はじまりの物語⑬
目を覚ますと、温かい腕に包まれているのに気がついた。魔力不足で冷えているはずの体が、温かかった。セイリオスが私を後ろから抱き寄せ、腕枕で寝かされていたのだ。
守られていると思った。
怖いと言ってから、まだ時間も経っていないのに。この感じたことのない安心感にまだ包まれていたくて、もう一度目を閉じた。
温かい、腕。温かい、ぬくもり。
こんな風に抱きしめられるのは、変な気分だった。違和感がある。でも、それと同時になんとも言えない心地よさがある。気をつけていなければ、セイリオスがそばにいることに慣れてしまいそう。
もう一度、目を閉じたかったけど、いつまでも寝ているわけにはいかない。起き上がろうとすると、「起きたのか?」と耳元で声がした。その声が妙に甘く、胸がモヤモヤするのを隠そうと「おはよう」と言って体を起こそうとしたが、腰を掴まれる。でも、怖いとは感じない。
――アークトゥルスは“アーク”と“トゥルス”に分かれている。
不思議とセイリオスの言葉を疑うことなく、信じている自分いる。もしかしたら、大きな過ちかもしれないけど……セイリオスを信じて大丈夫だと思ってしまう。
セイリオスが、私の髪を撫でる。その手が温かくて、信じていいと言われているみたいだった。
「セーラは、番がいるか?」
――――はぁ?!
つっ、番……?
「ごめん、聞き取れなかった。今、なんて言ったの?」
「番の相手は?」
「……番って?」
「唯一の相手」
……唯一の相手?
結婚しているのか? と、聞いているのかな。それなら、答えは簡単だ。
「いないわ」
「番いたいと思う相手は?」
……番いたい、相手?
結婚したい相手って、ことよね。
「いないわ」
「俺は?」
……え?
言っている意味が、理解できない。いま、結婚相手の話をしていたのよね? 俺はって? どういうこと??
セイリオスを見ると、とても優しい目をしていて息が止まるかと思った。そんな私に、セイリオスはもう一度同じ質問を繰り返した。
「俺は? 俺は、セーラとずっと一緒にいたい」
だから、どういうこと?
一緒にいたい? 私と? ……それって、番として?
「…………私と番になりたいってこと?」
「あぁ、俺はセーラがいい」
「だけど、私は人間だよ」
「だから?」
待って! 待って!
そんな返しがくるとは、思ってなかった。
「あ~、アークトゥルスは……誰とでも、番になれるの?」
「番う相手は、一人だけだ」
……違う。私が聞いたのは、そういうことじゃない。
「セイオリスはアークトゥルスで、私は人間なの」
「あぁ、知っている」
「私たちは、種族が違うのよ」
「それで?」
それで? その質問、おかしいでしょ??
もしかして……
「……アークトゥルスには、人間と番うものなの?」
「いや、普通は同族同士だ」
「それなら、なんで……私?」
「セーラの笑顔を見たい」
思わず顔をあげると、セイリオスと目が合った。目を逸らしたいのに、逸らすことができない。
セイリオスが、舌で自分の唇を舐めた。
その動作に自分の体温が上がり、心が波立つのがわかった。動揺を隠そうと、手を握りしめる、
「セーラが好きだ」
セイリオスが私の頬を手で包み、親指で下唇をなでた。その感触に体がビクッと身震いしたけど、セイリオスの手を振り払うことはできなかった。
「セーラは、俺が嫌いか?」
「……嫌い……ではない」
その質問はズルいと思う。そう言いたくても、言葉が出てこなかった。セイリオスが、あまりにも嬉しそうに笑うから。
セイリオスの顔を見ていられずに俯くと、セイリオスは触れていた手をおろした。視線をそらしていても、セイリオスの視線を感じずにはられなかった。
今まで感じたことのない感情が湧いてくるのに気づき、顔をしかめた。
……そんなはずあるわけない。




