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はじまりの物語①


 ここは、どこ? 

 これは……なに?

 どういうこと?

 どうして?

 なんで?


 そんな疑問を抱えた日々を過ごし、今はもう諦めに似た気持ちで自分の状況を受け入れている。私は、いま流行りの異世界転生というのをしたらしい。いや、……らしいじゃない。


 ――完全にした。


「正確には異世界“転生”じゃなくて、異世界“転移”だよ。僕たちは、()()()()()()異世界に来ているからね」

「!? 夏目、とうとう私の考えてまで読めるようになったの!?」

「そんなわけない。セーラは、さっきからずっと声に出しているから」

「え? 私、口に出していた?」

「うん」



 ――そう。

 私たちは、異世界“転移”をした。



 放課後に一緒に食事をしようという話になり、二人でエレベーターに乗った。そして、エレベーターから降りたら…………この世界に来ていた。


 どうして、こんなことに?

 ――理由なんて、分からない。


 気がついたら、知らない場所に知らない人たちに囲まれていた。全員が古代ローマのような服を着ている。半袖の上にチュニックを着て、シーツのような一枚布を体に巻きつけていて、その布の色は、人によって違う。

 その中で、長袖に紫の布を巻きつけたおおばあちゃんが、布と同じ紫の瞳で私たちをじっと見つめていた。

 おばあちゃんは、ブロンドの長い髪を結いあげていて、その髪が陽の光でほんのりとピンク色に見えた。そして、ゆっくり近づいてくると「ステラ救世主・マリス」と言って、私たちに頭を下げた。ううん、これも正確に言うと、私じゃなくて、夏目に。


 ――夏目は『ステラ救世主・マリス』らしい。


 ……ねぇ、おばあちゃん。

 顔で決めてない?


 私たちは、外見重視のおばあちゃんに呼ばれて、私たちのまま……異世界“転移”をしたらしい。

 これも正確に言うと、私たちの外見は今までと全く同じというわけではない。この世界の私たちは、髪と目の色が違っていた。


 ――黒髪が、シルバーブロンドに。


 はじめは、ショックで白髪になったのか思ったけど、夏目曰く、白髪とシルバーブロンドは違うらしい。白髪は、髪の色素が抜けて文字通りの真っ白のこと。シルバーブロンドは、ブロンドのうち、殆ど色素がない色のこと。


 ――黒い瞳が、「海と陸」を表しているようなアースアイに。


 瞳は青い部分と黄色、オレンジがまざった複数色をしている。まるで「海と陸」を表しているようなそんな色。そして、その瞳は光の当たり方によっては見える色が変わる。光の加減で青と黄色に見えたり、緑とオレンジに見えたりする。アースアイと呼ばれる瞳だ。


 本当に、地球のような色だと思う。


 瞳も髪も単体で見ると、とてもキレイだ。だけど、私の顔に合っているとは言い難い。日本人顔にシルバーブロンドとアースアイなんて、似合うわけがない。だけど、"普通の日本人は"と付け加えたい。なぜなら、夏目は似合っているから。

 夏目は規格外だから、当たり前なのかもしれないけど……どうして、同じ日本人なのに、違和感がないの? 『昔の美人は、今のブス』という言葉がある。だから、異世界に来たら『美』の認識が違ってもいいはずなのに……おばあちゃんの態度からわかるように、夏目は異世界でも美の顔面暴力で次々と出会う人をノックアウトにしている。


 世の中って、不公平だよね。


 私だって、ブサイクなわけじゃないと思う。ただ隣にいるのが、夏目。夏目の隣にいる私は、『へのへのもへじ』にしか見えないのだろう。もう慣れているから、いいけどね。長年の経験で傷つくこともないし、むしろ通常運転で異世界でも同じことに落ち着く気持ちにさえなってくるから不思議だ。


 これぞ、夏目マジック。


 とりあえず、「この世界では、自重してよ」と一言忠告だけはしておいた。私のこの優しいアドバイスに夏目は「さすがに僕もこの状況では、大人しくしているから安心してよ。それに、運命の相手に出会えるかもしれないしね」と返してきた。この状況で、運命の相手を探せる夏目のメンタルの強さに脱帽したよね、うん。転んでもただで起きない男、それが夏目なのだ。

 

 とにかく! そんなわけで、私たちは世界を救わなければならないらしい。


 そのために、どうする? って、話でしょ? 普通なら、こうしてくださいって、教えてくれるでしょ?



 なのに、

 おばあちゃんたちは、


 ――まさかのノープラン!!!



 信じられる? 勝手に呼んでおいて、おんぶに抱っこだよ!!


 この世界に来たばかりの私たちに、どうにかしてくださいって言うだけで方法を考えていない。『ステラ救世主・マリス』を呼び出せば、それだけで助かると思っている!!


 なんていう、人任せの考えなのよ! 少しは自分たちで、考えなさい! と言いたい。だけど、相手がおばあちゃんだから、強くは言えない。…………やっぱりお年寄りには、優しくしないとね。


 それで、私たちは二人で世界救出作戦を練っているわけ。だけど、世界救うって漠然としすぎていて、何をどうしていいのかわからない。

 おばあちゃんたちに話を聞くと、この世界にはアークトゥルスという化け物がいて、その化け物をやっつけて欲しいという話らしい。

 「あなたたちなら、できます」って、断言されたけど…………私たち、ただの高校生だからね! 化け物と戦ったら、即死亡よ。


 そして、もう一つ。


 この世界は子供が生まれづらくなくなり、無事に生まれても長く生きることができなくなった。そして、この十年は子供が生まれていない。このままでは、人間は滅びてしまう。だがら、どうにかしてほしい!!


 ……って、無理だから!!!


 名門と言われる進学校に通っているとはいえ、高校生の私たちにできるわけがない。それに、子供ができない理由として考えられるのは……排卵の問題、卵管の問題、着床の問題など様々。女性側ではなく、男性に問題がある場合もある。しかも、この世界の場合は、数組の夫婦間だけではない。


「ここ十年も子供が生まれていないとなると、他に大きな問題があるのだと思う」

「夏目の意見に、賛成。そんなに長い間、誰も妊娠さえしないなんでおかしいよ。きっと、個人の問題じゃない。うーん。例えば、何かの影響によって細胞の中のDNAが損傷を受けたとか?」

「その場合、破壊された遺伝子情報を正確に復元しなきゃならないね」

「……どうするのか?」

「相同な配列を持つDNAを見つけ出し、その領域をコピーする」


 ……って、私たちでどうにかできるレベルの話じゃないから! と言いたいけど、めちゃくちゃ期待を込められた目で見られたせいで、笑って曖昧に濁すしかなかった。ノーと言えない日本人です、はい。だって、おばあちゃんの圧がすごいのよ。


 そんなわけで、私たちは全くどうしていいか分からない中で、助けてくださいと言われ続けているのである。


 ほんと、つらい。せめて、プランを組んでから召喚してほしかった……。唯一の救いは、夏目と一緒に来たこと。夏目に任せておけば、どうにかなるだろう。



 ――はっ!!



 ……なんてこと!

 これじゃあ、おばあちゃんたちと同じ発想じゃない! こんな考えは良くない!



 よし! 夏目!!



 この問題を解決するわよ! 

 私は、やればできる女!! 黙って、私について来て!!

 

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