悲しい物語③
トリカと会ってから、三日経った。だけど、この部屋に訪れる人は誰もいなかった。正確には、三度の食事を運んできてくれる人がいたけど、会話も目すら合わせてくれず、怯えたように去っていく。
このままで、いいはずがない。
どうにかしないと……。
そう思うのに、頭がうまく働かない。トリカの言葉が、私を動けなくさせている。
後悔ばかりが募ってくる。私は、戻ってくるべきだった。魔力が戻った時点で、すぐに戻ってきていれば……二人は死なずにすんだかもしれない。今も、みんなで一緒にいられたかもしれない。
安全な場所への移動が終わっていたからと、軽く考えていた。アークトゥルスの真実を知って、全てが簡単に解決すると思った。こんなことになっているなんて、想像もしていなかった。何も知らずに、私は……
――ダメ! しっかりして!!
今は、後悔している時じゃない。これ以上の悲しいことが起きないように、行動を起こさないと! 冷静になって、考えるのよ。
全身で大きくため息をつくと、右手の指先でしばらくこめかみを押さえた。気持ちを落ち着かせないと、そう思った。
しっかりしなさい、しっかりしなさい、しっかりしなさい……自分に言い聞かすように、何度も繰り返す。そして、自分の抱える感情を頭の左右に振り分けるように、軽く頭を振った。
しっかりして、大丈夫だから。
私なら、どうにかできる。
自分を信じるの!
やっぱり……ここから、出ないと。ここにいても、誰も来てくれないだろう。トリカが言っていた『レグルス』の意味はわからないけど、たぶん裏切り者的な言葉なのだと思う。
自分の手首にある、冷たい手錠。
青く光る、トルマリン。
トリカにアークトゥルスの話は信じてもらえなかったけど、あのトルマリンに似た石が魔法石になる話は信じてくれた。まぁ、その場で試してみせたから、信じてくれるも何もない。実際に見たものを信じない人は、いないだろう。でも、その結果……こうやって自分が拘束されているのだから、皮肉としか言いようがない。
私の手錠には、“魔法を使わせない”魔法がかかっている。だけど、本気で外そうと思えば外せると思う。トリカより、私の魔力の方が強い。
問題は、外した後のこと。
解錠した後に、どれくらいの魔力が残る? 瞬間移動の魔法を使うことは、できる? 使えたとしても、ここから逃げた私の言葉を信じてくれる? でも、ここから出ないと話すらできない。
はぁ~~。この堂々巡りの思考をどうにかしたい。こういうのは、本当に苦手。ぐるぐる考えていても、ダメな気がする。一か八かで、やるしかない! いい考えが思いつかないなら、行動あるのみ! 手錠を外して、瞬間移動魔法で、夏目のところに行く。きっと、夏目なら私の話を聞いてくれる!
そう決心して手に目をやると、両手を強く握っていることに気づいた。広げると、手のひらに爪の赤い痕がついていた。また握る。強く、痛いほどに。
――大丈夫、上手くいく!
夏目なら、直接話せばわかってくれる!!
魔法を使おうと大きく息を吸ったと同時に、静かな部屋に扉の開閉音がした。私の目は手から扉へと移動し、部屋に入ってきた人物を捕らえた。
そこにいたのは、ずっと会いたいと願った人だった。




