表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/102

父の手紙


 お父様からもらった手紙の存在を思い出したのは、初めてラカイユ滝を見た時だった。


 ラカイユ滝とは、オービット国を南北を分断するように国の真ん中を流れるミアプラキドゥス川にある滝の名前。

 普通、滝は川の流れに対して直角方向にあるが、ラカイユ滝は違う。ミアプラキドゥス川の流れに沿って、側面に長い段差があるように横から水が落ちて、滝になっているのだ。しかも、川に沿って約十㎞にわたって続いていており、その滝の川底から沢山のトルマリンが産出される。

 トルマリンが滝の川底から採れるなんて、私たちの常識からしたらあり得ないことだけど、signの世界ではそれが常識。そして、オービットには最大規模のラカイユ滝があるため、資源豊かな国と言われるようになったというわけ。

 実際に見るラカイユ滝は、すごかった。本当に、その言葉しか出てこない。大量の水が五十m以上の高さから流れ落ちる迫力に、その爆音に、思わず漏れた声は、誰の耳にも届くことはなかった。

 真っ白に泡立つ滝に見入っていると、突然虹がかかった。その時、閃くように手紙のことを思い出した。


 家に戻って、すぐにペンダントから取り出す。


 封筒を使わずに一枚の紙を折りたたんであるだけのお父様からの手紙は、受け取った本人しか開けられないように蝋を溶かしてつけたられたシェラタン家の紋章が刻印されていた。


 中を開くと、真っ白だった。


 だけど、手紙から微量の魔力を感じる。手をかざし、その魔力をなぞると、文字が浮かんできた。

 手紙には、シェラタン家に戻るための方法やその後の奇病にかかるまでの流れなどが、整った文字でぎっしりと書かれていた。それだけではなく、お父様に聞きたかったヴィーの首輪のことも綴られており、文面にアークトゥルスという単語はなかったけど、犬には闘いの本能があり、その本能を抑えるために、犬は首輪を付けている。だから、決して外してはならないとあった。

 

 首輪を作ったステラ・マリスは、犬の本能を抑えようしていた。そして、それを闘犬のためのものとして使うようにしたのは……リゲルだと思う。闘犬の基礎を作った時代に、強い魔法を使うことができたリゲル。


 あのサイコが言っていた言葉が、頭に浮かんできた。


『同じ人間でも条件が少しでも違えば、結果は変わってくる。君は、アークトゥルスが奴隷扱いされているという条件の世界で金瞳を選んだ。この最初の条件が違っていたら、君の行動も考えも変わってくる。たとえ、同じ人間であってもね』


 もしかしたら、私が転生したのは初めてじゃなくて、前の私は……アークトゥルスを憎んでいたのかもしれない。

 オルビタに行ってから、見るようになった悪夢。あれは……ただの夢じゃなくて、私の過去の記憶?


『君は、オルサ国の妃にもなれたんだよ。王子にも愛されて、二代に渡って寵愛されることができた』



 その言葉に合う人物。



 王に愛されて、妃になった人。

 王子にも愛されて、妃になった人。



 ――――リゲル。



 オルサ国の至宝の輝きと謳われた人。

 ベテルギウスの妃で、闘犬を見る時だけ笑顔を見せた人。

 魔法の基礎を作り、本当の魔法を隠した人。



 その人は、……リゲルは、私だった?



 あまりに飛躍しているとは思うけど、もしそれが正しいとしたら……あのサイコが『選ぶはずのない相手を選んだ』という言葉もしっくりくる。


 私は、昔……アークトゥルスを憎んでいたのかもしれない。



 ――でも、昔の私は……私ではない。



 気持ちを切り替えるようになって、目を閉じて大きく息を吐く。



 ――私は、私。

 たとえ、私がリゲルだったとしても関係ない。今の自分を信じるしかない。

 

 目を開け、手紙の続きを読む。文章の最後には、馬車の中で言われた言葉が書いてあった。


『信じると決めた相手を、最後まで信じなさい。そして、一度繋いだ手を決して離してはいけない』


 お父様が……また、私の背中を押してくれる。



 窓から外を見ると、雲一つない青空だった。何もかも吸い込んでしまうような青がそこにあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ