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終わりの物語⑪


「え? トキ、マホウ? トキマホウって、時魔法? 完成したの?!」

『時間は、沢山あったからね。それに、セーラは、すでに体験しているよ』


 すでに、体験? 私が? 時魔法を??

 時魔法は、時間を操る魔法。時間を進めたり、戻したりする……って、まさかっ?!


「あの早送り機能は、夏目の仕業だったの?!」

『セーラの諦めが悪くて、困ったよ』

「あのねぇ〜! なんで、あんなことをしたのよ……って、私をセイリオスに会わせるために……ん?」

『どうしたの?』

「夏目が時魔法を使ったのよね?」

『そうだよ』

「どうして、トリカはそのことに気がつかなかったの? トリカなら、夏目の魔力に気がついたはずないでしょ?」

『あぁ。それは、ペンダントのおかげだよ。このペンダントは、代々シェラタン家の当主になる者が身につけることになっている。そして、自分の子どもが学園に入学する時に、次期当主へ渡す。そうやって、代々受け継がれてきたものなんだ』

「……だから?」

『魔法具の説明からした方がいいね。トルマリンに魔法を封じ込めることによって、魔法具は作成される。一度作られた魔法具は、半永久的に使うことができる。なぜだと思う?』


 確かに、トルマリンに封じ込める魔力量は、さほど多くない。それなのに、何度も使えるのは、どうしてだろう。もしかして……


「……魔法具の、持ち主の魔力を使っている?」

『本人の気が付かない微量の魔力を、ね。所持しているだけで、少しずつトルマリンが魔力を蓄えているんだよ』

「だから、夏目の魔力はペンダントの魔力に紛れてわからなかったのね。でも、ヴィーにつけられた首輪は? アークトゥルスには魔力がないから、トルマリンは奪うことはできないでしょ?」

『アークトゥルスは魔法が効かない種族。彼らに使う場合、なぜかトルマリンに封じ込められた魔力が減ることがないんだよ』


 そういうことね。だから、ヴィーの首輪からはペンダントからは感じない古い魔力を感じた。ペンダントは……ん? ちょっと、待て。 


「魔法が使えるなら、どうして? どうして、夏目は閉じこまれたままでいるの?」

『それは…………。ねぇ、セーラはどこまでわかっている?』

「それほど多くは、わかっていないと思う。だいたいの大筋が、わかっているくらいかな。夏目は、トリカにステラ・マリス神殿の地下に閉じこめられた。閉じ込められたのは……たぶん、私がここに戻ってトリカにトルマリンの話をした後。私が持ってきたトルマリンによって、魔法を封じられた。ここまでは、合っている?」

『うん、合っている。でも、一つ追加したいな。僕は閉じ込められる前に、セーラからの手紙を読んだんだよ』

「え? 手紙? 手紙って……私が書いた??」

『うん。魔力感知魔法で、セーラの居場所を探している時にね』


 私を探している時? ドアは……未来じゃなくて、過去に繋がり、過去の夏目が受け取った?


『セーラからの手紙を読んで、すぐにトリカたちを説得したけど……上手くいかなかった。何度も説明したけど、まるで壁に話しかけるようなものだったよ。トリカもアルゲティも、まったく話を聞いてくれなかった』


 そうだろうな、と思った。きっと、二人は……聞かなかった。聞く余裕なんて、なかった。


 アルゲティの纏っていた、狂気の魔力を思い出す。アルゲティは、シャウラを失って、その悲しみに耐えられなかった。アークトゥルスを憎むしか……アルゲティには、気持ちの持って行き場がなかった。

 トリカは……トリカには、アークトゥルスを憎むなとは言えない。まだ子どもだったトリカが、耐えた苦痛。あんなことをされて、正気を保っていられただけで凄いと思う。

 トリカは、凍った湖の上に立っていて、その氷は薄くて、少しでも動いたら割れてしまう――そんな精神状態だったんじゃないかな。だから、トリカには……アークトゥルスの真実を受け入れるだけの余裕はなかったんだ。きっと、夏目の何気ない言葉で、その薄い氷が簡単に割れてしまった。


「夏目が説得してできなかったのなら、誰がしても無理だったと思う」

『説得したかったんだけどね。僕は、今まで無理だと思ったことはなかった。実際、自分の思い通りになっていたし。だから、あの時は自分の無力さを感じたよ。そして、もしものための保険として、二つの魔法具を作った。使わないで済むはずだと、自分に言い聞かせながらね。その一つをトリカに渡して、もう一つを……』

「ルクバトに渡した。ルクバトの本名は、ルクバト・シェラタン。シェラタン家は、代々聖職者の家系。ステラ・マリス神殿に残って、夏目の手助けをしたのが、ルクバトだった。ルクバトは、夏目の話を信じたから。でしょ? だから、シェラタン家にナヴァガトリアがあった。ナヴァガトリアの本当の名前は、ナヴァガトリカ。トリカの同じ名前で、トリカの瞳と同じ色のパライバトルマリンがはめ込まれたペンダントのこと」

『合っているけど、一つ訂正。パライバトルマリンの名前は、元々“ナヴァガトリア”だよ』

「なんで? トリカのことが好きだから、トリカの名前を付けたんじゃないの?」

『僕が知らない人たちに、トリカの名前を呼ばせるわけがないでしょ』

「夏目……その発想、やばいわよ」

『どこが?』

「ううん、夏目は夏目だからね。それで、いい。むしろ、夏目らしいわ。とにかく! ルクバトは、夏目の手助けをしてくれた。でも、夏目ならルクバトに助けてもらわなくても、魔法具を壊せたでしょう? どうして、逃げなかったの?」

『それが、トリカの魔力と僕の魔力の相性がよくてね。僕は、ルクバトに助けてもらうまで、本当に意識が朦朧としていたんだよ。とても、魔法具を壊すことなんてできなかった。そして、ルクバトが来てくれたのは…………セーラが死んだ後だった。だから、ルクバトを説得したのは僕じゃない。セーラだよ』

「え?」

『ルクバトは、セーラが言った言葉が忘れられないと言っていたよ。……ごめんね、セーラ。何もできなくて』


 夜風のような冷たい風が吹いた。私は、慰めるように手を伸ばし、風にふれる。


「夏目が謝ることじゃない。私も……ごめん。もう少し早く、戻って来るべきだった。もし戻っていたら……。でも、たらればの話をしても仕方ない。もう起きてしまったことより、これからどうするかだよ。そのために、私を転生するようにトリカに頼んだでしょ?」


 冷たかった風が、小さな温かみを帯びた風に変わった。安心して、ゆっくりと手を下ろす。


「ねぇ、夏目。夏目はトリカに……なんて、お願いをしたの?」

『セーラをもう一度、セイリオスと出会わせてあげてって。でも、まさか、こんなに長い時間がかかるとは思っていなかった』

「……どうして、トリカは夏目言うことを聞いたんだろう。トリカは、夏目が私のことしか頭にないって言っていた。夏目の愛が、自分じゃない相手に向けられたと絶望していたのに……それなのに、どうして?」

『トリカだから、だよ』

「答えになってない」

『トリカは、優しいんだよ』

「夏目の“優しい”の概念が、間違っているから。私もトリカのことは、憎めないよ。助けたいって思う。だけど、トリカのしたことは……最低だよ」

『それって、メサルティムのこと?』

「そうよっ! あんなひどいこ……」

『トリカは、してないよ』

「え?」

『トリカは、そんなことできない』

「でも……夏目を閉じ込めている」

『僕は、怒ってないよ。それだけ、トリカが僕を好きってことだから』

「……夏目、凄いね。…………うん。夏目が気にしてないなら、私が言うことは何もないよ」

『納得がいかない?』

「そんなことない。大切なのは、夏目の気持ちだもん」

『ねぇ、セーラ。この世界の魔法が衰退した理由は、何だと思う?』

「リゲルが『黄道十二星座』を書き換えたからでしょ?」

『どうして、リゲルは魔法書を書き換えたと思う?』



 それは…………どうしてだろう??


 

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