の存在しない世界から来た俺に、魔法が使えるはずなんてなかったんだ。
「さ、最初は直接触れてやってみよう。大丈夫。そういう人も中にはいるよ。」
こんな才能ないやつ初めて見たって顔してましたよさっき。
仕方ない。一回触ってやってみるか。
葉に手をかざす形で触れ、目をつむり念じる。葉に魔力を送り込むんだ……
「………え…」
教授の詰まるような声で、俺は目を開けた。




