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助けてくれる注血娘

作者: 藤乃花

朱居千典あかいちのりは怪我をした動物や人に血を注ぐ能力を持つ、注血族だ。彼女が注血族という事は父、朱居千潮あかいちしおと母、朱居千麻芽あかいちまめも勿論注血族というわけ。朱居家は代々様々な種族が怪我をした際、血を注いで命を助けてきた。そして更には千典は目で見える怪我だけではなく、心の怪我まで治癒する能力も備わっている。(心の痛みの匂い……教室のどこからか伝わってくる。誰かが心に怪我をしてる)授業中、千典の嗅覚が強い反応を示した。一番後ろの席にいれば、たいていの怪我の匂いは分かる。血、という必要不可欠の物質には、特殊な質が宿っているもの。(体の怪我は勿論痛いけど……心の怪我はそれよりもっと痛いんだよね。早く怪我してる人を見つけて、注いであげたい)心の怪我を負った人は、放置していると取り返しのつかない事になる。救いたくても救えないようになる事を心の怪我人はしてしまうのだ。血の匂いの発信元を嗅覚を駆使し探るのだが、どうしてなのか位置を掴めずにいる。(あれ……変だな。いつもだったら手繰り寄せられるのに)先生からでもクラスメイトからでもない。皆授業に集中しているだけなのか、それとも千典が未熟なのか。いずれにせよ心に怪我を負っているのが誰か分からなければ、その人の心を救えない。(痛みの匂いを越えて……もっと内側に在る真実の心を……見せて!)痛みを訴えている存在へと千典が心の波を届けようとする。(見えた!)授業そっちのけで痛みを探す千典の脳内へと、痛みを届けている存在のイメージが移行した。イメージはまるで映像のように千典の中へ流れ込む。(ん……これって、その人から見た映像だな。目線が低い……身長が低い子みたいだ。廊下の、流し台に向かってる)見える場所はこの教室の前に在る流し台。流し台が映し出されたかと思うと、水道の蛇口から水が激しく放たれた。―痛い……―声が響いた。(この声……初めて聞く声。クラスにこんな声の子、いたかな?)覚えのない声が力なく響き、そして映像は途切れた。

「初めて聞く声、ね……」千典から話を聞いた千麻芽は、Tシャツとハーフパンツ姿で木の枝から着地し、掌の中の小鳥を見つめる。小鳥は羽根を怪我している。「そう、聞こえた声は印象に残るくらい綺麗で透き通っていたんだ。そんな声なら、すぐ分かるよ」千典の服装もTシャツとハーフパンツで、髪は動きやすいよう上にまとめている。二人がいるのは森林公園。「傷は浅いわね。怖がらないで」千麻芽は小鳥に囁き、怪我をしている部分に唇を近付ける。息を吹くように、フーッ……と、小鳥に血を注ぐ千麻芽。すると瞬く間に傷口は塞がり、小鳥は元気に羽ばたき出した。「ピッ!」囀りをそこに落とし、小鳥は飛んで行った。「「元気でね……」」千典と千麻芽は声を合わせ、小鳥を見送る。「うーん……本当、誰なんだろ」「千典が見た映像から分析すると、『低い目線』『流し台』『覚えのない声』のキーワードが揃ってるわね」分析が得意な千麻芽は重要なワードを並べ、千典自身が自ら気付くように誘導していく。「その教室に居ながら痛みを感じているのに、気付かれない存在……範囲が狭いからよく周りを観察してみて。きっと次は分かるわよ」「痛みを抱く本人を、私が見付けるべきなんだね」「その通り」誰かの非常ベルに気付けないなんて肩書きだけの、先生になれていない教師と同じだ。「絶対見付けて、救ってみせるよ!」「それでこそ、我が娘」「おーい!」向こうから千潮が走ってきた。彼も動きやすいTシャツとジャージのパンツを履いている。「この熊、怪我を治したらなついてきたよ」千潮の肩に少し大きめのツキノワグマが前足を絡めてじゃれている。「わお!」「大きいけど可愛いな!」「もうちょっとだけ、日課の密かな動物保護手当てしていくか」「この子の気が済むまでね」「父さんと熊って、ちぐはぐだけど相性ピッタリだね!」

自身が言った言葉に、千典はハッ、とする。(痛みの主……あの子、かも)

翌日早い時間に登校した千典は、教室の隅へと歩いていった。そして隅っこに置いてある机の上の一輪挿しを見つめた。活けてあるカキツバタから、痛みの匂いが伝わるのだ。「やっぱり……心に怪我をしてたのはアナタだったんだね」カキツバタに呼び掛けると、千典に応えるように痛みの匂いを届けてくる。―助けて……―「心の怪我、手当てするね」千典はカキツバタの花弁から茎にかけて唇を当てていき、心の傷口へと血を注いでいく。少しずつだがカキツバタに力が湧き始め、痛みの匂いがしぼんでいった。もう痛みは消えていた。―ありがとう―カキツバタが救われたという感じでこぼした声には、誰にも気付かれない悲しさが溢れていた。「わたしは気付いてるよ」千典は教室での朝礼で花係に立候補し、これまでの乱暴な花係を担っていた男子に頭からではなく、お願いするように小さな生き物をだいじにするよう説得した。「悪かったよ……」「分かってくれて、ありがとう」千典の言葉は乱暴な男子の心の病までも救う事が出来るのだ。特別で優しい注血娘、それが朱居千典。









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